クアラルンプールで腕立て伏せ

 

十二月初旬、カサネに頼まれた披露宴の「ウェルカムポスター」を書き始める。

 

クアラルンプール(今後は長いのでKLと書く)までは十三時間の長旅だ。夕食(あるいは夜食)を取ってから、父にもらった睡眠剤を「お友達」にして五時間ほどグッスリ眠る。しかし残りの六時間余が長い。目が疲れるので、本を読んだり映画を見たりするのは極力避け、「アバ」と「ウェストライフ」で過ごす。

飛行機は、インドを横切り、その後ベンガル湾を横切っていく。インドを横切るのに一時間以上かかり、ベンガル湾を横切るのには二時間以上かかった。地球は結構広いんだ。

KLは雨、飛行機から降りると、窓の外はすっかり夕闇に包まれていた。

空港で僕は当てが外れた気分だった。前回オーストラリアへ行くとき、シンガポールのチャンギー空港で乗り換えた。そこには大きなレストラン、ショッピングモールなどがあり、食べる場所には事欠かなかった。しかし、ここクアラルンプール空港はそれほど大きくないし、食べる場所も見当たらない。ミドリにまた絵葉書を出そうかと思うが、それさえも売っていない。(実はもうひとつターミナルがあり、そこには店がいっぱいあったのだが。)

一万円をマレーシアの通過「リンギット」に両替したら三百六十リンギット戻ってきた。つまり、一リンギットは三十円弱ということになる。

ずっと座りっぱなしなので、極力歩くことにする。八百メートルほどある空港の端から端までを三往復し、途中で人目のない場所を選んで、腹筋、背筋、スクワット、腕立て伏せなどを入れる。時間はいっぱいある。気温は二十七度とのこと。少し汗が出た。

バーはあるので、ビールは飲めそうだ。インドへ行く際、クウェート空港で乗り換えたときには困った。敬虔な回教国ということで、空港でもビールは売っていなかった。回教国とは言え、マレーシアは戒律がそれほど厳しくないらしい。

バーに入りビールを注文する。運動の後は冷たいビールが美味い、セルフサービスの食堂を見つけ、ラーメンを注文して食べる。ラーメンが十リンギット。ビールが三十リンギット。だから、ビール一杯はラーメン三杯の値段。ラーメン一杯が三百円弱というのは妥当だと思うが、中ジョッキ相当のビールが九百円というのはちと高い。実は、後日KLからペナンへ向かう飛行機の値段も千円ほどだったのだ。空港で飲むビール一杯の値段が、それから乗る飛行機の値段と変わらないなんて。

ここまで来ると、待っている客の九十五パーセントがアジア人。いつもヨーロッパ人に囲まれている僕は少し変な気分だ。

真夜中に関空行きの飛行機は飛び立つ。到着まで六時間眠れることを期待する。しかし、実際は四時間飛んだところで、食事の時間になり起こされた。朝の四時に食事なんか欲しくないのに。

金曜日の朝七時前、飛行機は無事関西空港に到着。

「機関銃を持った兵士が立っていない空港はいいよなあ。」

と一緒に降りた男性が言った。

 

これがそのポスター。二人の似顔絵が結構似ていると評判だった。

 

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