ミュージカル:「オクラホマ!」

20121月)

 

雨の石畳

一八五七年に作られたダーラムのヴァイアダクト(鉄道高架橋)石造りのアーチが美しい。

 

末娘のスミレ、別名ポヨ子がミュージカル「オクラホマ!」に出るというので、妻のマユミとスミレの住むダーラムまで行くことになった。大学が主催するミュージカルのオーディションに、スミレが受かったことは既に知っていた。暮れにスミレが帰って来た時に、その公演が一月に一週間に渡りあることを知った。スミレは家にいる間、よく「オクラホマ!」のナンバーを唄っていた。

一月末の金曜日、休みを取り、朝九時にロンドンを出て北へ向かう。ダーラムまで片道五百キロ弱、スミレの送り迎えで既に何度も往復した道だ。今回も妻とふたり、交替で運転しながら高速一号線をひた走る。北へ向かうにつれ、天気が悪くなり、何度か激しい雨に見舞われる。スコットランドに近いダーラムは、ロンドンより四度から五度は気温が低い。今回も一月の末ということで、雪や道路の凍結を心配していたが、今日の気温ならその心配はなさそう。

「おしっこ休憩」を二度取り、その度に運転手を交代しながら、午後二時過ぎにダーラムに着いた。スミレは授業に出ていて四時ごろにならないと帰って来ない。彼女の家の近くに車を停め、街に散歩に出かける。スミレの家の窓には「オクラホマ!」のポスターが貼ってあった。

小雨が降っている。ダーラムにはこれまでスミレを送って三度来たが、いずれも雨が降っていた。そう言えば、ダーラムでお天道様にお目にかかったことはまだ一度もないような気がする。単なる偶然なのか、それとも北の地はロンドンにも増して天気が悪いのか。

スミレの住む家から「ヴァイアダクト」と呼ばれる鉄道の高架橋を潜り、旧市街に出る。この高架橋は十九世紀の中頃に作られたもので、非常に高い。石造りのアーチが見事な弧を描いている。

世界遺産に指定されたダーラムの旧市街は、何時来ても良い場所だ。「ペニンシュラ」(半島)と呼ばれる川が大きく蛇行した丘の上に、荘厳な「ダーラム大聖堂」が立っており、ペニンシュラ全体を、鬱蒼とした木々の濃い緑が覆っている。道は石畳で、両側の建物はおそらく何百年も前から立っているに違いない。

大聖堂まで来ると携帯電話が鳴った。スミレからだ。講義が終わったので、これから家に戻るという。「マーケット・プレイス」(街の中心の市の立つ広場)で会うことにし、雨に濡れて滑りやすい石畳の道を注意しながら下る。

スミレと落ち合い、彼女の家に戻る。車を家の前につけて、持ってきた布団等を運び込む。(今日はスミレの部屋で、三人で眠ることになるのだ。)

「オクラホマ!」の公演は、火曜日から土曜日までで、水曜日と土曜日にはマチネ(昼の部)もあるという。七時半の開演に備えて、五時過ぎにスミレは劇場に出かけていく。六時ごろから、買ってきたピザを焼いてマユミとスミレの部屋の床に座り、ピクニック風の夕食を取る。

 

スミレの家の窓に貼られていた、「オクラホマ!」のポスター。

 

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