蜜蜂

元々牧草地だった場所に木が植えられた。二十年でずいぶん大きくなるもの。

 

次に僕たちが訪れたのは、ペーターとメヒティルトの農園と家だった。シロー、ラニ家のすぐ近く。「ホワイト・ロック」と書かれた家の前に車を停めると、黒い犬が迎えてくれた。この家の犬、ミッキーである。坂を上がって家に近付くと、奥さんのメヒティルトが出て来られた。ご主人のペーターは、トラクターを借りに行って留守とのことだったが、間もなく帰って来られた。

ペーター、メヒティルトご夫妻はドイツ人、十七年前からこの場所に住んでおられる。先に訪れた、シロー、ラニと同じく、牧草地で、草以外何もなかった斜面を整地し、家、牧場、農園を作った。しかも、それらを全て自分たちの手でやったと言うのだからすごい。

同じ有機農場と言っても、ペーターとメヒティルトの場所は、趣がかなり違う。芝生はきれいに刈ってあり、「秩序」と呼ぶのも変だが「人の手」が加わっている。また、彼らはヴェジタリアンではないので、家の裏の斜面には牛が飼われている。トラクター始め、電動や、モーターで動く農機具も使われている。

「自然に自分たちの力を与え、その代わりに自然からの恵みを得る。自然と人間は『ギブ・アンド・テイク』の関係、それが私たちのモットーなの。」

と奥さんのメヒティルトが言った。

 ここのお家のトイレが面白い。「コンポスト・トイレット」。座ると、便器の中に真横に仕切りがあり、オシッコは前、ウンコは後ろに行くようになっている。つまり、男でも、座って用を足さねばならない。そして、ウンコの方には「おがくず」を掛ける。これが、トイレの下のタンクで保存され、コンポストとして使われるのである。家の隣の倉庫には、ありとあらゆる食物がビンや容器に入れられて保存されていた。

シローとラニの家でもそうだったが、ペーターとメヒティルトの家にも、蜜蜂の巣箱が置いてあった。僕は数年前、蜜蜂が果樹に大きな役割を果たしていることを知った。ロンドンの家の庭にあった五本のリンゴの木に、ほとんど実がならない年があったのだ。ちょうどその年は、リンゴの花の咲く頃、雨が多く、蜜蜂がほとんど飛べなかったという。

ペーターに蜜蜂の話を聞いているとき、頬を蜂に刺された。蜜蜂なら刺されても大事はない。刺された辺りを指で触ると、針が残っていた。ミツバチは刺した後、針を残し、針の取れた蜂は死んでしまうと聞いたことがある。彼らも命がけで刺しているのだ。

メヒティルトに、自家製のライムのシロップの入ったジュースと、自分の家で採れたプラムで作ったケーキをご馳走になる。家の前のテーブルに座り、咲き乱れる花を見ながら食べた。お土産に、ペーターが自分で仕込んだというワインを貰う。

 さて、ペーターのメヒティルドの家の前には「ホワイト・ロック」と書いてあった。彼らの敷地の一番上、山の頂上に大きな白い水晶の塊が露出しているという。ペーターたちはそこまで登山道を付けたとのこと。片道四十五分くらいかかるので、次回改めて、登らせてもらうことにする。

 

メヒティルトと。食糧保管庫の上には土があり草が植えられ、温度が一定に保たれるようになっている。

 

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