ご機嫌いかが

 

今日もニューポートには巨大な地中海クルーズの船が入っている。

 

五月十八日。六時前に目を覚ます。直前まで夢を見ていた。髪の長い、丸顔で色白の、ワインレッドのスーツを着た女性が出てきた。寡黙な、なかなか良い雰囲気の女性。しかし、起きてから考えてみて、その夢の女性が、これまで出会ったどんな女性にも似ていないのに気付く。夢というのは、単に過去の出来事を再現するだけではなく、全く新しいキャラクターも創り出してしまうものなのだろうか。

 例によって、「パパとママ」のベランダで「お勉強」。間もなく「ママ」が散歩から帰って来る。いつもの「カリメラ」(おはよう)の他に、今日は、

「ティ・カネス?」(ご機嫌いかが)

と聞いてみる。

「カラ」(グッド)

とのこと。通じると嬉しい。 

 これも例によって、魚のアラのスープに、サラダ菜とタマネギを入れて、味噌汁を作る。美味しい。スープを取った残りの魚は、猫にやるので、魚は全く無駄なく使われている。

 八時過ぎにマユミが起きてくる。デロススーパーまで車で行き、そこでパンを買う。その後、ミコノスタウンのレンタカー屋へ行く。車を返すと、お姉さんが、僕のクレジットカードの控えを、目の前で、ビリビリと破いた。

 そのまま、オールドポートまで歩く。今朝、ニューポートにまた巨大な客船が着き、そこから大勢の乗客が街に繰り出しているせいか、街には人通りが多く、九時前だというのに、店は皆開いている。今日は魚を買わない。最後の夜なので、夕食は、どこか「洒落た」「ロマンティックな」レストランで食べることになっている。

マユミは街のパン屋で、クロワッサンを買って朝食代わりに食べている。子供達に少し土産を買う。平たい目玉のようなガラス細工が、こちらの特産だという。娘のミドリに一個買い求める。

しかし、ミコノスタウンは迷路だ。同じ場所を偶然二度通ることはあっても、意識的に同じ場所に行けない。例えば、第一日目に、僕は公衆便所に入った。しばらくして、そこの便器の写真を撮ることを思いついたが、結局戻れなくて撮れなかった。その便所へ、今日もう一度行きたいのだが、今回も、捜すのに三十分くらいかかった。

しかし、その三十分の間に、色々な物を発見する。そのひとつが学校。街の真ん中に学校がある。小学校と中学校が合わさった学校なのか、小さい子も少し年長の子も一緒に校庭で遊んでいる。狭い、アスファルトの校庭。金髪の子供と、黒髪の子供がいるのが面白い。遊んでいる子供達を見ているのは飽きない。

天気は良いが、風は強く、波も高い。特にリトル・ベニスは、波がまともにぶつかり、海に面したテラスで食事でもしようものなら、五分以内に波の飛沫でビショビショになってしまいそう。

 

ミコノスタウンの学校。金髪の子と黒髪の子の両方がいる。

 

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