七番目の波

 

魚の残りをきれいさっぱり片付ける猫さん。

 

アパートに戻り、マユミも鯛のアラの味噌汁で朝食。その間に僕は買ってきた魚を三枚に下ろす。味噌汁のダシを取った後、鯛の目玉を食べる。これが美味しい。美食家の北大路魯山人によると、西園寺公望は、魚屋にタイの目玉だけを注文していたという。

 最後に残った骨と尻尾はいつもの猫にあげた。猫は骨までカリカリと食べている。三十分後に見ると、魚の残骸は跡形もなく消えていた。僕は、子供の頃から、焼き魚などを綺麗に食べる方だった。頭と骨と尻尾だけを残し綺麗に食べてあるのを見て、母が、

「猫泣かせやね。」

と言ったのを思い出す。猫が、

「おいら、もう食べるところがないよ〜。」

と言って泣くというのだ。(この場合、「鳴く」のではなく「泣く」。)しかし、実際、猫はそれくらいのことでは泣かない。骨や尻尾も美味しそうに食べてしまうのだ。

 昼前に、車でペンションを出発。ドライブに出かける。今日は島の南側にあるビーチを巡ってみようという予定。相変わらず雲の多い天気で、ときどき小雨がパラパラとやってくるが、車のワイパーをつけるほどでもない。

 先ず、昨日行ったアノ・メーラの村を通り過ぎ、島の東側にある小高い山へ向かう。しかし、山の上にはギリシア軍のレーダー基地があり、一般人は近づけなかった。海岸沿いのデコボコ道を時速十キロで走る。曇り空ということで、今日は海の色はイマイチだが、付近の島々が良く見えて、それが楽しい。

 ミコノス島はキクラデス諸島の中のひとつ。「キクラデス」は英語の「サークル(輪)」と語源を同じにするという。この辺りは、島が輪のように連なっており、どの海岸へ行っても、海を隔てた島々が見える。ちなみに、その輪の中心が一昨日渡ったデロス島とのこと。

途中、昔の鉱山の跡を通る。何を掘っていたかは不明、今はゴミ捨て場になっていた。

さて、「ビーチ巡り」の最初は、リアというビーチ。両側を岬で囲まれた湾の奥にある。シーズン前なのと、天気が悪いので砂浜には誰もいない。砂浜のデッキチェアに座って、波を眺めている。普通はデッキチェアを使うと金を払わねばならないのだが、今日はその集金のお兄ちゃんすらいない。

打ち寄せる波を見ていると、同じリズムのようで、時々パターンが変わるのが分かる。昔、スティーブ・マックイーン主演の「パピヨン」という映画があった。無実の罪で、絶海の孤島に送られたパピヨンは、これまで誰も成功したことのない、その島からの脱出方法を考える。そして、七番目に大きな波が来ることを知る。彼はココナッツの実で作った筏を抱いて、七番目の波に合わせて海に身を躍らせる。

確かに、パピヨンの観察は正しい。六回目から七回目には、それまでと違うパターンの波が来るようだ。まあ、パピヨンにしろ、僕にしろ、お互い、そんなことに気が付くのは、基本的に暇なのだろう。

 

曇っていると海の色ががらっと違う。

 

<次へ> <戻る>