「マルレーネ」

Marlene

 

ハニ・ミュンツァー

Hani Münzer

(2016)

 

<はじめに>

 

第二次世界大戦の末期、ドイツとポーランドで、ナチス政権を倒すために戦った不屈の女性、マルレーネの物語である。九十歳を超えた彼女が、自伝を口述筆記させる形式で話が進む。二部作の続編ということだが、後の方を先に読んでしまった。

 

<ストーリー>

 

二〇一二年十二月。ポーランドのクラカウ。九十六歳になったマルレーネは、自分の過去をオリビアに口述筆記させている。秘書のオリビアはヨランタの孫であった。マルレーネは、自伝を、自分が死んでから発表するように、オリビアに命じる。

 

 一九四四年七月。シュタウフェンベルクがヒトラー暗殺に失敗した翌日、デボラと弟のヴォルフガングの疎開を助けるためにミュンヘン来たマルレーネは、防空壕から外に出る。デボラは、アルブレヒト・ブルンマンの囲い者になっていた。マルレーネがミュンヘンに着いた日から、街は激しい空襲を受け、マルレーネは丸二日間、防空壕の中で過ごした。彼女がデボラの住んでいた家を訪ねると、そこは完全に破壊されていた。住人は皆死んだとマルレーネは聞かされる。

マルレーネは被災者を助けるための赤十字のテントを訪れる。彼女は、再びナチ政権に反抗する、レジスタンス活動に参加する決意を固めていた。マルレーネは、少年に後を付けられていることに気付く。彼女はその少年を呼び止める。少年は、自分はスパイであり、マルレーネもスパイであること知っているという。少年はマルレーネを叔父のマンフレッドの家に連れて行く。帽子を脱いだ「少年」を見て、マルレーネは驚く。髪が長い。女の子だったのだ。ぶっきらぼうで、男のような口を聞くその少女は、十五歳で、トゥルーディという名前であった。

マンフレッドもレジスタンスの一員であった。マンフレッドは、前回失敗に終わったワルシャワでの蜂起を、もう一度起こすことを計画していること、そのために優秀な指導者が必要なことをマルレーネに伝える。そして、マルレーネに蜂起に参加するためにポーランドへ行って欲しいと依頼する。マルレーネに元より異存はない。ワルシャワで蜂起の準備を進めているのは、前回の蜂起を指揮し、失敗したあと地下に潜っているイツァク・ツッカーマンであった。

マンフレッドの用意した、偽造身分証明書を手に入れ、マルレーネは看護婦のグループに紛れ込んで列車でポーランドへ向かう。列車の中で、マルレーネはトゥルーディを見つけて驚く。トゥルーディも一緒にポーランドへ行きたいと言う。マルレーネは、自分たちに予測される危険な任務を考え、トゥルーディにミュンヘンへ戻るように説得しようとするが、トゥルーディは付いて来る。列車は何回もパルチザンの襲撃を受け死者を出す。そして、何度もルートを変えながらも四日後にポーランドの国境の町ポゼンに着く。ワルシャワに向いたいマルレーネとトゥルーディは、そこまでの許可証しか持っていなかった。

マルレーネは、ブラウスの上のボタンを外し、許可証を地面に落とし、拾うときに兵士の目が自分の乳房に向けられるように仕向ける。その隙に許可証を見せる、いわば、色仕掛けで突破しようと試みる。しかし、ふたりはナチスの高級将校と思しき男に呼び止められる。マルレーネは将校が着ている軍服がブルンマンのものと同じものであることから、彼の地位を知り、

「親衛隊中佐閣下。」

と呼び止める。気をよくした高級将校、ディートリヒ伯爵は、マルレーネとトゥルーディをワルシャワへ向かう列車に乗ることを許可しただけでなく、ふたりを自分の車室へと招待する。伯爵は、自分が貴族の生まれであることが自慢の種だった。マルレーネは自分も貴族の出身であることを暗示し、また看護婦の服をドレスに着替え、伯爵を懐柔する。マルレーネは、足手まといのトゥルーディを別の車室に追いやり、彼女から離れることに成功する、

ワルシャワ駅に着いたマルレーネは駅前で偶然エルンストに会う。ナチス親衛隊の将校であるエルンストは、マルレーネに恋をしており、前回マルレーネが突然ワルシャワを去った後、ずっと彼女の行方を捜していた。エルンストの車に乗ると、窓ガラスを叩く音が。トゥルーディであった。マルレーネは行きがかり上、彼女を連れて行かざるを得ない。エルンストはマルレーネとトゥルーディをホテルへ連れて行き、ふたりに豪華な食事を持ってくる。

エルンストは本来エンジニアであり、政治的な関心は薄かった。しかし、自分が開発した軍事技術が、多くの人を殺したことに自責の念を持っていた。彼はマルレーネにぞっこんで、自分のいうことなら何でも聞くと、マルレーネは考える。

マルレーネは、エルンストを利用することに決める。トゥルーディをホテルに残し、レジスタンスのリーダーと会うために、マルレーネはエルンストの車で待ち合わせた場所へ向かう。車を停めたところ、誰かが窓ガラスを叩く。見つかってしまったのではないかとパニックに陥ったエルンストは、銃を抜く。そして誤って発射してしまう。弾はエルンスト自身の足に当たる。車の窓ガラスを叩いたのはトゥルーディだった。銃声を聞きつけて誰かがやってくる気配がある。エルンストは車を発車させようとするが、車が動かない。彼らは、間もなく数人の男たちに取り囲まれる。それは、レジスタンスの指導者イツァク・ツッカーマンとその仲間たちであった。彼らは負傷したエルンストを手当てし、彼の車を修理する。

ツッカーマンはマルレーネに、軍用列車を襲い、武器を奪取する作戦への協力を求める。しかし、エルンストの情報では来る予定であった軍用列車は来ない。僅かな武器で蜂起は行われるが、憲兵隊に鎮圧される。太腿に銃弾を受けたマルレーネは、農家に潜んでいるところを憲兵隊に押し入られ、逮捕される。彼女は怪我の痛みで気を失う。

マルレーネが意識を取り戻すと、豪華な調度のある寝室のベッドの中にいた。SSの制服の上に白衣を着た医師が彼女の世話をしていた。医師はペーター・フリーリンクと名乗る。マルレーネは、医師の中に自分のかつての恋人であったヤコブの面影を見る。しばらくして、伯爵が入って来た。彼がマルレーネを助けたのであった。伯爵はマルレーネが自分より位の高い貴族の跡取りであることを知り、彼女に接触したのだった。伯爵はマルレーネに対し、自分と結婚しなければ、強制収容所に送ると脅す。マルレーネはしぶしぶ承知する。翌朝、伯爵は牧師を連れて現れ、結婚式の真似事をする。

その日の夕方、マルレーネの寝ている部屋の窓ガラスを叩く音がする。トゥルーディであった。トゥルーディは、マルレーネに、近くに巧妙にカムフラージュされたトンネルが掘られており、そこに軍用列車が入っていったことを告げる。トゥルーディはそこで、ナチスの重要人物を見たと言う。その名前を言おうとしたとき、伯爵が入って来て、トゥルーディは慌ててベッドの下に隠れる。伯爵は、マルレーネに関係を迫る。マルレーネが犯されそうになった瞬間、トゥルーディが後ろからナイフで刺す。マルレーネは窓からトゥルーディを逃がす。自分は秘密の扉の後ろに隠れるが、主人が殺されたことに気付いた召使が憲兵隊に通報、マルレーネはブルンマンの手の者に捕らえられる。かつてマルレーネに利用されたことを恨むブルンマンは、マルレーネをアウシュヴィッツに送り、「マダム・バタフライ」に預けるよう部下に指図する。

マルレーネは、貨車に乗せられて、他のユダヤ人たちと一緒にアウシュヴィッツに向かう。列車を降りた者たちは、すぐに殺される「右」と、収容所に留置される「左」に分けられる。足の怪我で歩けないマルレーネは死を覚悟するが、何故か「留置」の方に送られる。彼女は足の痛みで気を失う。

マルレーネが次に気が付くと、自分はベッドに寝かされており、目の前に頭にターバンのような布を巻いたアジア人の女性が立っていた。ヨランタというその女性は、収容所の中で、ナチスの将校のために、売春宿をやっていた。「マダム・バタフライ」と呼ばれる彼女は、容姿の良い少女を見つけてはピックアップし、その少女たちを訓練してナチスの将校に与えていた。ボールマンはルレーネをユランダの下に送ったのであった。ユランダの率いる売春組織は、日本の芸者、置屋をモデルにしたものだった。

アウシュヴィッツの病棟でも、フリーリンク医師が働いていた。マルレーネの傷は彼の治療で快方に向かう。傷の癒えたマルレーネはヨランタの組織で、ナチス将校に対する売春婦として働き始める。客の接待のためにクラカウのホテルに出かけたマルレーネは、そこでエルンストに会い、トゥルーディがアウシュヴィッツに居ることを知る。マルレーネは、ユランダに懇願し、トゥルーディを収容所から連れ出すことに成功する。しかし、トゥルーディは発疹チフスで瀕死の状態であった。しかし、フリーリンク医師の治療が功を奏し、トゥルーディは快復する。フリーリンク医師は、マルレーネに、自分はSSの一員だが、実はレジスタンスの組織の協力者である、つまりマルレーネの味方であることを告げる。

トゥルーディもヨランタの売春組織で働くことになる。マルレーネは、自分とトゥルーディを救ってくれたフリーリンク医師を愛するようになる。売春先で、客から乱暴を受けて少女が死亡したり、負傷したりする事態が頻発し、少女たちが客から持ち帰る食料も激減、ヨランタと少女たちも腹を空かせ始める。

ある日、売春婦の定期健診にきたペーター・フリーリンク医師が、前日ヒトラーを診察したと告げる。ヒトラーはクラカウに来ていたのだ。ペーターは目隠しをされ、トンネルの中に停車した列車に連れて行かれたが、ときどき目隠しの間から辺りを観察し、場所を特定していた。マルレーネはエルンストと、パルチザンの一員であるハインリヒにその旨を告げる。ハインリヒは、トンネルに停車中の列車を爆破しヒトラーを殺すことを計画する。マルレーネはその日、ペーターと関係を持つ。翌日、仕事を理由に外出したマルレーネとトゥルーディは、エルンストの車でヒトラーの列車があるトンネルへ向かう。ハインリヒの用意したダイナマイトを車輛の下に置き、マルレーネがスイッチを入れようとしたそのとき、車が到着し、ペーターが車両に乗り込むのが見える。

「ペーター許して。多くの人を救うためなの。」

マルレーネはダイナマイトのスイッチを入れる。マルレーネは爆発し腕を負傷し気を失う。エルンストは、マルレーネ、トゥルーディ、ハインリヒを乗せて、車で逃亡を図る。

マルレーネ一行は、ナチスのSSに止められるが、マルレーネは彼らを巧みに懐柔し、無事にワルシャワの駅に帰りつく。そこから、マルレーネとトゥルーディはミュンヘンへの列車に乗る。混雑するプラットホームで、マルレーネは自分が最も会いたくない人物の顔を見た。列車が次に停車したとき、ブルンマンに引き連れられたSSの一団が列車に乗り込んでくる。マルレーネとトゥルーディはアウシュヴィッツに連れ戻される。

マルレーネは縛り付けられ、トゥルーディがナチスの兵士に犯されるのを見なくてはならなかった。ふたりはヨランタの元に戻される。しかし、ヨランタの組織も解散が命じられ、ヨランタとその庇護の下にあった少女たちは、裸にされバラックへと移される。彼らは死を覚悟するが、手榴弾の工場を経営する男に雇われて、そこの工場で働くことになる。そこも劣悪な環境であったが、少なくとも収容所よりはましな建物と、僅かながらの食料もあった。マルレーネは爆発物を少量ずつ持ち帰る。彼女はその爆発物を爆発させる。工場内は混乱に陥り、マルレーネは工場の外に逃げ出すことに成功する。

エルンストが彼女を拾う。彼は、知り合いのポーランド人の司祭に協力を依頼し、自分とマルレーネを地下室に匿わせる。マルレーネは残してきたトゥルーディたちのことを心配しながらも、その地下室で七週間を過ごす。ある日、司祭が、ソ連軍がアウシュヴィッツに到達したことを告げる。エルンストとマルレーネは、地下室を出てアウシュヴィッツに向かう。マルレーネはそこで、収容所を解放したソ連の司令官と話し、収容者の仲に隠れているナチスの人間を探し出すことに協力をする。マルレーネはそこで、ヨランタと再開する。ヨランタは息子を連れていた。マルレーネはここ数週間で、多くの少女たちが死亡したことを知る。トゥルーディは行方が分からなくなっていた。マルレーネは妊娠していた。それは、ペーター・フィーディング医師の子供であった。

祖母がヴィースバーデンに居ることを知ったマルレーネは、ヨランタと共にドイツを横切る旅に出る。ソ連軍の司令官は、彼女の協力に感謝して、身分証明書を発行してくれていた。旅の途中、マルレーネは、ドイツが無条件降伏をしたことを知る・・・

 

<感想など>

 

ナチスと戦う若い女性、マルレーネの話。九十六歳になった彼女が自伝を口述筆記させるという形態で始まる。マルレーネは第二次世界大戦中、レジスタンスの女闘士であった。彼女はナチス親衛隊の中佐、ブルンマンに取り入るため、色仕掛けでブルンマンに迫っていたことが暗示されている。彼女は一度ワルシャワでの蜂起に参加、しれは失敗に終わり、追われる身となる。再び蜂起に参加するためにワルシャワへ向かう。途中で、ナチスの別の高級将校に脅され、彼の妻となる。結局、蜂起はまた失敗し、彼女はブルンマンに捕らえられ、アウシュヴィッツに送られる。そこで、彼女はナチス将校のための売春婦として働くことになる・・・まさに波乱万丈の物語だが、どこか軽薄さを感じる。

主人公は死なない。いつも困ったところで救いの手が差し伸べられる。またトゥルーディがいつもマルレーネを困らせる役割を演じる。そこには、女性の好きな「ソープオペラ」の要素がある。ご都合主義、ステレオタイプの登場人物などである。しかし、それも当然。女性作家のハニ・ミュンツァーは一九五六年生まれのドイツ人、ウィキペディアによると「ベレストリスティック」、「娯楽小説、大衆小説」の作家として位置付けられている。ものすごく深刻なテーマを扱う、時間的にも空間的にも壮大な物語なのであるが、毎週主人公が窮地に陥るところで「続く」となる、テレビの連続ドラマを見ているような印象がつきまとった。

アウシュヴィッツ収容所内で、ヨランタがナチス将校のために経営する売春組織は、日本、置屋のシステムを範にしたものだという。若い女性、つまり芸妓に、歌や踊りを習わせ、ナチスの将校の宴会に派遣するシステムなのだ。ヨランダはアジア系の女性で、その日本の置屋システムを、香港で学んだことになっている。まさに、この辺りが「そんなのあり?」と、ソープオペラ的なものを感じ取ってしまう。アウシュヴィッツの日常を描きながら、収容された者の本当の苦悩が伝わってこない。

前作「甘い死」(Honigtot2015年)がベストセラーとなり、その続編であるという。確かに、前作の出来事が、色々な場面で登場する。しかし、読んでみようかという気は余り起こらなかった。「アマゾン」で大々的にベストセラーとして宣伝している本であるが、その作者についての情報は余りにも少ない。また、ドイツ語だけで翻訳出ていない。私が感じた「ものたらない」、「薄い」という印象が、そのまま表れているような気がする。

アマゾン・ドイツのこの作品の紹介に、「愛」、「復讐」、「嫉妬」をテーマにした物語という文があった。的確な表現である。戦後の「後日談」にも四分の一くらいのページが割かれており、その部分の方が、戦争中の部分より面白い気がした。

 

20173月)

 

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