「冬の夜の火事」

原題:Vintereld(冬の火事)

ドイツ語題:Winterfeuer Nach

2018

 

 

アンデシュ・デ・ラ・モッツ

Anders de la Motte

 

 

<はじめに>

 

二〇一五年、スウェーデン犯罪小説作家アカデミー賞に輝いたアンデシュ・デ・ラ・モッツ。警察官、セキュリティー・コンサルタントという異色の経歴を持つ。テンポの良さ、みなぎる緊張感で、長尺の小説を一気に読ませる。

 

<ストーリー>

 

ヘッダは、サウナの後、湖に足を浸けていた。彼女は三十年前の出来事を思い出す。ラウラ、ジャック、ペーター、トマス、イベンの、五人の子供たちが彼女の休暇村に滞在していた。聖ルチアの夜の火事で、イベンは死亡。彼女は、それ以来、罪の意識に苛まれながら生きてきた。薬とアルコールに依存しながら。数週間前、ヘッダはある人物の訪問を受けた。彼女は自分の休暇村を売らないかというオファーを受けた。その時以来、

「ひょっとしたら人生をやり直せるかも知れない。」

と思うようになった。彼女はそのことをラウラに伝えようかと思う。

「自分はあの子たちを見殺しにしたんだ。」

その思いが彼女を思いとどまらせる。胸が苦しい。彼女は医者に心臓の病気を指摘されていたが、構わず酒を飲み、マリファナを吸い、サウナに入っていた。誰かが背後に近づく。ヘッダはそれが誰であるか知っていた。ヘッダは振り向かないで、背後の人物に言った。

「あんたが誰か、分かっているわ。私がどれだけ知っているかを、知りたいんでしょう。」

 

 ラウラ・アウリンは、友人のステフの企画した夕食会に来ていた。彼女は四十五歳、父親から引き継いだ信用調査会社を経営していた。しつこく会話に入って来る男がいる。

「信用調査会社って、何を調べて何が分かるんだ。ちなみに俺を調査してみてくれ。」

と男は言う。ラウラは、

「あなた妻がいるのに他の女性と付き合っている。見栄でポルシェに乗っている。最近増毛の手術を受けた。」

と次々に言い当てる。驚く男に、

「数日前、あなたのことが書かれた新聞記事を読んだのよ。」

と、ラウラは種を明かす。食卓は笑いの渦に包まれる。その中で、笑い過ぎて、髪の毛を蝋燭で焦がした女性がいた。髪の焦げる臭い。ラウラは席を立ち、慌ててトイレに駆け込む。髪の焦げる臭いが、彼女に昔の事件を思い出させ、吐き気をも催させた。気分が戻り、食堂に戻る途中、ラウラは携帯に電話が架かっていたことに気付く。彼女がその番号に電話をすると、ホカンソンという弁護士が出る。叔母のヘッダが亡くなり、遺言状で、ラウラが全ての遺産の受取人に指名されているという。

 土曜日の午後、ラウラはマンションのプールで泳いでいた。彼女に泳ぎを教えたのはヘッダだった。彼女は長袖の水着を着ていた。彼女の肩から背中には火傷の跡があったのだ。ラウラは部屋に戻る。外は雪が積もっている。彼女は母親のマデリーネ・アウリンに電話をする。母親はピエールというボーイフレンドとマヨルカ島に住んでいた。母親は息子の弟マルクスが、家族を連れて滞在しているという。ラウラの弟のマルクスは、彼女と一緒の会社で働いていた。

「ヘッダ叔母さんが亡くなったの、知ってる?」

とラウラは母親に聞く。母親は知っていた。ラウラは、叔母の死を弁護士からの電話で知り、次の土曜日に行われる葬儀に出るつもりだと母親に言う。叔母と仲の良くなかった母親は興味を示さない。

「ジャックのために行くんじゃないの。」

と母が言う。

「ジャックはあんたを見殺しにしたのよ。もう、関わり合いにならない方がいい。」

母親は電話を切る。

 ステフとラウラは、フィットネスクラブでのトレーニングを終えた後、ジュースバーで話していた。二人は二年前会い、その後、親友になっていた。

「じゃあ、母親を怒らせるために、スコーネ地方に行って、叔母さんの葬式に出るわけ?」

とステフが言う。ラウラは、叔母と自分との関係をステフに話す。

「自分がティーンエージャーの頃、両親の仕事の関係で香港に住んでいた。学校の休暇でスウェーデンに戻ると、叔母のヘッダの休暇村で過ごしていた。ヘッダは、ヒッピーの生き残りのような人物で、絵を描き、陶芸をやり、自分で服を縫った。子供のいない叔母は自分を実の子のように可愛がってくれた。自分が十五歳のときの冬、聖ルチアの夜、他のティーンエージャーたちと休暇村のダンスホールでパーティーをしていた。その会場が突如火に包まれ、一番の親友だったイベンが死んだ。その後、自分は病気になり入院し、両親は自分を香港に連れ帰った。しかし、それ以来トラウマで、常に悪夢にうなされている。ヘッダには何度か手紙を書いたが、叔母は返事をよこさなかった。」

そして、ラウラは付け加える。

「ヘッダ叔母のところに行くのが好きだったのには、もうひとつ理由があるの。好きな男の子がいたのよ。」

 ラウラは会社に出る。アウリン・コンサルティングはストックホルムの一等地にあり、中は父の時代から変わっていない。母が手を入れささないのだ。また、父の頃からいる古手の社員が会社の中では幅を利かせていた。そんな中で、ラウラはストレスに耐えながら、社長業を続けていた。ラウラはインターネットで、一九八七年の秋から冬にかけての地元新聞を調べる。

「十月から村では三回の火事が起こり、村人が心配し始めていた。そして、十二月の聖ルチアの夜、六人のティーンエージャーが集まっているダンスホールが燃え、四人が火傷を負い、一人が死亡した。警察は、それまでの火事と関連があるとみて、連続放火事件として捜査をした。そして、その容疑者の若者が逮捕された。」

という内容であった。ラウラは帰り道、二年前に別れたアンドレアスからの電話を受ける。彼らは娘を設けたが、死なせてしまい、ふたりは二年前に離婚。ラウラがわずかな物だけを持って、一年前、今のマンションに越して来ていた。アンドレアスは、次の土曜日は亡くなった娘の命日なので、一緒に墓参りに行こうという。しかし、ラウラは、ヘッダの葬式に行くことに固執する。

「私たちは離婚したのよ。お互いに干渉しないで、自分の道を歩んだほうがいいわ。」

そう言って、ラウラは電話を切る。ラウラは、家の物置に二つの箱を置いていた、それが唯一、昔の住いから持ってきた物だった。そこには、父親の形見の彫刻と、アルバムがあった。一枚の写真は、一九八七年の夏、湖の桟橋で撮られたもので、六人の若者が写っていた。

 ラウラは車でスコーネ地方に向かう。彼女は三日間ヴィンターイェ村に滞在し、叔母の葬儀に参列し、休暇村を売る手続きをするつもりだった。目的に近づくにつれ、彼女は暗い気分になる。彼女は、自分が単にジャックに会いたいために、ここへ来たことを知っていた。ジャックと会ったのは一九八七年が最後だった。病院にいるラウラをジャックが見舞いにきたのだった。その後、ジャックはスウェーデンを去った。ジャックは太って禿げているかも、妻と子があるかも知れない、そう思うとラウラの心は沈む。車が村に着く。ラウラは自分が去った後、村は時間が停まったように変わらないと想像していた。しかし、村は大きく変わっていた。

 ラウラは休暇村に入る。建物は朽ち果てていたが、ヘッダの住んでいた家は、かろうじて立っていた。彼女はそこで弁護士のホカンソンと会う約束をしていた。ホカンソンが現れ、ラウラは遺産相続の書類にサインをする。そして、土地を出来るだけ早く売却するように弁護士に依頼する。弁護士はヘッダの遺体が発見されたときの様子を語る。郵便配達人が湖に浮いているヘッダの死体を見つけたという。ラウラは休暇村の鍵を受け取る。

 ラウラは、ヘッダに死因に引っ掛かりを感じる。

「湖の精に会ったことがある。」

と公言するほど、湖を熟知していたヘッダが、湖で溺れることなどあり得るのだろうか。ラウラは、受け取った鍵でヘッダの家のドアを開ける。家の中は、酒のビン、煙草の吸殻、食事の残りなどで一杯、ゴミの山であった。おまけに猫がおり、家の中は悪臭に満ちていた。ラウラは、ヘッダが自分と連絡を絶ってから、酒、煙草、ジャンクフード、自虐の中で暮らしていたことを知る。

「これからあんたは私の後始末をするのよ。あんたが、両親や弟の後始末をしたように。」

そんな声をラウラは聞く。ラウラは、家と土地をさっさと売ってしまい、出来るだけ早くこの土地と無関係になろうと決心する。猫が走り出す。ラウラはそれを追って、家の奥に入る。そこに清潔に保たれた部屋があり、整えられたベッドがあった。その部屋はラウラの寝室で、三十年前にラウラが去ったときと同じ状態に保たれていた。

 

 一九八七年、冬。フランクフルトからコペンハーゲンに向かう飛行機の中。ラウラは中年の女性の隣に座っていた。女性は、ラウラの持っている、写真に興味を示し、色々質問してくる。それは、六人の若者とヘッダが写っていた。ラウラは、

「叔母のヘッダには子供がないが、子供好きで、自分も含めた色々な子供の世話をしている。」

と女性に話す。ヘッダは、近所に住むイベン、ペーター・トマスのベビーシッターをしている他、ジャックの里親でもあった。イベンはスポーツ万能で、写真ではジャックを挟んでラウラの反対側に立っていた。イベンはジャックに寄り添っているように見えた。ペーターとトマスは、夏の間休暇村の仕事を手伝っていた。ラウラは、

「自分は香港のインターナショナルスクールに通っているが、長い休暇の間は、叔母のヘッダのところで暮らしている。」

と言う。隣の席の女性は、

「きっと良いクリスマス休暇になるわよ。」

とラウラに行った。

 ジャックは空港の到着出口で待っていた。ラウラはジャックとハグする。この瞬間を夏からずっと待っていたのだった。ジャックは、夏、別れ際、ラウラにキスをしていた。しかし、ラウラはイベンも一緒に来ているのに気付く。二人きりの時間を期待していたラウラは少し失望する。三人はジャックの運転する車で、フェリーで海を渡り、休暇村に向かう。イベンは寝てしまう。ラウラは、ジャックの顔に、落ち着かない表情があるのに気付く。

「何か変わったことでもあったの?」

とラウラは尋ねる。ジャックが何かを言おうとしたときにイベンが目を覚まし、会話はそのままになる。車は休暇村に着く。

 休暇村のメインホールにヘッダと、七人の若者が集まって夕食が始まる。夏にいた六人の他に、ミラという少女が加わっていた。ヘッダが、戻って来たラウラとの再会を祝して乾杯する。ラウラは、ジャックとイベンが、「友達同士」としては近すぎるのではないかと感じ始める。また、ジャックが車の中で言いかけて止めた言葉も気になっていた。夕食の後、ジャックがギターを弾き歌が始まった。イベンが巧みにジャックのギターに合わせて唄う。ラウラはいたたまれなくなって外に出る。涙が止まらない。ジャックはラウラより三歳年上であった。

 メインホールの前に車が停まるのが見える。それはイベンの父親ウルフのものだった。彼は建設会社を経営し、地方議員であり、地元の陸上クラブの監督でもあった。イベンの母は家を出て戻らず、イベンは父と一緒に暮らしていた。彼は、

「何か見たり聞いたりしたら、何時でもすぐに俺に伝えてくれ。」

と言って去る。ラウラは叔母に、イベンの父の言った言葉の意味を訪ねる。ヘッダは、湖の畔に、この冬、原因不明の火事が何件か発生していると言う。イベンの父の居るとき、ジャックは出て来なかった。彼は、イベンの父親を避けているように、ラウラには思えた。ラウラは夜中に目覚める。イベンが隠れてジャックと付き合っているのではという思いが彼女を苦しめる。彼女は窓ガラスに息を吹き掛け、ジャックと自分のイニシャルを指で書く。そのとき、建物の外に、若い女性の姿を見る。

 翌朝、ラウラが目覚めると、ヘッダもジャックもいなかった。朝食を取りながら、テーブルの上にあった地元の新聞を見る。新聞は、昨夜、空き家が燃えたことを伝えていた。

 ラウラはイベンと村のカフェで会う約束をしていた。彼女はバスで村へ向かおうと休暇村を出る。彼女は途中、バイクに乗ったペーターと会う。

「どこに行くの。」

とラウラはペーターに尋ねるが、彼は答えを濁す。間もなく、同じくバイクに乗ってやって来たトマスと一緒に、ペーターは去る。

 ラウラはイベンを待つ。遅れてやって来たイベンは、ジャケットから煙草の臭いをさせていた。ラウラは、陸上の選手であるイベンが煙草を吸わないことを知っていた。その匂いはジャックの吸っている煙草と同じものだとラウラは直感する。

「ジャックと会っているんでしょ。」

と、ラウラはイベンを問い詰める。イベンは、自分の希望する進路を親に反対されて困っていること、ジャックが相談相手になってくれていることを認める。

「あんたは、ここで本当に何が起こっているのか、何も知らない。」

とイベンは言う。

「この競争には負けないわ。あんたとはもう話さない。」

そう言って、ラウラは店を出る。

 ラウラは、窓の外で見えた若い女性はイベンに違いないと思う。イベンが父親と一緒に一度家に帰ってから、またジャックに会いに来たのだとラウラは考える。カフェを出たラウラは、歩き出すが、寒さが身に染みる。彼女の横に車が停まる。運転しているのは、トマスの父、ラスク・ケントであった。乗って行けという誘いを断り切れず、ラウラはラスクの車に乗る。ラスクは皮肉な調子で、ラウラに話しかける。彼は、ウルフのことを鼻持ちならない金持ちだと言い、ヘッダは若い者を集めて何かを企んでいると言う。車が休暇村に近づき、ラウラが降ろしてくれて言うが、ラスクはスピードを上げる。しかし、目の前に出てきた鹿を避けようとして、ラスクの車は道路脇にある溝に落ちる。ラウラはその隙に車を抜け出し走り出す。前方から別の車が来る。ウルフ の車だった。ラウラはウルフの車に駆け込み、ヘッダの家に戻る。

 

 翌朝、ラウラはヘッダの家の昔の自分の部屋で目覚めた。昨夜知らない間に眠り込んでいたらしい。部屋には、ジャックとラウラが幼いころの写真が飾ってあった。ラウラは明るい中で、改めてヘッダの家の中を見る。ありとあらゆる物で溢れていた。ヘッダは、崩れ落ちる休暇村から、出来るだけ沢山の物を救おうと、自分の家の中に運んでいたように思えた。彼女は外へ出て、ボートハウスの二階に上がる。かつてジャックがかつてそこに住んでいた場所だった。彼女は自分がジャックのために空港で買った自動車の雑誌を見つける。ラウラは桟橋に行く。昔、サウナから出た後、その桟橋から冷たい水に飛び込んだものだった。ラウラは、ヘッダの死に関して「何かがおかしい」という印象を拭い去れない。彼女は、その印象を具体的な物にしてみようと思う。森の入り口で、ラウラは滑って転ぶ。そして、そのとき雪の上に新しい煙草の吸殻が落ちているのを見つける。煙草の銘柄は「レッド・プリンス」、ジャックの吸っていたのと同じだった。ラウラは、自分がヘッダの家にいる間、誰かに見張られていたと感じる。

 葬儀の行われる村の教会。ラウラはヘッダの遺体を見る。三十年前の姿から別人のようになっていたが、手の火傷の跡はそのままだった。それは、火の中からラウラを助け出すときに負傷したものだった。ラウラには、木の下に落ちていた煙草の吸殻が、ジャックのものなのかと、気に掛かっていた。彼女はジャックが葬儀に現れることを密かに期待していた。しかし、葬儀に現れたのは弁護士のホカンソン、イベンの父ウルフと二人の息子、そして今は警察官をやっているペーターだけだった。埋葬の後、ラウラはペーターと話す。ペーターはヘッダが火事の後、村人とのコンタクトを絶ち、行商のパン屋から食料品を買う他、誰とも付き合っていなかったと話す。ペーター自身、何度かヘッダの玄関をノックしたが、ヘッダは開けなかったという。また、当時ヘッダの休暇村に集まった他のメンバーの行方は誰も知らないと、ペーターは言う。ラウラとペーターはイベンの墓を訪れる。ペーターは、イベンの遺骨はここに埋められていないで、父親によって湖に撒かれたという噂を告げる。ラウラはその方がずっと良いし、ヘッダの遺骨もそうしたいと思う。そのとき、ラウラは、ヘッダの死に関して何かがおかしいという感じを一層強く持つ。彼女は、ペーターに、ヘッダが死んだときの警察の資料を、見せてくれるように頼む。

 ヴェダルプの警察署は、二間しかなかった。受付とペーターのオフィスだけ、その受付も、火曜日と木曜日の昼の時間だけ開いているという。ラウラはペーターのオフィスに入る。亡くなった妻と、娘のエルサの写真が飾ってあった。また、ペーターが優秀な警察官であったことを示す表彰状が壁に並んでいた。ペーターはストックホルムの警視庁に勤めていたが、妻が交通事故で死んだ後、二年前からここに戻って来たという。ペーターはヘッダの死に関する報告書を印刷し、ラウラに渡す。ラウラはヘッダが発見されたときの写真を見る。ペーターは、死因に関して、特に不審な点はなかったという。ラウラはホテルに戻る。彼女は泳ごうとするが、プールが子供連れに占領されているのでサウナに入る。そして、ヘッダの家のサウナに関して、調べてみる必要があることに気付く。 

 ラウラはヘッダの家に戻る。彼女は誰かが猫に餌をやっていることに気付く。そして、湖の水温を測るのに使っていた温度計が、台所にあるのを発見する。彼女は、ヘッダの付けていた「サウナ日誌」を見つける。ヘッダはほぼ毎日サウナに入っていたが、秋に二週間、入っていない時期があった。その間ヘッダは入院していたと思われた。そして、サウナ日誌は、ヘッダの死亡する一週間前、十一月十二日に終わっていた。医者の警告も聞かず、サウナに入り続けたヘッダが、どうして突然入るのを止めたのだろうか。もし、ヘッダが本当にサウナに入っていないとすれば、サウナの後で湖に入ったとき、心臓麻痺で死亡という説は根拠がなくなる。ラウラは思いを巡らす。一人の男が乗った車がヘッダの家の前に停まる。ラウラは外に出てその男を迎える。男はシェル・グリーンと名乗り、郡役所の職員であると言った。彼はヘッダと話し、ヘッダが休暇村の土地を郡に売ることで話が着きかけていたという。郡はそこに住宅を建てる計画で会った。

「他にも買いたいという希望者がいると聞いたけれど。」

とラウラが話を向けると、グリーンは突然不機嫌になる。グリーンは休暇村と隣接するヴィンターイェホルム城が、やはり土地を買おうとしていることを認める。それも、郡よりも遥かに良い値段で。

「一部の金持ちのためにこの土地を利用するより、皆がこの景色を楽しめるのがよい。」

とグリーンは郡の立場を主張する。ラウラは、誰かがグリーンに圧力をかけて、彼を休日にも関わらずここへ来させたと察する。

 

一九八七年。ヘッダとラウラは早朝橇を引いて家を出る。塀の向こう側の城の敷地に、クリスマスツリーにするための樅ノ木を伐りに行くためだった。城の敷地には羊が飼われていた。ラウラが悲鳴を上げる。森の中に、焼けただれた羊が一頭木にぶら下がっていた。ラウラは、ヘッダとウルフ、そしてウルフの二人の息子が外で話をしているのを、窓から見ていた。ウルフは、ヘッダが警察に連絡したことに不満そうであった。

「生きている羊にガソリンをかけて焼き殺す、なんていうのは正気の沙汰ではない。」

とヘッダは主張する。そこに二人の警察官が到着し、ヘッダとウルフ、息子たちは現場へと向かう。ミラが帰って来る。ラウラは外に出てミラに話しかける。ラウラはミラにあったことを話す。

「これは単なる恨みではない。憎悪か愛が動機だ。」

とミラは言う。ミラはラウラを自分の部屋へと誘う。ミラの部屋には、銘柄の違う煙草があり、質素な部屋に不釣り合いな大きな灰皿が置いてあった。

「あんたは、暖かい国でプール付きの家に住んでいるのに、どうして、休暇の度にこの寒い田舎に来るの?」

とミラはラウラに尋ねる。もはや「好きな人がいるから」と答えられないラウラは、「習慣かしら」と曖昧に答えておく。ミラは、自分がヘッダの家に来た経緯を話す。前の里親の家庭の父親が、自分の身体に触り、

「愛している。一緒に逃げてくれ。」

と言われたという。ミラは、福祉局に連絡し、その家を出ただけ。彼女は、同時に口止め料としてその男から幾ばくかの金と、パスポートを得ていた。一月に十八歳になったら、その金とパスポートでスウェーデンを出て、海外で暮らすという。

「私のことは話したわ。今度はあんたの番よ。」

と言われ、ラウラは、ジャック、イベン、自分の三角関係について、ミラに話を始める。

 ミラは、ラウラに化粧を施す。ラウラは鏡を見て、自分が急に大人になったような気がする。ミラは、

「この村には若者の娯楽がないわ。私たちが中心になってパーティーをしない?」

と持ち掛ける。ミラは、トマスとペーターが冬の間無人になっている別荘からアルコールと煙草を持ち出し、自分に貢いでいることを話す。外を見ると、ヘッダと、ウルフ父子、警官が戻って来ていた。

 その夜、ヘッダはラウラをサウナに誘う。サウナの後、ジャックも誘ってココアを飲もうということになり、ふたりはボートハウスの二階のジャックの部屋をノックする。ジャックは、疲れているからと誘いを断るが、ラウラは、ジャックの部屋に誰かがいることを本能的に知る。そのとき、消防車のサイレンが聞こえ、燃える臭いが辺りに漂う。

 

 葬儀の翌日、日曜日、ラウラはホテルの部屋で目を覚ます。彼女はヘッダの夢を見ていた。ラウラはホテルをチェックアウトする。彼女は、現実を受け入れなければいけないと自分に言い聞かせる。しかし、ヘッダの行動には疑問が多すぎた。ヘッダは、グリーンが休暇村の売却の話を持ち掛けたのと同じころ、サウナに入るのを止めた。何故なのか。ラウラは弁護士のホカンソンに電話をして、ヘッダが自分に休暇村を譲るという遺言状を書いたのは何時かと尋ねる。同じ頃であった。詳しく話を聞こうとすると、ホカンソンは慌てて電話を切った。ホテルを出たラウラは、ストックホルムに向かわず、再び休暇村に向かう。ラウラはペーターに電話をする。

「猫に餌をやっていたのはあなた?」

というラウラの問いに対して、ペーターは自分ではないと答える。

「火事の後、トマスはどうしたの?」

とラウラは聞く。ペーターは、トマスが一連の放火を自白し、少年院に入った後、幾つかの精神障碍者のホームを転々としていると答える。火事の後見つかったガソリンの入った瓶に、トマスの指紋が残されていたという。最近、トマスとは会っていないので、彼がどうしているかは知らないとペーターは言う。ヘッダの家に近づいたラウラは、一人の人物が家から出て来るのを見つける。

「誰?止まりなさい。」

とラウラは叫ぶが、その人物はバイクで逃げようとする。ラウラはバイクに手を掛けて転倒させる。バイクに乗っていたのは、ペーターの娘エルサだった。

 エルサは、母親が二年前交通事故で亡くなってから、父親が神経質になり、バイクに乗ることを禁止している、そのために逃げようとしたという。そして、母親は父親を利用し尽くし、若い愛人と車に乗っているとき事故に遭ったと話す。バイクのチェーンが外れて、困っているときに、ヘッダが彼女を助け、それ以来、ヘッダを訪れるようになり、ヘッダの死後、猫の世話をしていたという。エルサは、昔ダンスホールのあった場所を指差し、

「イベンはあそこで死んだんでしょう?」

と単刀直入に尋ねる。ラウラがそうだと言うと、自分の学校はイベンの名前がついているとエルサは言う。ふたりはヘッダの家に入る。エルサは、父親がトマスと時々会っている、今日も会うことになっているとラウラに語る。ラウラは、ペーターがトマスに関して、嘘をついていることを知る。

 ラウラは、ヘッダとエルサがどこか似ていると感じる。少なくとも、猫の餌に関する謎は解けた。ラウラは十一月十二日に、休暇村の売却をヘッダに思い止まらせる何か起きたと想像する。ヘッダは、何か決断するとき、メリットとデメリット書いた紙を板に貼っていたことを思い出す。しかし、板はなかった。ラウラは、ヘッダの描いた絵の一枚だけに埃が積もっていないのを見つける。その絵の裏には封筒が貼り付けてあった。その封筒の中には、郡と城からの土地の買い付け申込書が入っていた。そしてもう一枚メモが入っていた。そこには、

一、遺言状を書くこと。

二、ラウラに電話すること。

三、トマスにイベンの秘密について聞くこと。

の三点が書いてあった。

 ラウラは、トマスの住んでいた家に行ってみることを決意する。ラウラがトマスの家のベルを鳴らすと、老人がドアを開けた。トマスの父、ケント・ラスクだった。ケントは、トマスは家にいないと言うが、ラウラを家の中に招き入れる。ラウラは少し躊躇するが、家の中に入る。ケントは、トマスが精神障碍者の施設に居ると言う。そして、

「仮に施設にいなくても、ウルフと息子たちが彼を探しているので、決して家には寄り付かないだろう。」

と述べる。

「トマスは確かに罰を受けなければならない。しかし、他の者も同様ではないか。ジャックやペーターは生き延びている。トマスはスケープゴートにされたんだ。」

とケントは語る。

「イベンがジャックと関係があったのは知っているだろう?ウルフはそれが許せなかった。イベンが死んだお陰で、イベンはずっと無垢でいられるんだ。」

とケントは更に言う。そして、イベンの母、ソフィアについての話をする。

「イベンと兄たちは異母兄弟だった。イベンの母は、夫のウルフの留守中、自分で家に火をつけた。自分はたまたまウルフと一緒に外出しており、村に帰ったときウルフの家が燃えているのを見つけた。ソフィアは、燃える家の前で、笑いながら踊っていた。ウルフはソフィアを精神病院に入れたが、表向きはソフィアは自分の下を去ったということにした。自分は口止め料として、狩猟権をもらった。」

とケントは話す。ケントは更に、自分とヘッダが商売をしていたことを話す。ケントは自分で酒を造り、その酒をヘッダが休暇村の客に売っていた。ところが、それをウルフが知り、介入してきたので、商売を止めざるを得なくなったという。ケントの部屋にはライフルが立て掛けてあった。そのとき、ラウラは焦げ臭いに感づく。ふたりが、庭に出ると、納屋が燃えていた。ケントは煙を上げる納屋に入って行く。ラウラは消防に電話をする。しばらくして、ケントは煙の中から、子犬を抱いて現れる。ペーターの乗ったパトカーも現れる。続いて消防車、救急車も到着する。

「下手に動くなと言ったのは、このことだ。」

ペーターはラウラにそう叫ぶ。ケントは救急車に運ばれる。ラウラは救急車に呼ばれる。

「ヘッダはずっとトマスに手紙を書き、トマスも返事を書いていた。その手紙がヘッダの家にあるはずだ。」

とケントは救急車が出る前にラウラに言う。ラウラは、ヘッダが死んだときもそうだったように、今回もペーターが救急車より早く到着したことを不思議に思う。ペーターは、自事情聴取のために、翌日の午後二時に警察署に来るようにラウラに言う。

 

一九八七年。翌朝、ラウラはジャックの部屋を訪ねる。

「一体、ここでは何が起こっているの?」

とラウラはジャックを問い詰める。秋口から、次々と火事が起こっているとジャックは答える。自分とイベンの関係について、ジャックは、

「イベンのせいだ。イベンの父親は、彼女が俺といることを気に入らない。」

ジャックはそう言って、腹の傷跡を見せる。イベンの兄に殴られてできたものだという。そして、ウルフが、自分を放火の犯人だと思っていると話す。

「イベンのことが好きなの?何があったの?」

とラウラはジャックを問い詰める。

「おまえは何も分かっていない。何があったか今は言えない。」

とジャックは答える。ラウラは自分の部屋に戻って泣く。ヘッダが彼女を慰める。

 翌日、昼前にラウラは目覚める。

「あなたにお客さんよ。」

とヘッダが告げる。客はペーターだった。

「あんたも、トマスと一緒に別荘荒らしをしているんでしょ。」

とラウラはペーターに言う。ペーターは、

「トマスは夏の間、別荘の庭仕事をしていて、鍵のありかを知っている。それを使って別荘に入っている。別荘荒らしをしているわけではない。」

とペーターは言う。

「トマスはミラに首ったけだ。彼女に言われたら何でもする。俺は、トマスが本当に馬鹿なことを仕出かさないように、監視しているだけだ。」

と言って、ペーターは去る。

 ヘッダはその日の午後、ラウラを散歩に連れ出す。ヘッダは、ジャックが今でもラウラのことを好きだという。

「初恋というのは複雑なものなのよ。後になって後悔するようなことをわざとするの。」

とヘッダは言う。そして、イベン、ジャック、ラウラの三人は長い間の友達なので、これからもお互いを大切にしなければならないという。ヘッダは、自分の過去を語る。彼女は、ある男と恋仲になったが、喧嘩をし、その男の頭を瓶で殴る。彼女は警察に逮捕されたが、兄であるラウラの父親に助けられ、釈放されたときに、兄の援助で、休暇村を買ったと語る。

 休暇村に帰ったラウラはミラに声を掛けられる。

「ジャックは今でもあんたのことを考えているわ。ダンスパーティーをやろうよ。あんたはそこにバッチリ化粧して、きれいな恰好をして出るの。ジャックはそれを見て、きっとあんたの方に戻って来るわ。」

と言う。パーティーは聖ルチアの夜に企画された。

 ミラ、ラウラ、トマス、ペーターの四人は村のカフェに集まって計画を立てる。先ずは、アルコール類の調達が課題だった。トマスは、一軒の別荘に、食料とアルコールが沢山ありそうだという。しかし、彼自身は、鍵のありかを知らなかった。ミラは、

「ラウラは推理が上手だから、きっと鍵を見つけることが出来るわ。」

と言う。

 その夜四人は、途中までバイクで行き、そこから凍った湖の上を歩き、狙いをつけた別荘に向かう。鍵はなかったが、ラウラの推理が的中して見つかる。四人が家の中を物色しているとき、一台の車が別荘の前に停まる。ラウラはそれが、警察官の車であることを知っていた。四人は逃げる。ミラとラウラは桟橋の下に隠れ、ペーターとトマスは物置小屋に隠れる。警察官は去る。ペーターとトマスはガソリンの臭いをさせていた。

「トマスは狂っている。彼は物置小屋に芝刈り機のガソリンを撒き、もう少しで火をつけるところだった。」

ペーターはそう言う。

 

 月曜日、ラウラはホテルで目覚める。彼女はステフに、ストックホルムに帰るのが少し遅れることを告げる。彼女は、フェダルプの金物商に寄って、ゴミのコンテナを注文する。そして、掃除用具一式を買って、ヘッダの家に向かう。金物商の主人は、ラウラを覚えていた。

「ダンスホールの火事は、トマスだけの仕業でないという噂がある。」

と彼はラウラに言う。そして、ウルフを助けるためにも、休暇村を郡に売って欲しいと言う。

 ラウラはヘッダの家の大掃除を始める。彼女は、ケントがライフルを常に傍に置くほど、誰を怖れていたのか、また何故、自分がケントのところにいるときに、放火されたのかと考える。ともかく、ラウラは、ケントの言っていた、「トマスからの手紙」を探し当てたいと思う。エルサが現れ、彼女も掃除を手伝う。ゴミのコンテナも到着し、ふたりは大量のゴミを捨てにかかる。エルサが帰った後、ラウラは、古い手紙や葉書の入った箱を見つける。そこには彼女自身の書いた手紙も入っていた。彼女はジャックから出された数枚の葉書を見つける。それは、一九八七年から一九八九年に書かれていた。最初の葉書はハンブルクの消印があった。

「今XXXにいる。心配しないで。ラウラによろしく伝えてくれ。」

どの葉書にもそう書かれていた。次に、ラウラはトマスからの手紙を発見する。

「あれは、わざとやったんじゃない。我々が予想もしていないことが起こったんだ。」

と手紙には書かれていた。「我々」とは誰なのかとラウラは考える。その時、ラウラの携帯が鳴る。ウルフからの電話であった。ウルフからの夕食の招待に、ラウラは応じることにする。

 ラウラはイェンセン家に着く。ウルフが彼女を迎える。家の中にはイベンの写真が沢山飾られていた。二人の息子、クリスティアンとフレドリクも食堂に顔を揃える。大きなイベンの写真が、ラウラの正面に架かっていた。ペーターから電話が架かり、ラウラは自分が警察署に出頭する約束を忘れていたことに気付く。ウルフは、ラウラの中に、自分の死んだ娘を見ると言う。彼は、休暇村の後に、スポーツセンターを作る計画があるので、是非休暇村を郡に売るようにラウラに説得にかかる。ラウラは、イベンの写真が、最近移されたことに気付く。フレドリクと二人きりになったとき、

「あんたたちは、私に休暇村を郡に売るように仕向けるための、芝居をしているのね。」

と彼に言う。フレドリクはそれを認める。

「我々は投資に失敗し、会社は倒産寸前だ。休暇村の跡地にスポーツセンターを建てる契約を請け負ったら、起死回生になるんだ。」

と本音を明かす。ラウラは、イェンセン家の将来が、自分の決断に掛かっていることを知る。そして、ヘッダもその決断を迫られていたことを知る。

 ラウラは、フレドリクが手に火傷を負っているのに気付く。彼女は、

「昨日、ケント・ラスクを訪れた。ケントは、イベンの母のソフィアが、家に放火をして、精神病院に入れられたと言っている。」

とフレドリクに言う。フレドリクはそれを否定する。

「放火犯はトマスで、彼は自分の収容されている病院まで放火した。また、ジャックは火事の後逃げたが、その際、イェンセン家の金を盗んで行った。イベンが彼に話したに違いない。」

と言う。そして、ジャックはイベンの部屋にあった、母親から受け継いだ装身具も盗んだという。

「今度会ったら只ではおかない。」

とフレドリクは言う。そのとき、ラウラはフレドリクが「レッド・プリンス」の煙草を吸っているのを見つける。

 イェンセン家から帰り道、雪が激しくなる。ラウラは、近くのヘッダの家に戻ることにする。どうして、ジャックは国外に逃げることが出来たのか。ジャックはどうして金だけだはなく装身具も盗んだのか、もしソフィアが自分の意思で家を出たなら、何故装身具を家に残したのか、ラウラはそんなことを考えながら床に就く。深夜、ラウラは物音で目を覚ます。誰かが、ボートハウスの二階に上がる階段を上がっている。ラウラは玄関のドアを開ける。雪の中に人影が見える。

「ジャックなのね!」

彼女は叫ぶ。人影は消える。

 

 一九七八年。別荘から酒を調達した翌日、ラウラはイベンに電話をする。

「あなたがいないと寂しいわ。」

「私も。」

ふたりは互いに喧嘩をしたことを謝る。温かさが再びラウラの心の中に広がる。ラウラは聖ルチアの夜のパーティーにイベンを誘う。

 

 翌朝、ラウラはノックの音で目覚める。外にいたのはペーターと二人の警察官だった。

「イェンセン家の一部が昨夜火事になった。放火だ。」

とペーターは言う。真夜中過ぎに、フレドリクが別の棟が燃えているのを見つけ、通報したという。

「私が疑われているの?」

とラウラはペーターに尋ねる。

「あんたが現れて二日経つが、これで二軒目の放火事件だ。しかも、両方ともあんたが傍にいた。」

とペーターは言う。二人の警官が、ボートハウスの二階で、ガソリンの入った容器と、ガソリンの沁み込んだぼろ布を見つける。ラウラは警察に任意同行を求められる。彼女は、ホカンソンに弁護を頼む。

 警察署にはホカンソンが待っていた。尋問を担当したのは、サンドベリという刑事だった。彼は三十年前の火災のとき、ラウラを尋問したことがあった。ラウラは、昨夜に時頃ごろ、ボートハウスの辺りで人影を見たと言う。サンドベリは、トマスが一年前に施設を出て、今は行方不明だと告げる。サンドベリは、今回の二件び火事も、トマスを犯人だと考えていた。しかし、二件ともラウラが傍にいるタイミングで起こっているので、動機は彼女に関係のあること断言する。ラウラは自分の指紋とDNAを警察に提出し、警察署を出る。ヘッダの家に戻ったラウラは、家の中を更に探す。そして、二〇一四年に書かれたトマスの手紙を発見する。

「イベンは父親を嫌悪していた。そして同時に怖れていた。」

とその手紙には書かれていた。ラウラはヘッダの昔の写真を発見する。そこには、ヘッダがかつて付き合っており、彼女が傷を負わせたと思われる男が一緒に写っていた。ラウラにはその男の顔に見覚えがあった・・・

 

<感想など>

 

 正直、結末にはかなり無理があると思った。そんなことはあり得ないと。しかし、その非現実性を超える魅力がこの作品にはある。テンポ良く読ませて、文句なしに面白い。

 四十五歳のラウラは、叔母ヘッダの遺言で、遺産相続人に指定され、三十年ぶりにスコーネ地方にある休暇村を訪れる。そこは子供の頃、ラウラが毎年休暇を過ごしていた場所であった。当時、ラウラは、ヘッダの里子である三歳上のジャックに恋をしていた。三十年ぶりにジャックに会うことを密かに期待してラウラは村を訪れる。三十年間、彼女はヘッダとも、ジャックとも、音信がなかった。果たしてジャックはどこで何をしているのか、ラウラがジャックに会うことが出来るのか、それがこの物語のひとつの大きな興味となる。

 三十年前、十二月の聖ルチアの夜、休暇村のダンスホールで、ラウラ、イベン、トマス、ペーター、ジャック、ミラの六人の若者がパーティーをしていた。その建物が突然火に包まれる。ラウラは背中に大火傷を負う。焼け跡からはイベンのものと思われる焼死体が見つかった。その数カ月前から、村では放火と思われる火事が数件起こっていた。そして、三十年後、ラウラが訪れた村で、また連続放火事件が起こる。「冬の夜の火事」というタイトル通り、これでもか、これでもかというほど、火事が起こり、その様子が子細に描かれる。トラウマを持つラウラではなくても、普通の読者でも、その記述には戦慄を覚える。

「ちょっと火事が多すぎ。」

 三十年前のストーリーラインと、現在のストーリーラインが、一章毎に交互に描かれる。三十年前の章は過去形で書かれており、現在の章は現在形で書かれているので、過去と現在が入交り、ややこしいということはない。もちろん、そのような物語の展開の約束事として、最後は過去と現在が一緒になるのだが。

 ペーターは警察官だが、彼は活躍しない。事件を解決に導くのは当事者のラウラである。 ラウラは、信用調査会社を経営している。ヘッドハントなどの際、候補者の背景を調査するのが仕事。彼女は、相手の秘密を見抜く観察眼を持っている。現在の事件のみならず過去の事件も、彼女の鋭い観察眼により解明されていく。

 ドイツ語で四百ページを超える長編。しかし、極めて読み易い。記録的なスピードで読み終えた。グイグイ引き込まれ、スラスラ読める、そんな文章である。スウェーデン語の原文が読み易いものなのかは、ドイツ語への翻訳者の技量なのかは、確言し難いが。

 

さて、作者のアンダース・デ・ラ・モッツだが、ウィキペディアには、以下のように紹介されている。

 

***

 

一九七一年、スウェーデン南部、スコーネ郡ビレスホルムで生まれ、その町で育つ。その後、ストックホルムに移り、警察官になるための訓練を受け、一九九六年から二〇〇一年、警察官として、家族と一緒にかしてスコーネ郡ロンマに住む。二〇〇一年から二〇一二年にかけて、UPSのセキュリティ部門で働いた後、コペンハーゲンのデルのセキュリティ部門の責任者として働き、ヨーロッパ、中東、アフリカでの活動を担当した。これらの仕事の経験は、その後、スリラー/犯罪小説の作家としての彼の作品で活用されている。

二〇一〇年、デ・ラ・モッツは、「Geim(ゲーム)」で小説家デビューを果たす。「ゲーム」は、主人公として、ヘンリク「HP」ペッターソン(自己陶酔的な怠け者)とレベッカ・ノルメン(警察官である妹)が登場する、三部作の最初の作品である。この作品で、彼は二〇一〇年の「スウェーデン犯罪作家アカデミー新人賞」を受賞した。二〇一一年に第二作「バズ(Buzz)」が続き、二〇一二年に「バブル(Bubble)」で締めくくられた。

現代のIT社会とソーシャルメディア革命を中心に展開するストーリー、またそれらのナルシシズムの危険性から、彼の小説は、コンピュータゲームの世界を思い起こさせるような、高速な言語スタイルを特徴としている。デ・ラ・モッツは、「フェイスブック」などのソーシャルメディアサイトが、「全てについての自己陶酔的」で、個人情報を共有することを奨励していると述べている。 二〇一〇年のインタビューで、デ・ラ・モッツは、「ゲーム」の前に教師である妻の勧めにより、二つの未発表の小説を書いたと述べた。彼は最初の二つ原稿について、それらはあまりにもありふれたものであり、「伝統的な物語、殺人事件の捜査のもの」と一笑に付している。彼の母国スウェーデンでのゲーム三部作の成功に加えて、シリーズは、「Kirkus Reviews」と「Publishers Weekly」などの米国での出版物からも称賛を受けた。

三部作に続いて、「メモランダム(Memorandom)」(二〇一四年)と「最後通牒(Ultimatum)」(二〇一五年)が出版された。後者で、彼は二〇一五年の「スウェーデン犯罪小説作家アカデミー賞」を受賞した。彼の本は、色々な国で、テレビシリーズや映画の原作に選ばれている。フランスのGaumont社による「ゲーム三部作」の映像化、アメリカの会社「Twentieth Century Fox」による後半二冊の映画化など。彼の本は世界中の多数の言語に翻訳されており、三十カ国以上で読むことができる。彼の小説は、「スカンジノワール」の流れに沿った犯罪小説、スリラーとして一般に分類されている。

 

20203月)

 

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