ウィナー・テイクス・イット・オール

 

歌い踊る中年のおばさんの「お笑い三人組」。

 

主人公のドナと友人のローズィとタニア、中年のおばさん三人組が歌い踊る場面が多い。三人ともミュージカル女優なのだから、踊りもきっと上手なのだろう。しかし、あくまで「中年のおばさん」という設定なので、ぎこちなく踊らねばならない。時々、「痛たた」とか言って、腰を押さえながら。その「演出したぎこちなさ」が笑いを誘う。

かつてのドナのボーイフレンド、中年の男性三人の全員から、

「きみの父親は僕だ。」

と言われ、娘のソフィーが途方に暮れているところで前半が終わる。

 休憩時間に、隣に座っていた若い女性ふたりと話をする。ふたりともイラン人とのこと。僕のイラン人に対して持つイメージから想像できないくらい、明るくて社交的な娘さんだった。日本へ行くのが夢だという。眼鏡を忘れて舞台が良く見えないという一人に、持ってきていた双眼鏡を貸してあげる。

ロビーで皆、お金を払ってドリンクを飲んでいる中、ペットボトルに入れてきたワインを飲む。

 後半の舞台が始まる。前半、かなり「大人しい」、「抑えた」舞台であると感じていた。しかし、後半になって、振り付けも、音量も、だんだんと盛り上がりを見せる。前半の「抑えた感じ」、「大人しさ」は計算されたものであることに気付いた。

ドナによって「ザ・ウィナー・テイクス・イット・オール」が歌われる。かつてのボーイフレンドの一人に、もう一度やり直そうといわれて、

「もう、ゲームはとっくの昔に終わっているわ。」

とこの歌により答えるのだ。この曲を聴くといつも涙が出る。

実はこの歌、僕の大好きな歌、と言うより、僕のテーマソングなのだ。散歩しながらなど、よくこの曲を口ずさんでいる。ついでながら、僕のテーマソングはもうひとつある。エディット・ピアフの「水に流して・私は後悔しない」がそれ。両方とも、僕の葬式には忘れないで、かけて欲しい。

ラストシーンは、若い二人が、舞台の背景に浮かんだ大きな満月に向かって歩いていくというもの。なかなか印象的な美しい幕切れであった。僕はエーゲ海の湾にキラキラ反射する月の光を思い出した。

しかし、その後に、カーテンコールと呼ぶには余りにも長いショーが用意されていた。中年のおじさん、おばさんそれぞれ三人が、「マツケンサンバ」もビックリのギンギンの衣装で、歌い踊りまくるのだ。若い人たちも一緒に踊っているが、あくまでバックコーラス。主役はあくまで中年のおじさんおばさんなのである。観客席も盛り上がり、立ち上がって、一緒に踊っている人がいる。

午後十時、芝居がはねて外へ出る。レスター・スクエア駅に向かって歩き出す。ミュージカル「マンマ・ミーア」、確かに、唄われたどの歌も、実にシチュエーションに良く合っていた。それには感心する。おまけに、どれも僕らの世代の人間は知っている曲なので、とっつき易かった。最後の盛り上がりも良かった。難を言えば、ちょっと歌が詰め込まれすぎていて、息が抜けない感じがしたことかな。

地下鉄の中で、買ってきたプログラムを見る。僕はプログラムに載っている俳優の素顔の写真を見るのが好きだ。役の中の人物と驚くほど似ている人と、全然似ていない人がいる。地下鉄の中、僕は眠くて仕方がなかった。少し昼寝をしたはずなのに、全然効果がない。

「ここで眠っちゃあダメ。乗り過ごす。」

僕は自分に言い聞かせながら、プログラムの俳優さんたちの経歴を読んだ。

地下鉄は地下から地上に出て、音が静かになり、窓に雨が当たり始めた。僕は降りる用意をして立ち上がった。

 

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