マヨルカ島の鷹匠

 

丘の頂上に立つカブデペーラの城。丘に張り付くように街が広がっている。

 

六日目、今日も「デートレフのお勧めスポット」を訪れることにし、アルクディアのアパートを出て南へ向かう。途中、水草の生い茂る自然保護地区を通り抜ける。この島には結構淡水があるように思えるが、蚊が全然いない。それが不思議で仕方がない。でもそれは嬉しいこと。これまで訪れたギリシアやポルトガルでは結構蚊に悩まされた。蚊の心配をしないで外で食事ができて、夜眠れるのは良いことだ。

三十分ほどで、アルタの街が丘の上に見えてくる。丘の上に並ぶ蜂蜜色の建物、イタリアの古都アッシジの見え方に似ている。町の大きさは比較にならないが。街外れに車を停めて、旧市街を通り抜け、丘の上の教会に向かう。学校の横を通る。月曜日の朝九時、子供達が両親に連れられて登校している。ふざけて合っている子供達は、基本的に、ギリシアでもスペインでも変わらない。

階段を登り、丘の上に立つ。中腹と頂上にふたつの結構立派な教会がある。朝が早いせいか誰にも会わない。聞こえるのは風の音だけ。「上の教会」を取り巻く壁には、三角形の帽子のような石が並んでいる。街の外には丘陵地帯が広がっており、牧場かオリーブの畑になっている。この丘には、イスラム占領下ではモスクが建っていたとのこと。十三世紀の初頭、キリスト教徒が島を奪い返してから、カトリック教会に改築したらしい。だからだろうか、城壁の感じが何となくイスラムっぽい。

アルタからすぐ隣のカプデペーラの町へ。この街も丘の中腹に立っていて、アルタに似ている。しかし、丘の頂上には、教会でなく城が建っている。同じく街外れに車を停め、旧市街の坂道を歩いて城に登る。城は三角形の敷地に建っている。城壁を除いて、主要な建物はほとんど崩れ去っている。昔日本に鷹を使って狩をする、「鷹匠」という職業があったらしい。その「鷹匠」がここにはいた。彼は三羽の鷹を放ち、その鷹を順に木から木へと飛び移らせていた。

そこからすぐ先のカラ・ラハーダへ。そこは商業化された観光地、リゾートであった。海岸は砂浜ではなく岩浜。海岸に沿ってプロムナードがあり、そこに洒落たカフェや店が並んでいる。

「派手な場所でんなあ。」

と僕。

「でも、お店は皆高級店ばかりよ。」

と妻。そして、聞こえてくるのはドイツ語ばかり。カフェのメニューもスペイン語の他はドイツ語しか書いてない。海辺でダンスのレッスンをやっていたが、もちろんドイツ語で。

「アインス・ツヴァイ・ドラ〜イ!ドレーエン。(一、二、三、回って)」

ここはドイツ人たちが集まるところ、ドイツ人たちのパーティービーチだったのだ。

義母がテレビで見たマヨルカ島の鍾乳洞は素晴らしいと言っていた。鍾乳洞はいくつかあるが、僕達もそのひとつを訪れてみることにする。

 

城の中で、鷹のトレーニングをする鷹匠。