フラメンコ

 

フラメンコのダンサーは皆すごく姿勢が良い。

 

ソイエールから一度パルマに抜けて、高速道路でアルクディアまで戻ることにする。ソイエールからパルマまでの道を地図で見ると、山の中なのに真っ直ぐなのだ。走っていてその理由が分かった。トラムンターナ山脈を抜ける、十キロはあろうかという長いトンネルが掘られていた。そこを通ると、あっと言う間にパルマに着いた。

その日はマユミの誕生日だった。何か美味しいものをと思うが、結局冒険をしないで、中華料理になってしまった。夕食の後、町の野外ステージでやっていたフラメンコのショーを見る。黒と赤の衣装を着けた、三人のお姉さん達が舞っている。

フラメンコはなかなか激しい踊りである。末娘のスミレはコヴェントガーデンのダンス学校でバレーを習っていた。玄関で娘を待っていると、一階のすぐ横の部屋でフラメンコのレッスンが行われていた。三十人くらいの男女が踊っている。皆黒いコスチュームに革靴を履いて、背筋を伸ばして踊っている。皆が一斉に靴の踵を木の床に打ち付ける。

「ドン!」

震度五の振動が建物を揺すぶり、僕は五センチほど飛び上がった。

僕が今ここで見ているフラメンコが本場のものかどうかは知らない。昔、富山県の某ファスナーメーカーで働いていたとき、海外からの客があると、英語とドイツ語が話せるという理由だけで、僕は新入社員のときから、よく宴会に狩り出された。要するに通訳兼お酌係なのである。たいていは宇奈月温泉のホテル。外国人の前で、芸者衆により日本舞踊が披露される。外人さんはヤンヤの喝采。

「でも、これって、本当の日本舞踊なんやろか。」

僕は考えた。まあ、いいか。相手は観光客なのだから。そして、今日は僕が観光客。拍手拍手。

前日頑張って長距離を走ったので、三日目は近場を観光することにする。ポート・ダルクディア(アルクディア港)とアルクディアの町を訪れる。「アルクディア」と言うところを、僕はいつも「アルカイダ」と言い間違える。

アルクディア港には沢山のヨットが泊まっていた。ベンチに座っている男性に、

「どれがあんたのヨット?」

と冗談で聞いてみる。彼は無言で肩をすくめる。

「僕達のはあれ。」

僕は目の前の一番大きなヨットを指して言った。

アルクディアの町は、城壁で囲まれている。石造りの門を潜って旧市街に入る。ひっそりとした石畳も道を行く。正午の太陽が白く照りつけている。道の両側に緑の植物の鉢が並んでいて、乾いた感じの街に潤いを添えている。城壁の外に闘牛場があった。これもスペインらしい。城壁の上を歩く。英国では、ヨークの町がこのように城壁で囲まれていて、その城壁の上を歩くことができる。マヨルカの街並みの基本パターンが、僕にも分かり始めてきた。

 

アルクディアの街を囲む城壁の上で。