「火と戯れる女」

原題:Flickan som lekte med elden(火を弄ぶ少女)

ドイツ語題:Verdammnis (劫罰)

英語題:The Girl Who Plays with Fire (火を弄ぶ少女)

2006

 

  

 

ドイツ語の本の表紙と、英国での映画のポスター

 

 

<はじめに>

 

 第一作が面白かっただけに、大きな期待を持って読み始めた。長い話であったが、最後、全てが解決されないままに終わってしまった。おそらく三冊目に続くのであろう。

 

<ストーリー>

 

 皮ひもでベッドに縛り付けられている少女。彼女は時々現れる男にガソリンをかけ火をつけることだけを考えていた。

 

 リズベト・サランダーはカリブ海に浮かぶ島、グラナダにいる。ミカエル・ブロムクヴィストと彼女により悪事が暴かれ失脚した実業家のヴェナーストレームから、失脚の直前に大金を巻き上げリッチになった彼女は、一年間に渡り世界中を豪遊していた。

 リザベトのことが気になるミカエルは、何度か彼女に接近を試みるが、彼女に会うことさえ拒否される。リザベトが旅行に出かけた後も、ミカエルは彼女を探す。

 リザベトは、旅行に来る直前、豊胸手術を受け、首筋の「アブ」の刺青を消ししていた。それにより、彼女は別人のように見えるようになった。彼女は数学に興味を持ち、特にフェルマーの定理(3 以上の自然数について、xn + yn = zn となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせはない)に挑戦していた。

 

 リズベトを強姦した場面を彼女にビデオに撮られ、腹に「私はサディストの豚、いやらしい強姦者です」の刺青を彫られてしまった弁護士ビュルマンは、酒浸りになり、殆どの仕事と顧客を失ってしまう。彼にとって、リズベトに復讐し、彼女を破滅に導く方法を考えることだけが生きている望みであった。

ヴィルマンは彼女に関するあらゆる資料を取り寄せ、それを調べる。しかし、リズベトが十二歳のときの資料が何故か抜け落ちていることを発見する。実は、その部分は国家機密になっていて、後見人のビュルマンでさえ、見ることができなかったのだ。彼は何とかその秘密を知ろうとする。

また、調査の中で、ビュルマンは、リズベトを憎んでいるもう一人の人間がいることを知る。その人物と結託して、リズベトを陥れようと考え、彼はその人物と連絡を取る。

 

約一年間の旅を終えて、リズベトはストックホルムに戻ってくる。彼女は、別名で高級マンションを購入し、これまで住んでいたアパートを友人でレズビアンのミリアム・ウー、通称ミミに貸す。

 ヴェナーストレームの悪事を暴いて以来、「ミレニアム」は好調に売り上げを伸ばしていた。高齢のエリック・ヴァンガーに代わって新たにハリエット・ヴァンガーが経営陣に加わる。ミカエルは彼女がストックホルムに出てくるたびに逢瀬を重ねる。

金髪の大男が、スヴァヴェルスイェという村の「モータークラブ」を訪れる。「モータークラブ」とは名ばかりで、実は前科者の集団であり、麻薬取引、恐喝などで利益を上げている、一種の暴力団なのであるが。金髪の大男はクラブの代表マッゲ・ルンディンに会い、リズベトを捜し出し、誘拐してくるように依頼する。大男はその後、弁護士ビュルマンとも会う。ビュルマンは、リズベトのスウェーデンの銀行口座から金が引き出されたことにより、リズベトがスウェーデンに戻ったことを知っていた。

久々にストックホルムに戻ったリズベトは、かつての雇用者、警備会社ミルトン・セキュリティーの社長ドラガン・アルマンスキーを訪れる。アルマンスキーはリズベトに病気で倒れたかつてのリズベトの後見人、パルムグレン弁護士が命を取り止め、現在はリハビリ中であることを告げる。アルマンスキーは、恩人を見舞いもしないリズベトの不義理に腹を立て、彼女をなじる。

リズベトはパルムグレンを病院に訪れる。幸いパルムグレンは、言葉は不自由なものの快方に向かっていた。

「ミレニアム」の編集長エリカ・ベルガーは、大手の日刊紙より、編集長として引き抜かれようとしていた。しかし、彼女はそれをミカエルや他の社員に打ち明けられないままに日々を過ごしていた。

 

フリーの記者ダグ・スヴェンソンとパートナーで大学院生のミア・ベルクマンは少女売春組織を追っていた。ダグは調査結果を「ミレニアム社」から近々出版する本で明らかにする予定であり、ミアはそれを博士論文の形で世間にその犯罪について公表する予定であった。彼らの調査結果の中には、少女売春に関わった人物の名前が含まれており、そこには政界財界の著名人も名を連ね、彼らの調査結果が発表されると一大センセーションが巻き起こることが予想された。

ダグは自分の調査を裏付けるため、警察官のグナー・ビョルクに会おうとしていた。しかし、どうしても彼との連絡がつかないことに焦っていた。ある日、ダグは調査を進める中で、少女売春組織の元締めと思われる「ザラ」という人物に行き当たる。しかし、その「ザラ」は一切の公式記録がない、謎に包まれた人物であった。

ダグは、自分の取材に関してミカエルに相談する。ミカエルは携帯電話をダシに使ったトリックで、行方をくらましている警察官グナー・ビョルクと連絡を取る方法をダグに提案する。

ダグとミカエルがバーで話している様子を、たまたまミリアムと一緒に同じ場所を訪れていたリズベトが見ていた。彼女はミカエルの現在の活動に興味を持ち、彼のコンピューターにハッキングをかけ、そこでダグとミアの現在の取材活動を知る。その中に現れる「ザラ」という名前が彼女の注意を引いた。

リズベトは街で、ビュルマンが金髪の大男と一緒にいるのを見つける。彼女は密かにその大男の後を追う。そして、その大男が「スヴァヴェルスイェ・モータークラブ」のマークの入った革ジャンを着た、ポニーテールの男と会っているのを見つける。リズベトはビュルマンが何かを企んでいることを知る。

深夜リズベトのかつてのアパートの近くを通りかかったミカエルは、まずリズベトが車から降りるのを見つける。その直後、ポニーテールの男がリズベトを襲う。リザベトは車のキーでその男に傷を負わせて逃げる。ミカエルもその男を追うが、男に殴り倒される。彼はリズベトも見失う。

リズベトは夜にダグ・スヴェンソンとミア・ベルクマンのアパートを訪れる。そして自分は「ザラ」に関する情報を持っていると告げる。

 

妹のアニカのパーティーに出席していたミカエルは、電話をかけてきたダグから、調査の過程で「ザラ」という人物に行き当たったことを告げられる。そして渡したいものがあるので帰りにアパートに寄ってくれと頼まれる。

彼は妹の運転で、ダグとミアのアパートを訪れる。彼らの部屋の前に隣人達が集まっている。銃声が聞こえたというのだ。開いていたドアから中へ入ったミカエルは、ダグとミアが撃ち殺されているのを発見する。彼は警察に電話をする。駆けつけた警察官は階段で犯行に使われた拳銃を発見する。

翌朝、編集部に行き、殺されたダグの書いた原稿やメモを読んだミカエルは、ダグの発行しようとしていた暴露本の原稿の中に、警察官や検察官までも登場していることを知る。彼は、原稿の内容を察知した誰かが、本の発行を止めさせるために、ダグとミアを殺したのでないかと推理する。

 

ストックホルム警察に殺人事件の捜査本部が置かれる。担当の検察官はリヒャルド・エクストレーム、担当の警視はヤン・ブブランスキーである。ブブランスキーは女性刑事ソニア・モディグ、イェルカー・ホンベリ、クルト・スヴェンソン、ハンス・ファステで特別捜査班を構成した。

捜査会議の席上、殺人に使われた拳銃は弁護士ビュルマンのもので、そこからリズベト・サランダーの指紋が発見されたことが明らかになる。警察はリズベトの過去に関する資料から、彼女が暴力的な社会適応不能者と判断、彼女を殺人事件の容疑者として全国に指名手配することに決定する。

ブブランスキーは、リズベトの元の上司、アルマンスキーを訪れる。アルマンスキーは警視にリズベトに対する印象を聞かれ、彼女が優秀な調査員であったことを告げる。アルマンスキーはまた、彼女が昨年ミカエル・ブロムクヴィストと一緒に働いていたことを伝える。ブブランスキーは、学校もろくに出ていないリズベトが「優秀な」調査員であったこと、また、今回殺人事件の第一発見者である人物と。過去に既に関係があったことを知り、衝撃を受ける。

ブブランスキーは、次にミカエルを「ミレニアム」の編集部に訪れる。ミカエルは、殺されたダグが、少女売春組織の調査結果を本にすることになっていたこと。殺人はその中に取りざたされる人物が、本の出版を止めるためにしたことではないかという推測を述べる。リズベトに対する感想を求められたミカエルは、彼女は他人と交わることを避けるが、非常に知的な、それなりのモラルを持った人物であると述べる。ブブランスキーは、警察の持っている「精神異常者、暴力常習者」というリズベトに対するレッテルが剥がされていくのを感じる。

翌日、特別捜査班のメンバーのひとり、ソニア・モディクは、リズベトの後見人である弁護士、ビュルマンのアパートを訪ねる。そして、そこで彼が頭を銃で撃たれて死んでいるのを発見する。

警察は、ビュルマンもリズベトに殺されたと判断、武装警官がリズベトのアパートに突入する。しかし、そこには誰もおらず、残された衣類を見てもとても小柄なリズベトの物とは考えられなかった。事実、そこに住んでいたのはミリアム・ウーであったのだが。

警察はリズベトを事件の重要参考人として全国に指名手配するが、捜査を率いるブブランスキー自身は、医者や福祉事務所の人間の証言と、ミカエル、アルマンスキーの語るリズベトに人間像のギャップを埋め切れないでいる。ビュルマンの腹に彫られた刺青「私はサディストの豚、いやらしい強姦者です」が発見されるに至り、ブブランスキーの捜査方針に対する疑念はいよいよ増す。また、警察はダグのラップトップ・コンピューターがどこからも見つかっていないことに気付く。

 

リズベトの無罪を信じるミカエルは、「ミレニアム」編集部でも、独自にダグとミアを殺した犯人の捜査を進めることを決意する。彼はダグの原稿とミアの博士論文の原稿に取り上げられている人物に、ひとりひとり会ってみることにする。また、ミカエルは妹で弁護士のアニカ・ジャンニーニに、リズベトが発見された場合、彼女の弁護をしてくれるように頼む。

アルマンスキーも同時に行動を起こす。彼は三人の部下を警察の捜査本部に送り込み、警察の捜査を手伝うという口実で、捜査の内容を知ろうとする。つまり、警察、ミカエルとミレニアム編集部、それにアルマンスキーとミルトン警備保障会社の三者がそれぞれにリズベト・サランダーの行方と三人の殺人事件の真相を探り始めたのである。

リズベトは全国に指名手配されたが見つからない。警察はかつてのリズベトの主治医であった精神科医ペーター・テレボリアンを捜査会議に招き、その意見を聞く。テレボリアンはリズベトが犯人である可能性が極めて高いことを示唆する。

ミカエルはリズベトがハッカーであることを思い出し、自分のパソコンがハッキングされてことを前提に、リズベト宛の手紙を書き、パソコンの中に保存する。数日後、ミカエルはリズベトから変身を受け取る。その中には、ただ一言だけが書いてあった。その言葉は「ザラ」。ミカエルは、リズベトから便りがあったことを喜び、リズベトに更に詳しい情報をくれるように頼む。しかし、リズベトからの返事は「記者ならば自分で探れ」とそっけない。

警察とアルマンスキーは早速困難に突き当たる。極秘の捜査の内容が次々とマスコミに漏れ出したのだ。その犯人はアルマンスキーが警察に協力するために派遣した、ニクラス・エリクソンという若い男であった。彼はかつて有名人の顧客の家を警備巡回中に知り得た情報をマスコミに売った。それを当時ミルトン警備保障で働いていたリズベトに見つけられてしまう。それ以来リズベトを憎むエリクソンは、リズベトが犯人であるということを示唆するような情報を友人の新聞記者に渡し、その新聞記者に扇動的な記事を書くように依頼していたのだ。

ブブランスキーも警察も、リズベトが単なる精神異常者、社会不適応者ではなく、知的で一筋縄ではいかない人物であることを認めざるを得なくなる。そして、リズベトの銀行口座に莫大な金額が発見されるに至り、警察は捜査方針の転換を余儀なくされる。リズベトも、彼女のアパートに住んでいるはずの、ミリアム・ウーも姿を現さないまま日は過ぎる。

 

ミカエルは、グナー・ビョルクという男からの電話を受け取る。ダグ・スウェンソンが殺される前、連絡を取ろうとしたがうまくいかず、無料の携帯電話という「餌」を撒いていた人物であった。ミカエルは言葉巧みに、ビョルクから住所を聞き出し、面会の約束を取り付ける。

ミリアム・ウーがアパートに戻り、警察に呼ばれる。彼女は、病気の両親の見舞いのため、しばらくスウェーデンを離れていたのだ。警察での聴取で、ミリアムはリズベトの居場所を知らないと言う。

元ボクサーのパオロ・ロベルトは、ニューヨークでのプロモーションの仕事を終えて、ストックホルムの空港に降り立つ。元世界ランカーである彼は、かつてボクシングジムでリズベトのトレーナーをしていた。リズベトが殺人事件の容疑者として指名手配されているのに驚いたロベルトは、知り合いのミレニアム編集長、エリカ・ベルガーに連絡を取る。エリカは、ロベルトとミカエルを引き合わせる。ロベルトはミカエルに自分もリズベトの無罪を信じていることを述べる。ミカエルはロベルトにあることを頼む。

警察の尋問を終えて帰宅したミリアムであるが、捜査班のひとりエリクソンが、マスコミに情報を流しているため、彼女はマスコミに追いまわされることになる。友人の家に避難した彼女が物を取るためにアパートに戻ろうとしたとき、ポニーテールの男が彼女を車で連れ去る。ミカエルからミリアムの監視と保護を頼まれていたパオロ・ロベルトはその車を追う。ミリアムは場末の倉庫で車から降ろされる。彼女を救うために倉庫に突入したロベルトは、そこで金髪の大男と戦うことになる。

ミカエルはグナー・ビョルクに会う。ビョルクは元保安警察(スウェーデンの国家的スパイ組織)の一員であった。ミカエルはビョルクに彼が関与した少女売春について記事にしないことと引き換えに、ビョルクが「ザラ」について知っていることを話すように取引をする。

ビョルクは「ザラ」という人物の過去について語り始める。「ザラ」の本名はアレクサンダー・ザラチェンコ、元ソ連のスパイであった。一九七〇年代、本国と上手くいかず、追われる身となったザラチェンコはスウェーデン政府へ亡命を申請する。そしてソ連の情報をスウェーデン側に提供する代わりに、自分の身の安全と、新しいアイデンティティーを求める。当時保安警察にいたビョルクは、ザラチェンコの担当であったのだ。ビョルクは更に、ミカエルが驚愕する事実を伝える。それは思いもよらぬ、ザラチェンコとリズベトの関係であった・・・

 

 

<感想など>

 

「読み終わって」の感想を書くというのが難しい。何故ならば「読み終わった」という感じがしないからだ。余りにも色々なことが開いたままで、本が終わってしまう。リズベトがグラナダにおける隣の夫婦を観察するエピソード。グラナダの台風の際、近所に住む男の子を助けるエピソード。エリカは転職を考えているが、それについての結論。何もないままに終わってしまう。

 この本はシリーズに二冊目であるが、三冊目を読み始めてその理由が分かった。二冊目と三冊目で一つの話が構成されているのである。つまり、全ては三冊目でのお楽しみということ。しかし、二冊目で七百五十ページ、三冊目は八百五十ページ。何と長い本であろう。しかし、それなりに内容が濃いので、長さを余り意識させられることはない。

 読んでいて、何故ラーソンが、生前にこれらのシリーズを出版しなかったのか、その理由が分かったような気がした。一冊目も含め、「切り売り」の出来る内容ではないのだ。三冊のストーリーが過去から現代へ、密接に、それこそ分子構造のように繋がっているので、一冊ずつ出版できるものではなかったのであろう。

 上記のストーリー紹介を書いていて、途中で切った場所、「リズベトとザラチェンコの過去の出会い」これはなかなか衝撃的で、話がそんな方向へ発展して行くことは、読んでいて想像もしていなかった。リズベトが「国家犯罪」の犠牲者であったなんて。

 第一冊目で、リズベトの独特の価値観、道徳観が語られる。「不思議な娘」であると誰もが感じる。しかし、その性格の背後にあった過去の出来事は二冊目にならないと語られない。この辺り、三冊の内容が「分子構造のように繋がっている」と、私が述べたい理由である。

 

それにしても、ミカエルは女性に対して手が早い。元々夫のあるエリカと関係を持ち続けている上に、第一冊目では、調査に行った先でセシリア・ヴァンガーと関係を持ち、リズベト・サランダーとも関係している。ミカエルに好意を持ったリズベトが、プレゼントまで用意してミカエルを訪れるが、アパートの前で、彼がエリカと一緒にいるのを見て、プレゼントをゴミ箱に投げ捨てて立ち去るというのは、ちょっと悲しい幕切れでもあった。それ以来、リズベトはミカエルを避けるようになる。

二冊目では、ミカエルは今度は第一冊目の「影の主人公」ハリエット・ヴァンガーと関係を持っている。(リズベトは「両刀遣い」であるらしく、レズビアンの相手のミミとの関係を持つようになる。)しかし、ミカエルが女性と寝まくるのに、彼から潔癖な、清潔な印象を受ける。と言うより、彼が余りにも「悪を憎み、正義を貫く」男であるが故に、女性との関係がそれを中和し、彼に人間味と存在感を与えていると言ってもよいと思う。

 

しかし、恐ろしく沢山の人物が登場し、恐ろしく沢山のエピソードが交錯する作品。私はいつも本の余白にメモを取りながら読むが、そうでもしないと、とても登場人物とその役割を覚えていられない。

現在三冊目を読み進んでいるところである。しかし両方で千五百ページは長い。

 

201011月)

 

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