ブルーベルと桜

 

森の中の青い絨毯。毎年見るが、毎年感激する。

 

僕らはブルーベルが、青い絨毯のように広がる森の中にいた。ブルーベルの季節になると、近くの森の中の「スポット」に行って、「花見」をするというのが、僕の家族の、毎年恒例の行事である。今年も家から車で五分くらいのところにある森に来た。毎年見ているが、その美しさには毎年圧倒される。

「今年は日本で桜、英国でブルーベル、両方見られてラッキー!」

横にいる妻に言った。ブルーベルは僕の誕生日の頃、四月の終わりに満開になる。桜と同じく、盛りは短くて、長くて十日ほど。今年は四月になってから寒い日が続いたせいか、二週間ほど開花が遅れているようだ。

 ちょうど一月前、僕はヒースロー空港にいた。また、長い飛行機の旅が始まる。ドア・ツー・ドアで片道二十四時間。

「長い旅を楽しむコツとは何やろ。」

と考える。

「待ち時間を楽しく過ごすことかな。」

という自分なりの結論に達する。

「旅とは待つことなり」。旅行をしていると、待ち時間の連続である。旅行の極意とは、その間「ヤッキーモッキー」しないこと。ゆったりと構えようと思って、僕は中国語のポッドキャストを聴き始める。またとない、中国語をゆっくり勉強できる時間、だと思えば。

出発の三日前の土曜日に、僕の勤める学校の冬学期が終った。最後の授業日は「学習成果発表会」。僕のクラスの発表テーマは「ヨーロッパのウナギ」。

「なんで、日本語の授業で『ウナギ』の勉強をするねん。」

日本語の授業にしては変なテーマだ。実は、「ウナギのなぞを追って」というテキストを今期の教材にした。塚本勝巳先生という、生物学者が書いた文章。そのテキストを詠んだ後、「ヨーロッパのウナギ」に関するリサーチと作文を、生徒に課したのだった。土曜日の午後は、GCSE(義務教育修了資格)の日本語模擬テストの試験官。ちょうどWBCのあとで、日本語のスピーチで、「大谷選手とトラウト選手」の対決について熱く話した生徒がいた。夕方に先生方で飲みに行く。翌日の日曜日に通知表を書き終え提出。これで、日本へ行く準備が完了。

「そろそろ、チェックインもやっとこか。」

ロンドンを発つのは火曜日。月曜日の朝、オンラインでチェックインをしようとする。あれっ。アムステルダムから関空まで飛行機が画面出て来ない。慌ててKLMオランダ航空に電話を架ける。

「その便はキャンセルされました。」

という返事。

 

いつも、母と一緒に食事を作るのが楽しみ。

 

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