演劇のお約束事

 

うどん屋の店先で始まる展開は、もう既に、何百回、何千回と繰り返されたパターン。

 

末の娘は英文科の卒業なの。それで、もちろん、シェークスピアも勉強したんだけれど、シェークスピアの喜劇には皆、次のようなパターン、「お約束事」があるんだって。

Ø  愛し合う若いカップルが障害を克服して一緒になる。

Ø  一度離れ離れになった人たちの再会。

Ø  人違い、人格の取り違え。

Ø  賢い召使がいる。

Ø  家庭内の緊張(親子げんか、兄弟げんか)

Ø  複数のプロット、筋の重なり合い。

Ø  洒落と語呂合わせが用いられる。

Ø  最後のシーンは、ハッピーエンド、結婚式とダンスである。

このような「お約束事」に沿って話が進むと、どのような良いことがあるのか考えてみたわけ。そして結論として「観客が安心して見ていられる」ということじゃないかと思った。芝居の観客って結構保守的。斬新な筋書き、斬新な展開を望んでいるようで、実際はそうじゃないんだね。

 有馬温泉から帰った翌日の日曜日、僕はY子さんと一緒に、吉本新喜劇のライブを見にいったの。見終わって彼女が言った最初の言葉がまさにそれ、

「安心して見てられるわ。」

でも、安心して見ていられるってことは、助かる面もある。フランスの田舎町で、肉体的にも、精神的にも疲れ果ててホテルに戻ったとき、緊張感はあるけど展開の予想できない、「スリルとサスペンス」に富んだドラマって見る気になる?そんなときは、ボンヤリこの吉本新喜劇を見て、アハハと笑ってるのが一番。

吉本新喜劇って、一応ステージドラマなの。だから、一応ストーリーはあるわけね。同時に劇団はコメディアンの集団であり、そのコメディアンが自分独自のギャグ、得意芸を持っている。ストーリーは、各コメディアンが、自分の得意芸を披露するために最低限だけ存在すると言ってもいいかな。コメディアンは、どんな展開であっても、同じギャグを出すの。従って、このコメディーの笑いの本質は「繰り返しの笑い」って言ってもいいと思うね。

 しかし、人間というのは不思議なもんだよね。意表をつかれたときじゃなくて、予想していたことがそのまま起こったときに笑ってしまうんだから。

「いよいよやるよやるよ、やっぱりやったあ〜」

って笑い。同じことを繰り返すことが、何故それほどまでに面白いのかなあ。例えば、末成由美っておばさん女優が出てくると必ず最初に、

「ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃ〜」

と言い、出演者全員がひっくり返る。どういう意味かって?ギャグの意味の説明も難しいけど、「こんにちは、おじゃましてすみません」くらいの意味かな。この人が出てくると、この言葉が出て来るのは分かっているのに、観客席が爆笑に包まれるんだよね。また森田まりこという女優は必ずゴリラの真似をするし。こうなると分かっているのに、実際そうなったら笑ってしまう。不思議なもんだね。

 

今週の出演者の紹介、その日の主役は川畑やすしさん。

 

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