エピローグ

 

これからこの飛行機に14時間乗って帰ることに。考えただけで長い・・・

 

「外国人のジョークはよう分からん!」

僕はそのとき、エールフランス機、関空発パリ行の中にいた。四週間の日本滞在が終わり、土曜日の早朝、母の家を発ち、京都駅から、また「キティちゃん電車」で関空へ。無事チェックインを済ませて、十時半発の飛行機に乗り込む。五千円ほど奮発して「足の伸ばせる席」を選んだので、前には非常口を挟んで、キャビンアテンダントの男性が向き合って座っている。丸顔で、髭を生やし、どっちかというと、フランス人ではなくイタリア人のような愛想の良い人。歳は五十近いか。離陸の数分間、黙って向かい合っているもの気詰まりなので、

「今回はどくくらい日本に滞在されたんですか?」

と聞いてみる。

「本来は三日間なんだけど、今回はハネムーンも兼ねているから、五日間いられたんだ。相手は彼女だよ。」

彼は、そう言って、反対側のCA席に座っている、ピチピチムチムチの若い女性CAを指差した。僕は混乱した。これって事実なの?まさか。冗談なの?取り敢えず、

「コ、コングラチュレーションズ。」

と言っておく。ホント、フランス人のジョークには苦労させられる。

 飛行機の中で、今回の、日本滞在の「成果」について考えてみる。祇園祭を見られたこと、それと金沢で家族、親戚全員に遭えたこと。しかし、それ以外はどこも行かなかったし、行けなかった。金沢から帰った後の一週間、京都は連日体温を超える最高気温。僕が住んでいた母の家の二階は、午後おそらく四十度を超えていたと思う。日中はチリチリと皮膚が焼けるようで、とても長くは外に出られない。コロナの感染が爆発的に増えていたこともあって、僕は冷房の入った一階で、一日中ゴロゴロし、もっぱら絵を描いていた。その結果、三週間で四枚の絵が完成。一枚の絵を仕上げるのに、十五時間から二十時間かかるので、いかに集中して描いていたかが分かる。これは、今回の最大の成果かな。

帰る三日前に激しい雷雨があり、酷暑は、それから少し和らいだ。雨の後、気温が三十六度から二十八度に下がる。

「わあ、メッチャ呼吸がしやすい。」

 また、母と一日中、長い時間を過ごせ、じっくりと話を出来たのもよかった。夕食は僕と母が交代に作ったが、お互い普段自分が余り作らない料理を食べられるし、美味しかったし、レパートリーも広がったし。それも今回の成果だろう。夕食の後は、作らなかった方が後片付けを担当していた。たいていNHKの「七時のニュース」を見ながらの後片付けになるのだが、ニュースの最後に天気予報がある。そこに「晴山さん」という気象予報士のお姉さんが登場する。

「すごい、気象予報士で『晴山さん』なんてピッタリの名前やろ。」

晴山紋音(はれやまあやね)さんの顔と名前が奇妙に心に焼き付いた。飛行機は、帰り道は別のコース。北上し、アリューシャン列島から、ベーリング海峡を抜け、北極海に入った。

 

晴山さんが出ている天気予報。NHKニュースの画面より。

<了>

 

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