黒豚しゃぶしゃぶ

鹿児島中央駅まで再会を喜び合う二人。

 

鹿児島中央駅に着き、予約しておいた駅のすぐ傍のホテルにチェックインをする。キヌコさんとは五時に、駅のエスカレーターの下で待ち合わせていた。五時少し前にそこへ行くと、既にキヌコさんが待っていた。生母とキヌコさんは抱き合って再会を喜びあっている。

「よく来てくださりました。」

とキヌコさんは涙ぐんでいる。

この後、駅ビルの最上階のレストランに入り、三人で「黒豚しゃぶしゃぶ」を食べた。黒豚は鹿児島の特産らしく、街中どこでも、「黒豚」と書いた看板にお目にかかる。しかし、街の中を黒豚がネソネソと歩き回っているわけではないので、念のため。薄く切った豚肉が皿に丸く並んでいる。河豚の刺身、「鉄刺」を思い出させる盛り付け。ピンク色の赤身と白い脂身の彩が美しい。

「一、二、三、と三つ数える間くらい茹でてください。」

とのウェートレスのお姉さんからの指示。肉を一切れ箸でつまみ、沸騰したスープに浸し、

「一、二、三」

と数えて、タレに漬けて口に入れる。全然脂っこくない。それに、柔らかい。何か、とろけるような味だ。料理の量が多く、あとのお二人はお年寄りなので、全部は食べ切れなかった。二人分を三人で食べてちょうどよかったくらい。芋焼酎のお湯割りを注文する。やっぱり鹿児島へ来たら焼酎を飲まなきゃ。

訪れた土地に知り合いがいて、その人達と交流できるのは良いこと。僕の好きなパターンである。そういう意味では、キヌコさんがおられて、彼女お会いできて、話が聞けて、今回の鹿児島行きはぐっと「締まった」と思う。キヌコさんとは九時前に別れた。

翌日は居酒屋で夕食を食べた。「母と一緒に居酒屋へ」というのは、永年親子をやっていて、初めての展開だ。ちょっと洋風の居酒屋なのだが、なかなか凝った料理が出てくる。カツオの刺身、これは正統派だが、「焙りヒラメのカルパッチョ」、なんてのもある。カツオの刺身、ピンク色の身をさることながら、それを浸す醤油が、甘くて、まったりしていて上手い。

「これ何処の醤油。」

カウンターの中のお兄さんに尋ねる。やはり鹿児島の地場のものらしく、お兄さんが銘柄を教えてくれた。明日、発つ前にスーパーに寄って買っていかないと。

それがきっかけになって、料理についてそのお兄さんに質問しまくった。生母も僕も、料理には人並み以上に興味がある方で、ついつい材料や、料理方法について聞いてしまう。しかし、コックのお兄さんは全然嫌な顔をせずに、全部教えてくれた。

「黙って食べられるより、自分の作ったものに興味を持ってもらえるのは、作った者にとって嬉しいものなのかも。」

店を出てから、生母とふたりでそんな話をした。

 

黒豚しゃぶしゃぶ、「いただきま〜す。」「食うぞ食うぞ。」