ミュージカルは金がかかる

 

二〇〇〇年の公演の際のパラディウム劇場の飾りつけ。赤が基調、エキゾチシズムを強調した舞台になっていた。

 

紹介記事の続きである。

「ブロードウェイで二〇一五年に上演された、ベテラン演出家バートレット・シャーによる『王様と私』は、シャム王を演じた渡辺謙が同年のトニー賞ミュージカル部門主演男優賞にノミネート、英国人の家庭教師アンナ役を務めたケリー・オハラが同賞主演女優賞を獲得するなど大好評を博し、二〇一五年の計九部門のトニー賞を受賞した。二〇一八年六月から九月にかけてロンソンのウエスト・エンドで上演された後、アジア各国へもトランスファーされるという。」

ちなみに、「トニー賞」というのは、映画のアカデミー賞の演劇版、その年にブロードウェイで上演された演劇やミュージカルに贈られる賞だという。

 僕たち五人は七月十三日の金曜日、開演時間の十五分前、六時四十五分に、ロンドン・パラディウム劇場の前に集まった。その日は五人とも仕事があったのだが、この日ばかりは定時に終わって劇場に駆けつけた。僕は、オックスフォード・サーカスのマクドナルドで夕食、夕食を食べる時間もなかったヴァレンティンは、劇場の前で買って来た巻き寿司を食べている。

 パラディウム劇場の中に入る。ストール、つまり平土間で、前から四列目という「かぶりつき」の席である。すぐ前にオーケストラ・ボックスがあり、入ると指揮者とオーケストラのメンバーが音合わせをしいていた。

いつも思う。ひとつのミュージカルを上演するってどれだけのお金がかかるんだろうって。まず、数十人の俳優、歌手を揃えなければならない。その中には、渡辺謙さんなど、高額のギャラの人もいる。その俳優を囲い、最低三カ月の契約を結ばなければいけない。それに、大道具、小道具、衣装などを設計し、制作しなければならない。証明、音声、舞台効果などの裏方さんも要る。普通の演劇だとそれだけだが、ミュージカルやオペラなどは、何十人単位のオーケストラが必要。時々、「ミラノ・スカラ座、日本引越し公演」などがあるが、その切符は三万円とか、五万円とかするという。百人以上の人間を移動させなければならないのだから、コストを考えれば、そえくらいの値段設定が必要なことは容易に想像がつく。ミュージカルを見るたびに、それをプロデュースした人の周到な計画と、実行力に脱帽する。今回の切符は、末娘が手配してくれたのだが、切符を手にして初めて値段を知った。七十五ポンド!一万円以上。しかし、その金額に納得してしまう舞台だった。元は取ったと思った。

僕が「王様と私」を見るのは今回で三回目。その他のミュージカルは一回しか見ていないので、同じ作品を三回も見るのは僕にとって異例と言える。二〇〇〇年の、前回のロンドン公演の際、末娘のスミレが、王様の六十何人いる子供の一人として舞台に立っていたことは前にも書いた。実際王様の子供は六十何人いることになっているが、実際の舞台では十数人だけ出演する。舞台の上の娘を見るために、僕は二度、ロンドン・パラディウム劇場に行ったのである。とはいえ、楽屋の入り口までは、娘の送り迎えに何十回と行ったが。

 

ガヴァネス(家庭教師)として、アンナはシャムの王様の子供たちに英語と西洋式の学問を教える。息子のルイスも一緒に聴いている。

 

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