薔薇色の空中都市

 

岩の回廊シークを通り、ペトラの街に入って行く。

 

十時前にペトラに到着。ゲートで金を払い中へ入る。入場料はヨルダン在住者が二JD、外国人が五十JD。いくら自国民を保護し、外国人から金をふんだくろうというポリシーであっても、「二十五倍」はちょっとひどいんじゃないの。G君は居住者であるので二JD、僕は五十JD。と言っても、金を失くして一文無しの僕に支払い能力はなく、G君が払ってくれたのだが。

ペトラは紀元前に、遊牧民であるナバタイ人が作った町。切り立った山に囲まれ、建物の大部分は砂岩をくりぬいて作られている。数百年の間、ヨーロッパ人に知られていなかったが、一八一二年、ここを訪れたスイス人によって再発見され、世界に紹介された。今は世界遺産に指定され、ヨルダンで一番の観光名所となっている。

G君は昨年の暮れに、ヨルダンに遊びに来た奥さんと子供さんを連れて、既に一度ここを訪れている。

「子供さん、ここ気に入ってた?」

「そらそうや。子供達の好きな『インディ・ジョーンズ』のロケ地やから。すごく楽しみにしてたし、楽しんでた。」

そうそう、ここはスピルバーグの映画、「インディ・ジョーンズ」の第三作目のロケ地になったこの場所。一九八〇年代にシリーズで三本作られたこの映画は、ハリソン・フォード演じる考古学者、インディアナ・ジョーンズが主人公の活劇。個人的には僕の趣味ではないのだが。ともかく、三作目で、インディアナ・ジョーンズと父親は、キリストが「最後の晩餐」で使い、キリストが磔(はりつけ)になった後その血を受けた「聖杯」を捜す旅に出かける。同じく「聖杯」を捜すナチスと戦いながら、やっとのことで聖杯を守る寺院に辿り着く。そのシーンがペトラで撮影されているのだ。

ペトラは何せ広い場所、一日で全て見るのは無理。くまなく見ようと思うと三日かかるという。今日はさらっと見て、次回妻を連れて来たときに、またじっくり見ようと思っていた。運転手のワリードさんとは、午後三時に会う約束をしているので、五時間たっぷり見て回ることができる。夕日が当ると特に美しいらしいが、今日は日没の時間まで、とてもいることはできない。

岩を掘り抜いた建物が両側に見える広い谷を十五分ほど歩くと、シークと呼ばれる垂直に切り立った岩の間の狭い回廊が現れる。クレタ島のサマリア・ゴージを思い出させる場所。そこを更に十五分ほど歩くと、広い場所に抜け、目の前にピンクの砂岩を彫りぬいた寺院が建っている。「インディ・ジョーンズ」の舞台になった「エル・ハズネ」だ。これがまず第一のハイライト。

「わあ、すごい。」

何人であれ、何語であれ、ここに到達した者から一様にそんな言葉が口をつく場所だ。ペトラを「薔薇色の空中都市」と呼んだ人がいるが、まさに適切な表現だと思う。

 

インディ・ジョーンズで有名となった、エル・ハズネ。見る者を圧倒する。

 

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