洗礼地ツアー

 

これが洗礼者ヨハネが洗礼に使った泉だそうです。ホンマかいな。

 

途中に分かれ道があった。別の道を行くと、「キング・フセイン橋」というヨルダン川に架かる橋を渡り、イスラエル占領地に到達するのだという。軍隊がその方角へ向かう車を検問している。ヨルダン川より西側、川からエルサレムに至る場所、いわゆる「ヨルダン川西岸地区」はもともとヨルダンの領土であった。しかし、一九六七年の第三次中東戦争以後、イスラエルが占領し、入植を始めたのだ。その後、ヨルダンは西岸地区の領有権を放棄した。それで現在は実質的にヨルダン川がイスラエルとヨルダンの国境になっている。

坂を下って行くと、海抜ゼロメーターという標識があり、そこで一度車を降りる。海面と同じ高さと言っても、足元には深い谷、ヨルダン・バレーが広がっている。まだまだ山の中腹にいる気がする。死海の水面は、これより更に四百メートル下なのだ。ヨルダン・バレーは結構緑が多い。

死海に着く直前に、「バプティズム・サイト」、つまりヨハネがイエスに洗礼を施した場所があるというので、そこに立ち寄ってみる。イスラム教徒のハッサン君は、僕達がキリスト教の聖地に行くということに対し、余りハッピーではないようだ。

ちょっと覗くだけのつもりが、しっかりとトラックの荷台に乗せられ、ツアーに参加させられてしまう。ペン型のオーディオガイドを渡され、所々でその説明を聴く。洗礼に使われた泉なんかを見せられる。

二十人ほどがツアーに参加しているが、僕達ふたりを除くと皆白人だ。こんなところへ来るのだから、当然のことながら皆「敬虔なキリスト教徒」なのだろう。全ての説明にうなずき、大いに感激している様子。しかし、僕は少なくともクリスチャンではない。

「本当にここで、イエスがヨハネから洗礼を受けたのだろうか。」

と何となく懐疑的になる。何せ、二千年以上前のことなのだ。そんな簡単に場所を特定できるものなのだろうか。

この場所はキリスト教徒にとって「大聖地」なので、教会が立っている。カトリック、プロテスタント、ロシア正教、ギリシア正教など、それぞれの宗派の教会が別々に建てられている。

「せっかくの『大聖地』なんだから、ここは宗派を超えて大同団結してほしいねえ。」

ということで、G君と僕の意見が一致した。もうひとつの「大聖地」である、モーゼが眠るというネボ山もこのすぐ近くだ。

ヨルダン川の岸に着く。死海に注ぐヨルダン川、幅が十五メートルくらいの小さな川だ。京都の鴨川の方が格段に広くて立派だ。京都で言うと、天神川に毛の生えた程度。緑色の水がゆっくりと流れている。

向こう岸はイスラエル占領地。ユダヤ教の僧と二十人ほどの人々が歌を唄っている。彼等とは、川を挟んで普通に会話ができるような距離。向かい側にはイスラエルの国旗がはためき、国境ということで、両側に銃を持った兵士が立っている。

 

ヨルダン川の岸にて。向かい側はイスラエル占領地。

 

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