休日の昼下がり

 

六千人収容のローマ劇場。二千年近く経った今も、まだまだ使用に耐える。

 

半円形のローマ劇場は、壮大なものだった。古くは大阪球場(ずっと以前に取り壊されてしまったが)、最近では「大阪ドーム」(京セラドーム)を思い出させる勾配のきつい観客席。六千人の人が収容できるという。二千年経った今でも、まだまだ立派にコンサートなどに使えそうな劇場。事実、夏の間、ここで劇が上演されるそうだ。

今日は、二十度をわずかに切るくらいの気温。日陰に腰を下ろすと、大理石の座席から伝わる冷たさと、吹き抜ける乾いた風で心地よい。誰もいない劇場で、大観衆のいる様子に思いを馳せることは楽しい。それが二千年前であったらなおさら。

 劇場の前の広場では、人々が小さな「貨幣市」を開いていた。昔の硬貨や紙幣を、地面に敷いた布の上に並べて売っている。傍を通ると、

「あんた、どこから来たんだい?」

と英語で声を掛けられる。

「日本から。」

と答える。

「そりゃ大変だった。家族は無事かい?」

「お陰さまで。」

そんな会話を何人かと交わす。子供達は、

「ハワユー?」

と話しかけてくる。ヨルダン人は、一見憂いを含んだ厳しいアラブの顔をしているが、実際は結構人懐こい人々のようである。もちろん、話し相手の全てが男性なのだが。今回、滞在中、結局ヨルダン人の女性と話すことは無かったなあ。

 ローマ劇場の正面の丘の上に「アンマン城」が見える。坂を登り、そこへ向かって歩く。入場料を払って中に入る。そこには古代の遺跡があった。色々な時代の建物の遺構が残っている。また、考古学博物館があり、有名な「死海文書」を見ることができる。

この場所、僕がアンマンで一番気に入った場所になった。丘の上からは、アンマンの街が三百六十度のパノラマで見える。街の喧騒が嘘のように静かで、砂漠からの乾いた風が吹き抜ける。天気の良い休日の午後に、ここのベンチで腰掛けて、本を読んでいるのは最高の気分。警備を終えた警官たちも制服のままここを訪れ、同僚たちとノンビリと散歩している。旅行者は少なく、地元の家族連れが多い。どこの国でもある、長閑な休日の午後の風景だ。

アンマンの街は波打つような丘と谷から出来ている。その丘に張り付くように家が建っている。標高は千メートル近くあり、そのせいで砂漠に囲まれながらも、気候が穏やかで、緑も多い。冬は結構寒く、雪も降るらしい。G君のアパートの近くに、ときどき宮殿のような家を見かけるが、それらの一部は、めちゃ暑い湾岸諸国のお金持ちが「避暑」に来るときのための、別荘であるらしい。

 

アンマン城のある丘の上で。谷を挟んだ周囲の丘陵地帯に街が広がっている。

 

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