来る者去る者

 

黄色い花の咲いているのが毒のある草。人海戦術で抜いていく。

 

六月から、日本人のSさんと一緒に、午前中の作業をすることになった。一年半の間、ずっと独りきりだったので、仲間がいるのは嬉しい。会話があるのは楽しく、もちろん人数が倍なので、作業もはかどる。二人でも、作業時間はそれほど短くならない。ホースで、牧場のあちこちにあるバケツに水を供給していくのだが、それにかかる時間は同じ。一時間余りだ。一人のときは、バケツが水で満たされるその間に、辺りの掃除を行う。二人いると、水遣りと清掃係に分けられるので、ウンコ拾いの質が格段に高くなる。二人で働き始めてから、牧場のパドックやフィールドは見違えるようにきれいになった。特に、道路に面した金網の傍は、見物する人の印象が良くなるように、念入りに掃除をした。

Sさんと一緒に働きだしてから一週間、朝牧場に行くと、厩舎の中に見慣れない仔馬がいる。まだ小さく、産まれてから数日、せいぜい一、二週間のように見えた。ボスのジュリーによると、その仔馬の持主が亡くなり、射殺される直前にレスキューしてきたという。

二日後の朝、Sさんと僕はジュリーに呼ばれた。

「新しく来た仔馬、まだ名前がないの。あなたたちで、『日本の名前』を付けてくれる?」

「雄ですか?雌ですか?」

僕たち二人は同時に尋ねた。雄とのこと。Sさんと話して、働きながら名前を考え、仕事が終わったら二人で決めようということになった。

 結局、彼の名前は、Sさんの提案した「タロー」になった。Sさんの息子さんの名前。雌だったら「サクラ」にするつもりだったとのこと。日本企業で働く現地スタッフは別だが、普通の英国人は、まず日本の名前を憶えてくれない。僕の本名の「モトヒロ」でも長すぎ、英語に似た発音がある「モト」と呼んでもらうことにしている。「タロー」なら、牧場のある町の隣に「ハロー」という名前の町があるので、

「『ハロー』のHの代わりにTを入れてね。」

と説明もし易い。と言うわけで、仔馬はタローという名前になり、次第に周りの馬からも認知され、仲間に入れておられるようになった。

 それから三週間後、

「エンジェルに引き取り手が見つかったの。」

とジュリーが言う。エンジェルは、去年、サンクチュアリーに来た、濃い茶色の仔馬だった。これには正直驚いた、僕が働き始めてから一年半、馬の数は増える一方で、減ることがなかったからだ。犬猫救済センターなら、

「まあ、このワンちゃん可愛いわね。うちで引き取ろうかしら。」

何て考える人もいるだろうが、馬を引き取れる人は、まあいないよね。ともかく、エンジェルは貰われて行き、僕が知る限り、新オーナーが見つかった馬の第一号になった。

 Sさんの「ファーロウ」(一時帰休)が終わり、七月からまた従来の仕事をされることになった。七月一日、「アローン・アゲン」を歌いながら、僕は、また、独りで仕事を始めた。

 

左側がタロー。最初は他の馬に追い回されていたが、三週間ほどで仲間に入れてもらえた。