最後の客

典型的なギリシアの海辺の村、ネオス・マルマラス。

 

 ウニから、いやシソニア半島から戻ってきた僕は、プールサイドの寝椅子に寝転がって本を読む。上半身裸になるとやはり寒い。太陽は照っているが、その位置はとても低い。僕がプールサイドで寝転んでいる間、妻は砂浜をジョギングしていたという。元気な人である。朝食の後、今日帰る客とその荷物を運んでいる電気自動車を見た。今朝、結構たくさんの人が帰ったらしい。明日は僕たちがここを発ち、その翌々日にはこのリゾートは空になるのだ。

日光浴の後夕日を見て、その後、例によって、スパに行く。汗を流して、ビールを飲んで、八時ごろに夕食のためにレストランへ行った。ずいぶん空席が目立つようになった。夕食を済ませ、バンガローに戻り、荷造りをしている妻を見ながら、僕は眠ってしまった。

 翌朝、僕たちが帰る日。空にはまた雲が多く、太陽は見えない。良い天気は一日だけだった。ギリシアでは通常、六月から九月まで、雨が降らない。良い天気が「ギャランティー」されている。だから、ヨーロッパの人はギリシアを訪れるのだ。しかし、冬には結構雨が多いらしい。また、そうでないと困るし。

このリゾートにはおそらく百人程度の人が働いているのではないだろうか。いや、もっといるかも知れない。明後日、このリゾートが冬期休業に入ったら、従業員の人たちはどうするのか、これが僕の素朴な疑問であった。疑問は解決させなければならない。朝食の後、フロントの前を通ったとき、フロントのお兄ちゃんに、

「明後日からどうするの?」

と聞いてみる。

「私はラトビアからここに働きに来てるんです。月曜日にはラトビアに戻り、半年間は学生をやります。来年五月にまたここに戻ってきます。」

と言うことだった。駐車場まで荷物を運んでくれたお兄さんにも同じ質問をしてみた。

「僕はルーマニア人だけど、テサロニキにガールフレンドがいるんで、故郷には帰らず、彼女と一緒にノンビリ暮らすつもり。来年の四月まで五ヶ月の休暇です。夏の間は、ずっとここを離れられないし、働き詰めだし、ちょうどいい休養ですよ。」

と言うことだった。僕は、このリゾートで働いている人たちが、実に色々な国から来ているのに驚いた。彼らは皆、半年契約でここで働いているのだ。しかし、半年毎日働いて、半年休暇というのも、考えてみればそれほど悪くないかも。

 飛行機の時間は午後一時。朝食の後、また海岸や、ヨットハーバーに沿って一時間ほど散歩する。空には黒い雲が広がり、時々小雨がパラつく。十時半に、僕らは荷物と一緒に電気自動車で駐車場まで運んでもらい、リゾートを後にする。六日前に来た道を、テサロニキの空港に向かって走る。車にガソリンを入れ、レンタカー屋で車を返す。六日前と同じお兄ちゃんが、ライトバンで空港の搭乗口まで送ってくれた。忙しかったかと彼に聞くと、

「ドイツ人が大量に来て結構忙しかった。ドイツは今、『秋休み』なんだって。クリスマス休み、復活祭休み、夏休み、秋休み・・・休んでばっかりじゃん。それなのに、ドイツ人はギリシア人が働かないって文句を言うんだから、やってられないよ。」

彼は、ドイツの首相、アンゲラ・メルケルに対して文句を言った。

<了>

帰る日もやっぱり・・・天気が悪かった。

 

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