三十歳の高校生

 

映画のシーン。ニュートンジョンとトラボルタ。ふたりとも結構細いが・・・

 

「これって、絶対に配役に無理があるんじゃないの。」

僕は、「グリース」の映画を最初見た時、そう呟いた。ジョン・トラボルタとオリビア・ニュートン・ジョン。グリースは米国の高校を舞台にした物語。しかし、二人とも高校生を演じるには、「トウ」が立ちすぎている。後で調べてみたが、一九四八年生まれのオリビアは映画の作られた一九七八年には三十歳(!)。

「『三十路のおばさん』に高校生の役をやらせるなよ。」

ちなみに、ジョン・トラボルタは当時二十五歳であった。

 しかし、配役に目をつむれば、明るくて楽しい映画だった。それで、僕の第一回目のロンドン・ミュージカル鑑賞にはこの「グリース」が選ばれたのだ。

場所は、ピカデリーサーカスに近い、その名も「ピカデリー劇場」。昔、京都に「ピカデリー」という映画館があったが、このロンドンの劇場が本家本元なのだろう。そう言えば、京都の映画館には「スカラ座」なんてのもあったなあ。ミラノの「スカラ座」が聞いて、しかも劇場がものを言えたら、絶対、

「そんな場末の映画館にあたいの名前を付けないでよ。」

と怒ると思うけれど。

 「グリース」とは日本でいう「ポマード」のこと。このミュージカルは一九五〇年代の高校を舞台にしているが、タイトルは、当時流行っていた髪の毛で「ひさし」を作る「リーゼント頭」を表しているそうだ。ピカデリー劇場の正面にも、ピンクの背景に大きな「リーゼント」と「サングラス」が描かれている。英国では「グリース」は「ポマード」だけではなく、脂ぎってベタベタした物を指すもっと幅広い意味に使われている。形容詞は「グリーシー」。油でベタベタの料理など(例えば英国名物のフィッシュ・アンド・チップスとか)は「グリーシー・フード」と呼ばれている。

 基本的に、ミュージカルというものは、最初舞台に掛かって、それがヒットすれば映画化されるという順序だろう。この「グリース」も一九七一年シカゴで初演され、翌年ニューヨークのブロードウェー、翌々年にロンドンのウエストエンドで上演されている。そして、先ほど述べたように映画化は一九七八年である。

 しかし、僕を含め一般大衆にとっては、先ず「映画」が先で、次に「舞台」という順番になると思う。

「映画で見て面白かったから、舞台でも見てみようっと。」

というのが、大部分の場合ではないだろうか。例えばこの「グリース」を映画で見た人は「舞台」を見た人の何百、いや何千、いやいや何万倍にもなると思う。

 そして、映画化されるに当たっては、当然、その時の「スター」が主演に起用されるわけ。それで、三十歳の言わば「おばさん」が「高校生」を演じたりするわけだ。確かに、僕が高校生の頃、オリビア・ニュートン・ジョンは一世を風靡していたよなあ。

 

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