舞い込んだ鯛

舞い込んできた鯛を三枚に卸す。立派な鯛だ。

 

「何か食べたいものある?」

と生母が聞くので、

「そうねえ、鯛か平目みたいな、白身魚の刺身もいいねえ。」

と答えておいた。翌朝、朝食の後茶碗を洗っていると、生母が玄関先で誰かと話している。

「まるで、昨日の話が聞こえたみたいやね。」

そう良いながら、母がビニール袋の中から、体調三十センチはある立派なマダイと、三匹のオコゼを取り出した。

「誰かに貰ろたん?」

生母の家の向かいに一杯飲屋がある。(僕は一度だけ中に入ったことがある。)そこの女将さんのシズさんが、前日お客さんと釣りに行って、捕ってきたものだという。しかし、偶然とは恐ろしいもの。鯛を食べたいと言ったら、本当に鯛が舞い込んできた。

 早速台所で鱗を剥ぎ、三枚に卸す。オコゼも捌く。鯛を三枚に卸すなんて最近やってないなあ。友人のG君を訪ねてガダルカナル島へ行ったとき以来、あるいはギリシアのミコノス島でやって以来?その夜、鯛の刺身は、風呂上りのビールに良く合った。

 ロンドンへ戻る前々日、やることもかなり片付き、時間も出来たので、一度ピアノの練習をしておくことにした。二週間以上一度もピアノに触れないということは、非常に不安なことでもあった。それで、生母の妹であるチズコ叔母に朝電話をし、その日、午前十時から十二時までの二時間、叔母のピアノを使わせてもらうことにした。

 十二時に、練習を終わって叔母の家を辞そうとすると、

「これからカレーうどん食べにいこうよ。」

と叔母が言う。美味しい店を知っているという。それから、叔母の車で、府立植物園の近くにある、「しみず」と言う店に行く。

 しかし、まあ、何と渋い、そして風情のある店。メチャ地味で、前を通りかかっても、見逃してしまいそうな店だった。叔母はその前に、車をドーンと横付けしたが、それだけで車の陰に隠れてしまうくらいの小さな店でもあった。

 中は木のテーブルと小さな座敷を合わせて十五人も入れば満員。ちょうど昼食時ということもあって席はほぼ埋まっている。そして、そのお客が全て「カレーうどん」を食べているのだ。しかし、卵が入りトロミのある「カレーとじ」と普通のスープ、「きつね」、「肉」等の材料の「順列・組み合わせ」があるため、「カレーうどん」と言っても、実際は二十種類以上のバラエティーがあるようだった。

 叔母は、「カレーきつねうどん」を、僕は「カレーとじ肉うどん」を食べた。

「なかなか素朴で美味しいですね。」

と僕はチズコ叔母に言った。

「でしょう?」