「眼球ハンター」

原題Der Augenjäger

2011年)

<はじめに>

 

「眼球三部作」の第二作目である。第一作目からほぼ続いている。三部作というのは、だんだんつまらなくなるパターンと、だんだんと面白くなるパターンがあるが、どちらになるのだろうか。

<ストーリー>

 

 アレクサンダー・ツォルバッハは、息子のユリアンの行方を追って、港の古い倉庫に来ていた。子供の泣き声が聞こえたという通報で彼と警察はその場所に駆け付けたのだが、ツォルバッハには、息子がそこにいるという奇妙な確信があった。彼は、誘拐された双子の兄妹を「眼球コレクター」から救出したが、そのために、大きな代償を払うことになった。その間に息子のユリアンが誘拐され、妻のニキは殺されていた。「眼球コレクター」が、誘拐した子供を捜すことに対して与える猶予は、常に四十五時間と七分であった。そして、間もなくその時間が過ぎようとしていた。ツォルバッハは、警部ストーヤの静止を振り切って建物の中に入っていく。建物の中には、数字合わせの鍵の付いた箱が置かれていた。

 その時、ツォルバッハの携帯に電話がかかる。それは「眼球コレクター」からであった。 眼球コレクターは息ツォルバッハに、子に対する「自分の命を投げ打つことのできる愛」を態度で示せという。彼は、箱の鍵を開けるナンバーをツォルバッハに告げる。ツォルバッハがその箱を開けると、ピストルが入っていた。「眼球コレクター」は息子を救うために、そのピストルで左目を打ち抜くようにツォルバッハに命じる。ツォルバッハはそれに応じて、ピストルを自分の左目に当てて引き金を引く。

 六週間後、アレナ・グレゴリエフは、拘置所の中の病棟で、容疑者のツァリン・ズーカーにフィジオセラピーの治療を施していた。ズーカーは有能な眼科医であったが、女性が強姦され、その後まぶたを切り取られるという事件の容疑者として逮捕されていた。これまで四人の女性が被害に遭い、そのうち三人は自殺、最後のひとりも行方不明になっていた。警察はズーカーを逮捕したものの、十分な証拠が得られず、数日後には拘留期限が切れ、彼を釈放しなければならなくなっていた。警部のストーヤは一計を案じ、「眼球コレクター」事件で、「触っただけで相手の心の中が読める」と評判のアレナにズーカーをマッサージさせ、ズーカーの次のターゲットを知ろうとしたのである。しかし、アレナはズーカーの心を読むことはできなかった。反対に、ズーカーはアレナのことを詳しく調べており、アレナに対し、自分に協力するなら、彼女が二十三年前に失った視力を回復する手術を施してもよいともちかける。アレナはそれを拒否する。

アリナが家に戻ると、ヨハンナ・シュトロームという中年の女性が彼女を待っていた。ヨハンナは、自分の娘のニコラが、ここ数週間行方不明になっていると話す。ヨハンナはその間に、一通の手紙を受け取っていた。手紙には娘のニコラが男に強姦されているポラロイド写真が入っていた。そして、その男がツァリン・ズーカーであることを、ヨハンナは新聞に載った写真を見て知ったという。しかし、その写真には特殊な処理がしてあり、数分後には画像が消えてしまった。ヨハンナは警察に行ったが、単にティーンエージャーの家出と考えられ、まともに取り扱ってもらえなかった。アリナは、そのヨハンナという女性が、なぜ自分にその話を持ち込んだのか、理解できない。

アリナは報告のために警察署を訪れるが、ストーヤ警部は不在で、マイク・ショロコフスキーという別の刑事が彼女を対応した。ショロコフスキー、通称ショレは、前回の「眼球コレクター」事件で、ツォルバッハを犯人と決め付けた人物であった。ショロコフスキーは、協力してくれた礼だと言って、ある住所を書いたカードを渡す。アリナがその場所に言ってみると、そこは墓場であった。そこにある古い家の呼び鈴を鳴らすと、ひとりの女性が扉を開けた。家の中に足を踏み入れたアリナは地面に叩きつけられ、どこかへ運ばれる。

アリナが気付くと、前にドクター・ロートと名乗る、医師が前にいた。彼は、そこが、世間から隠された特殊な病院であり、世間に公表できない患者が収容されていると話す。ローとは、アリナをひとりの患者の下へ連れていく。その患者は「眼球コレクター」に脅迫され、息子の命と引き換えに自殺したはずのツォルバッハであった。彼が自分の眼を撃つ直前、ストーヤが割って入り、その結果弾が逸れ、ツォルバッハは重症を負ったが命を取り止めたのだった。ツォルバッハは直前の「眼球コレクター」との会話を携帯に録音しており、それを聴いたストーヤはツォルバッハが死亡したと発表、葬儀も行われた。しかし、実は彼はこの病院にかくまわれていたのだった。息子のユリアンの安否は依然として不明のままであった。ツォルバッハの傷はほぼ治っていたが、彼はそのショックのため、話すことも、起き上がることも出来なかった。ロート医師は、アリナがツォルバッハに話しかけることにより、彼の快復のきっかけにしようと考え、アリナをツォルバッハに会わせる手筈をしたのであった。アリナの話しかけは効果を表し、ツォルバッハは簡単な言葉を発し、周囲とコミュニケーションできるようになる。

病院から出たアリナはカフェに入る。彼女はそのトイレで何者かに襲われ連れ去られる。麻酔をかけられたアリナが眼を覚ますと、手術台の上に縛り付けられており、そこにはズーカーがいた。ズーカーは、アリナを四ヶ月の間拉致し、その間にアリナの眼が再び見えるようになるための手術をすると言う。アリナは隣にもうひとりの若い女性がやはり囚われていることを知る。その女性はニコラ・シュトローム。ヨハンナ・シュトロームが捜していた、行方不明になった娘であった。ニコラはアリナの視力を解決させるための、角膜や神経のドナーとして捕らえられていたのであった。ニコラはズーカーに、イリスという名前の女性の協力者がいることを話す。

ズーカーがふたりに最初に手術を施す。ニコラはまず片目の視力を失う。二人はズーカーの留守に、何とか逃げようと画策する。アリナは身体の動ける部分を徐々に増やし、椅子に掛かっているズーカーの白衣に到達する。そこにはふたりをくくりつけている手錠を開ける鍵が入っていた。その鍵はアリナの手錠だけを開けることができた。アリナは脱出を試みる。しかし、そのとき爆発が起き、彼女は床に叩きつけられ気を失う。

やっと起き上がり、車椅子で移動ができるようになったツォルバッハは、病院を抜け出し、自宅に戻る。自宅に戻ったツォルバッハは携帯に電話を受ける。それは「眼球コレクター」からであった。ラーマンは、警察官のショロコフスキーを人質に取っているということを告げる。「眼球コレクター」はさらに風呂場を見ろという。バスタブの中には、アリナの盲導犬のトムトムが縛られ、水道が開かれていた。トムトムはわずかに鼻だけを水面に出し、数分後に溺れ死ぬという状態であった。「眼球コレクター」は、ショロコフスキーとトムトムのどちらを助けるのかとツォルバッハに迫る。「眼球コレクター」が家の中にいると感じたツォルバッハは、天井に向かって拳銃を発射する。彼は手応えを感じる。彼が二階に駆け上がると、ショロコフスキーが腹を撃たれて倒れていた。ツォルバッハは浴室に戻り、トムトムを解放する。彼はそのとき、庭を横切って逃げようとしている「眼球コレクター」を発見する。ツォルバッハは拳銃を発射する。弾は「眼球コレクター」の肩に当たった。負傷した男は、

「俺を殺すとえおまえの息子の行方は永久に分からなくなるぞ。」

と言い残して走り去る。ツォルバッハは次々と拳銃を発射するが、それ以上は命中しなかった。

駆けつけた警察によって、再び病院に戻されたツォルバッハは、息子探しのために、すぐに退院させてくれるようにロート医師に要求する。ローと医師はもう一晩泊まることをに命じる。ツォルバッハはそうする見返りとして、ズーカーの被害者のうち唯一の生存者であるタマラに会わせてくれるように頼み、ロート医師もそれを受け入れる。

ツォルバッハはタマラに会う。まぶたを切り取られ、眼を閉じることのできない彼女は、水中眼鏡のようなものを掛けていた。驚いたことに、タマラはユリアンを知っていた。彼女は、ズーカーに捕らえられている際、イリスという女性に管理されていたこと。イリス、ユリアンの日記と、彼の描いた絵をイリズーカーら見せられたという。ツォルバッハは、タマラの話を手がかりに、息子の行方を探ることが出来ることを期待する。しかし、ツォルバッハの前で、タマラは飲まないで溜めておいた睡眠薬を一気に飲み干して自殺してしまう。ツォルバッハは、タマラが家族を相手に書いた遺言状を発見し、それを密かに持ち帰る。ツォルバッハは一縷の望みを持って、タマラの父親を訪れる。しかし、彼と話していたのは、タマラの父親ではなく、それを装った別の人物であった・・・

 

<感想など>

 

意外性ということは認める。読者がとても予期できない方向に物語が展開する。この結末を予測できた読者はひとりもいないと思う。今回も、主人公が倒され、危機一髪という場面が何度も登場する。テレビ向けの構成。テレビドラマだと、そこでCMが入るのであろうが。しかし、意外性を追求すると、リアリティーを犠牲にしなくてはならない。いくら後で辻褄合わせが行われようと、ストーリーの展開にかなりの無理が出る。実際、ドイツ語の読者の書評のサイトを見ても、意外性はあるが、現実感が薄い、ストーリーの辻褄が合っていないという感想が多く見られた。私も、その通りだと思う。

この物語、一応単独でも読める構成になっているが、前作の「眼球コレクター」の続きという展開になっている。前作の中で、母親を殺し、子供を誘拐し、父親に四十五時間と七分の猶予を与え子供を捜させる。そして、その期間が過ぎると子供も殺され、左目がくりぬかれるという事件が語られる。その犯人、通称「眼球コレクター」の正体が、物語の最後に明らかになる。しかし、犯人は捕まらず逃亡する。そこから、今回の物語が始まる。しかし、この作品では、前作の結末自体が否定される。もちろん、作家は、登場人物やストーリーを掌中に納め、コントロールできるが、

「そこまでやっていいのか。」

と感じてしまう。

 三部作なので、もう一作あるのだが、次へ進んでよいのか、迷ってしまった。

 

20158月)

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