フランスがフランスである所以

 

ヨットハーバーの朝、朝日を浴びて白い船体がオレンジ色に光る。

 

 ダンケルクがいくら英国に近くても、やはりフランスはフランスだと感じる時がある。漫画「おそ松くん」の登場人物、イヤミ先生が、

「ミーはおフランスに行ってきたざんす。」

と気取っていたが、フランス人であることの悪く言えば「気取り」、良く言えば「誇り」を常に感じる。

 例えば、ホテルのテレビのチャンネルは全部フランス語。ホテルの食堂で朝食を取っている人たちの会話を聞いていると、ドイツ語、オランダ語、英語なども聞こえてくる。結構インタナショナルな客層なのだ。それでいて三十チャンネルくらい見られるテレビ局が全部フランス語とは。何も日本語の放送を入れろとは言わない。せめてBBCCNNのニュースくらいは入れて欲しい。オランダとかドイツのホテルだと、英語のチャンネルは絶対あるし、その他ヨーロッパの主要言語の局も入れているのに。

 それと、レストランのメニュー。これもフランス語だけという店が多い。しかも、今日のメニューを黒板にチョークで書いてある店が結構ある。これは読めない。一緒に出張したPさんと行った、海岸のプロムナードに面したスペイン料理店もそうだった。半畳くらいの大きな緑色の黒板に、白いチョークで何やら書いてある。席に着くと、黒いTシャツと黒いレギンズを着たウェートレスのお姉さんがその黒板をテーブルの横に持って来た。

「読める?」

「皆目。」

Pさんと僕は顔を見合わせる。ここは一応観光地なのでしょ。ちょっとは考えてよ。黒板の一行が何とか「パエリア」と解読できた。

「僕、パエリアにする。」

「じゃあ僕も。」

出て来た「ミニ・ロブスター」平たく言えばザリガニの乗ったパエリアは結構美味しかった。

「さすがフランス!」

と思うのは、レストランで、銘柄を指定しないでワインを注文する、つまりその店のハウスワイン注文するときだ。どのレストランも、どのバーも、結構美味しいハウスワインを提供してくれる。場末のバーでも、ホテルのバーでも、英国のようにジュースのようなワインでなく、結構「コク」のある、美味しいワインが出て来るのは嬉しい。

 ダンケルクで食べた料理のベストスリーを挙げておこう。一番は、ホテルから出てすぐの、古い灯台の根元にあるレストランで食べた「カニのクリームコロッケ」、まったりとした舌応えと落ち着いた味が最高だった。二番目は、工場の社員食堂で食べたニジマスのムニエル。魚、特に川魚は鮮度が勝負だが、社員食堂の四ユーロのメニューにも、新鮮な魚が使われていたのには驚いた。三番目は、メニューが読めないので仕方なく頼んだシーフードのパエリア。このベストスリーを挙げてみて、僕は魚料理が好きなのだと、つくづく感じた。

 

当てずっぽうに注文したわりには「正解」だったパエリア。ザリガニが何匹も鎮座している。

          

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