アルネ・ダール・テレビシリーズ
シリーズ一
(2011−2012年)
アルネ・ダールの「Aグループ」シリーズは、スウェーデンの「フィルムランス社(Filmlance)」により二〇一一年と二〇一五年の二回、テレビシリーズとして映像化され、スウェーデンはもとより、ドイツや英国でも放映され、人気を博した。「Aグループ」とは、ストックホルム警視庁内に作られた、「国際的な凶悪犯罪を担当する専門グループ」というものである。
テレビドラマは、各エピソード三時間前後と、十分な時間が取られており、登場人物の背景、私生活、内面なども実に丁寧に描かれている。もちろん、よく練られたアルネ・ダールのストーリーがベースにあり、「見始めたら止められない」シリーズとなっている。
グループの扱う事件の性格からして、ストーリーが全て国際的で、国外ロケがふんだんに取り入れられている。スウェーデンの他に、第一作ではエストニアが第二の舞台になっている。第二作ではニューヨーク、第三作では、オランダが登場する。第五作は「ヨーロッパ・ブルース」というタイトルに表されるように、全ヨーロッパに物語が展開し、イタリアやドイツが舞台となる。ともかく、「国際的な犯罪に挑む」という点が、このシリーズのユニークさであろう。「ボーダーレス」は、今や経済や貿易だけではなく犯罪も、ということになる。
二〇一一年のシリーズ(シリーズ一)では、以下がグループのコアメンバーとなっている。
英国で放映されたBBC Fourのサイトより。
<メンバー/配役>
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Jenny Hultin ジェニー・フルティン(リーダー)/Irene Lindh イレーネ・リンド
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Kerstin Holm ケルスティン・ホルム(女性)/Malin Arvidsson マリン・アルヴィドソン
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Viggo Norlander ヴィッゴ・ノランダー(最年長)/Claes Ljungmark クラエス・リュングマルク
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Paul Hjelm パウル・ヒェルム(停職中にヘッドハントされる)/Shanti Roney シャンティ・ロネイ
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Gunnar Nyberg グナー・ニュベリ(マッチョな中年、教会の合唱団に所属)/Magnus Samuelsson マグヌス・サムエルソン
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Jorge Chavez ホルヘ・チャヴェス(チリ出身、ヒスパニック系)/Matias Varela マティアス・バレラ
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Arto Söderstedt アルト・スーダーステッド(五人の子供の父)/Niklas Åkerfelt ニコラス・オーカーフェルト
タイトルバックでは、リーダー役で年配のイレーネ・リンドを抑え、マリン・アルヴイドソンがトップに表示されている。アルヴィドソンは、南米、エルサルバドル出身、黒髪でラテン系の顔立ち。その他に、チリ出身というホルヘを演じる、マティアス・バレラがいる。その他のメンバー、俳優は北欧系である。
マリン・アルヴイドソン
シリーズ一の作品は、以下の通り。
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Misterioso (ミステリオーソ)2011年11月放送
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Ont blod, (邪悪な血)2012年10月放送
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Upp till toppen av berget (山頂まで)2012年11月放送
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De största
vatten (大水)2012年11月放送
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Europa blues (ヨーロッパ・ブルース)2012年12月放送
各エピソードとも、同名の小説に基づいており、前後半に分かれ、各約一時間半、エピソード毎約三時間と、たっぷりと時間と手間を掛けた作りになっている。
Misterioso (ミステリオーソ)2011年11月放送
小さな町の銀行を襲う外国人の二人組。ひとりが銀行の中に入り、一人は車で待つ。なかなか出てこない仲間を心配して男が中に入ると、仲間は矢のようなもので額を撃ち抜かれて死んでいた。男はその矢を抜き去って逃亡する。
警察官、パウル・ヒェルムは福祉事務所に呼ばれる。そこには、ライフルを持った黒人が立て籠もっていた。亡命申請を却下されたことを逆恨みして、事務所を襲ったのだ。パウルは単身男の立てこもる建物に乗り込む、
「武器は持っていない。」
と言って、男と対峙したパウルは隙を見て、その男を射つ。無許可の単独行動、犯人を騙し打ちにしたということで、パウルは警察の内部調査委員会に呼ばれ、停職処分を受ける。
経済界の要人が次々に射殺される事件が起こる。使用された拳銃は皆同じであった。ストックホルム警視庁長官はその捜査を「Aグループ」に委ねる。「Aグループ」のリーダー、ジェニー・フルティンは、停職処分を受けていたパウルを自分のチームにスカウトする。そこには既に五人のメンバーがいた。ケルスティン・ホルム、ヴィッゴ・ノランダー、グナー・ニュベリ、ホルヘ・チャヴェス、アルト・スーダーステッドである。既に三人の経済界の要人が射殺され、動機や犯人の行方は全く分かっていなかった。三人は同じゴルフ倶楽部に属していたことだけが分かっていた。
某コンツェルンの総帥ヴィーゼダールが、連続殺人事件のニュースを見ている。彼は、外にいつも同じ車が停まっているのに気付いていた。エストニア、タリン。銀行強盗の片割れの男は、ボス、ユーリ・ミコヤンに失敗を報告し、仲間に突き刺さっていた矢を見せる。ユーリは部下の失敗をなじり、矢を男の手に突き立てる。
パウルは殺された男たちが属していたゴルフ倶楽部を訪れ、受付の若い女性と話す。彼は更に、ゴルフ場の経営者を訪れる。殺された三人は、直前に倶楽部を辞めていた。他に同時に二人が倶楽部を辞めたという。ひとりは日本にいた。パウルは最後の一人、フランツェンが次の犠牲者と予想し、チームはその男の家を見張る。深夜家に侵入した若い男を捕えるが、その家の息子だった。
同じころ、新しい犠牲者が出る。同じくビジネスマンで、同じ武器が使用されていた。ひとつ違う点は、その男が、ゴルフ倶楽部のメンバーではなかったことだ。犯行には、カザフスタンで作られた銃弾、ロシア製の拳銃が使われていた。ホルヘは、その銃弾が、かつてエストニアのマフィアによる犯行に使われたことを突き止める。そのマフィア組織は、人身売買とアルコール密輸に関連していた。ホルヘは、アルコール密輸の容疑者を締め上げて、エストニアのマフィアの関係者が誰であるかを知る。それは「Xリーグ」という組織で、スウェーデン国内で動いているのは、「イゴール&イゴール」というあだ名のふたりの男であった。
ヴィッゴはタリンに知り合いの警察官がいるので、タリンを訪れたいと言う。ジェニーもそれを認める。ヴィッゴはエストニアに向かう。
殺された四人の男たちは、数年前に五人で一緒にゴルフをしたことがあった。そのとき、キャディーをしていたのはゴルフ場の受付の若い女性だった。彼女は、五人の男が自分を強姦しようとしたと言う。パウルとケルスティンはその女性の兄を訪れる。兄は犯行を自白する。しかし、彼は武器の入手経路や、状況を説明できなかった。彼は、妹のために犠牲となりたかっただけであった。アルトは、一連の犯行の動機は「復讐」であると考える。
ヴィッゴはタリンに着く。ユーリ・ミコヤンが率いる犯罪組織「Xリーグ」の情報を得るためである。エストニアの警察は、そのグループのメンバーが話している現場を、ビデオに収めていた。そのひとりは逮捕されたが、証拠不十分で釈放されようとしていた。「イゴール&イゴール」の二人組も写っていた。ヴィッゴは釈放された男を追う。しかし、罠にはまって、彼等に捕らえられ、両手に釘を打たれて磔にされてしまう。グナーは教会の聖歌隊にはいっている。その頃、彼はモーツアルトのレクイエムのリハーサルをしていた。
第五の殺人が起こる。実業家の娘が家に戻ると、父親が射殺されていた。ジャズが鳴っている。CDプレーヤーの中にあったCDは父親の物でなかった。CDは犯人が持ってきたものと思われた。ホルヘはその音楽に聞き覚えがあった。「ミステリオーソ」という、モンク・カルテットが演奏する曲のライブ盤で、そのライブバージョンは、世界中で四枚しかコピーされていないという。CDから指紋が見つかるが、その指紋は警察のリストになかった。
コンツェルンの総帥、ヴィーゼダールを「イゴール」の一人が訪れる。
「お前が警察に連絡したのか。」
と、男は詰問するが、ヴィーゼダールは否定する。翌朝、ヴィーゼダールはタリンへ向かう。彼は自分を守るための用心棒契約をユーリと結ぶ。
ヴィッゴが、タリンで「磔」(はりつけ)にされたことがチームに伝えられる。ジェニーはヴィッゴを独りでタリンへ送ったことを悔やむ。警察署長は五人の殺人事件に全く手がかりがつかめないことを記者会見で叱責され、ジェニーに圧力をかける。負傷したヴィッゴはストックホルムに戻る。同僚たちは彼を暖かく迎える。ヴィッゴは、タリンで会った男が、「イゴール&イゴール」の一人であることを証言する。
森の中をジョギングする女性実業家を、ピストルを持って待ち受ける男。しかし、他の人間が現れ、計画を実行できない。彼女が家に戻った際、ベランダにいる彼女を何者かが射殺する。
ケルスティンとパウルは、CDの持主の一人を訪れる。その男はバーのオーナーだった。ケルスティンはウォッカを注文する。彼女はその酒を店の前にいるアル中の男にそれを飲ませる。男はその酒がエストニア産であると言い当てる。ケルスティンとパウルは、再び店を訪れ、ウォッカが、密輸入されたものであると指摘、それをネタに情報を得る。店のオーナーは、酒を「イゴール&イゴール」というロシア人を通じて買ったことを白状する、ふたりのロシア人は、借金の方にCDプレーヤーを持ち去り、その中に「ミステリオーソ」のCDが入っていたという。「イゴール&イゴール」の素性が分かる。ふたりともエストニア人であった。
パウルとケルスティンは、その町に泊まることにする。その夜ふたりは関係を持つ。地元警察の警官が「イゴール&イゴール」の一人が町で起こった銀行強盗に酷似していると言う。その男は、鋭い釘のようなもので額を刺されて死んでいた。ギョラン・アンダーソンという行員が、当時銀行に居たが、彼はその後、リストラに遭って銀行を去っていた。パウルは、銀行の休憩室に、ダートの的があるのに気付く。
ジェニーはタリンから戻ったヴィーゼダールを訪れる。彼は殺された五人のメンバーが属する社外監査ボードの長であった。ヴィーゼダールは、エストニアにビジネスを広げようとしていた。チームはヴィーゼダールを見張る。何者かが屋敷に侵入、ニュベリが撃たれる。撃った男は「イゴール&イゴール」の一人であった・・・
第一作とあって、結成間もない「Aグループ」を描いている。紹介も兼ねて、お互いに尋ね合うかたちで、六人のメンバーの背景が語られる。まだ、お互い敬称(ドイツ語版ではSie)で呼び合っている。パウルは、人質事件で単独行動をとり、命令なしに犯人に発砲して、停職処分になっている。グナーは妻に暴力を振るって逃げられた経験がある。ホルヘはチリ出身でミュージシャンを志していた。アルトには五人の子供があり、彼はそれを「ナンバーワン」から「ナンバーファイブ」と数字で読んでいる。ヴィッゴは最年長のメンバー、「ファイティングスピリッツがない」とジェニーに言われ、巻き返しを図る。リーダーのジェニーと、ケルスティンの過去はまだ語られていない。ここで点数を稼がないと本当の停職になってしまうパウルは、働き過ぎで、妻との関係が悪くなる。妻は独りで休暇に行ってしまう。
デンマークのTVシリーズ「キリング」と同じパターンだと思った。次々と容疑者が現れては消える。つまり、無駄な捜査、徒労が延々と描かれる。真犯人の名前が挙がるのが、後半も半ばになってから。つまり、最初の四分の三は、ずっと徒労が描かれているのだ。しかし、それが、ドラマにリアリティーを与えている。
掃除人のイラン人の男いい味を添えている。マジシャンなのだ。アルネ・ダール自身が一瞬だが登場する。街のバーで酒を飲んでいた。ヴィッゴが「磔」にされたとき、グナーの入っている聖歌隊の歌うモーツアルトの「レクイエム」が流れる、そんな演出も憎い。
「ミステリオーソ」というジャズの曲が登場し、それが事件を解く、ひとつの鍵となる。この曲自体は実在の曲で、一九五八年に、米国のテロニオウス・モンク・カルテットが出したレコードだ。世界に四つしかコピーのない、大変珍しいライブ録音が存在するという設定。ミュージシャンを目指したチャヴェスがそれを知っていた。
このドラマの魅力は、何といっても「徒労」と「人間」が丁寧に描き込まれていることだ。これだけ丁寧に描かれると、何が起こっても納得してしまう。醸し出される「リアリティー」も素晴らしい。この作品はスウェーデンで、百五十万人の視聴者を獲得した。(欧州では視聴率何パーセントとは言わないで、視聴者の総数が発表される。)この作品の成功を基に、第二作が作られ、十か月後に放映される。その後の作品も、コンスタントに百万人以上の視聴者を得た。これを見て、私も続編を見ようと決意した。
Ont blod(邪悪な血)2012年10月放送
ニューヨークの空港。一人の乗客がスウェーデン行の飛行機に乗ろうとするが、キャンセル待ちになる。ストックホルム行の飛行機を待つスウェーデン人カールソンは、見知らぬ男に話しかけられる。数時間後、話しかけた男は、空港の物置でカールソンを椅子に縛り付けていた。犯人は航空会社に電話を入れ、カールソンの持っていた飛行機の切符をキャンセルする。カールソンには、首と喉に金属の鉗子が突き立てられていた。
ヴィッゴの誕生日を祝う「Aグループ」のチーム。前回胸を撃たれて負傷したグナーも、まだ腕を吊っているが復帰している。そこにジェニーが現れる。ニューヨークの空港で殺人事件がり、その容疑者の乗った飛行機がストックホルムに向かっているという知らせが、FBIから入ったという。全員空港へ急行する。しかし、その時点で、犯人の名前も人相も分かっていなかった。「白人で、五十歳半ば」というのが唯一の情報。飛行機が到着する。「Aグループ」のメンバーはパスポートコントロールや荷物の受取り場で待機する。犯人の使った偽造パスポートの名前が判明する。しかし、その時は既に遅かった。その男は、既にコントロールを通り過ぎた後であった。
スウェーデン、バルト海に浮かぶゴットランドの海岸に、ゴムボートでイラク人の男性二名と女性一名が着く。スウェーデンでの協力者二人が、彼らを隠れ家に案内する。
ジェニーは、スウェーデンに到着したのは「ケンタッキーの殺人鬼」と呼ばれる連続殺人犯で、一九五七年から、同じパターンで、十六年間に渡り、二十四件の殺人を繰り返してきたと、チームのメンバーに伝える。その後二十年間被害者は出なかったが、最近になりまた、同じ犯人によるものと思われる事件が頻発していた。犯人は二本の鉗子を使い、一本を声帯に突き立て声を奪い、一本を頸の神経に突き立て、犠牲者を苦悶の死に導いていた。FBIはその犯人像を掴んでいなかった。犯人が入国のとき使った偽造パスポートには、二十三歳と書かれていた。ケルスティンは、どうして「五十代半ば」の男が、二十三歳の人物のパスポートを使い、入国審査の係員を騙せたのか不思議に思う。
イラク人の男女の隠れ家に近づく、顔に刺青を入れた男がいた。脱獄した凶悪犯のガラーノだった。イラクからの男女を匿う組織を率いるのは、スウェーデン人の夫婦、夫は外務省官僚のエリック・リュンドベリア、妻のユスティーネ。二人に、イラク人移送の手配が遅れているとの連絡が入る。妻は夫に、彼らを何時までも穴倉の中に閉じ込めておくわけにはいかないと言う。イラク人たちに遅延が告げられ、彼等は失望する。外出したリュンドベリアを待ち伏せした男がいる。男はリュンドベリを地下道で殴り倒し、車のトランクに乗せて運び去る。
ジェニーは、FBIのレイ・ラーナーから、連続殺人犯の情報を得るため、ニューヨークに向かう。何故、犯人はスウェーデンに向かったのか?その目的は何か?彼女はそこを明らかにしたかった。ニューヨークに着いたジェニーは、レイと一緒に、カールソンが殺された空港の物置を見る。レイによると、「ケンタッキーの殺人鬼」が使う道具は、ベトナム戦争中に特殊部隊によって開発されたものだという。ウェイン・ジェニングスなる人物が捜査線上にあったレイはいう。しかし、ジェニングス自身は、二十四年前の自動車事故で、死亡したことになっていた。そして、ジェニングスはCIAのエージェントであると思われる節があった。レイはCIAの関わりに関しては、チームメンバーにも言ってはならないと、ジェニーに口止めする。
コンピューター会社のリンクコープ社を見張る男。その男は、殺人のための例の「道具」を持っていた。その男の回想:
「幼い時、洋服ダンスの後ろに隠された扉を見つける。そこは秘密の地下室に通じる階段だった。地下室で、彼は拷問の道具を見つける・・・」
真夜中、傍を通りかかった女性が銃声を聞く。若い男がプラスチックのカバーに包まれて道路に置かれていた。「Aチーム」のメンバーが現場に呼ばれる。殺された男は胸を撃たれていた。グナーは警備員の女性と話すが、彼女は何も怪しい者を見なかったと証言する。
ヴィッゴは、ホルヘとディスコに行く。ヴィッゴはそこでアストリッドという女性と出会う。ヴィッゴはその女性と寝る。ケルスティンは牧師の男性と付き合い始めていた。パウルは、息子のダネが、サッカークラブの練習と言って外出するが、他のことをしていることに感づく。
グナーは、リンコープ社の警備主任、ダニエル・ブリンクに会う。ブリンクは昨日、何者かが敷地に侵入したことを認める。女性警備員は銀行の金庫を開設する。彼女は、そこに書類を入れ、
「見たことを全て書き留めた、金を払わなければ警察に連絡する。」
と何者かを脅迫する。
リュンドベリアの妻は、何度も夫に連絡を取るが、彼は電話に出ない。白人の、二十五歳から三十歳のアメリカ人と思われる男が、合鍵を作ったという連絡が入る。ジェニーはストックホルムへ戻る。
ガラーノの兄を訪れるパウルとケルスティン。そこには警備員を装った警官がいた。その監視カメラにパウルは自分の息子が写っていのを見つける。驚いたパウルはピストルを持ってガラーノの兄の部屋に突入する。パウルは、兄を締め上げ、弟の居場所を白状させる。息子はこのことは母親には言わないでくれと言い、パウルは言わないと約束する。ホルヘとパウルはガラーノ弟の隠れ家を訪れる、そこでは彼が首を刺されて死んでいた。同じころ、リュンドベリアも首を刺された死体で見つかる。
グナーは十五年前に別れた娘に電話をする。会いたいと言う。ケルスティンの相手は、自分は白血病だと告げる。
リュンドベリアの妻は、匿っている人間たちを別の場所に移すように協力者のヘルマンに指示する。ヘルマンは、エリックが殺されたので、隠れ家を変える必要があると、三人に告げる。アルトはリュンドベリアの身元確認を妻のユスティーネに求める。妻は、夫が殺されたのにも関わらず、自分の身辺の護衛を拒否する。彼女はアルトと話しているとき、ヘルマンとからの電話を受ける。ユスティーネは、アルトに兄からの電話だという。アルトは彼女が何かを隠していることを直感する。
パウルは米国のレイにコンタクトを取り、ウェイン・ジェニングスの家族、特に息子について調べてくれるように依頼する。ジェニングスの過去について調べていたパウルとケルスティンは、近年の殺人が、犯人の息子によって行われたのではないかと推理する。レイが、ジェニングスの家をもう一度調べると、押入れの奥に隠し扉があった。その背後に地下室へ続く階段。そして地下室に拷問の跡が発見された。メンバーは息子が新しい殺人犯人だと確信する。息子、ラマー・ジェニングスのアパートで、レイは、父親の写真を発見する。一九九五年に書かれ、スウェーデンから発信された父親からの手紙も発見される。
リンコープ社の前で殺された若者の所持品に、新しくカットしたキーがあった。その鍵をもってケルスティンとグナーはリンコープ社を訪れる。彼らはその鍵が合うドアを同社で探す。その鍵の合う部屋があった。ひとりの男が飛び出し、グナーとケルスティンとを殴り倒して逃げる。部屋の中には、女性警備員が金属の器具を頸に突き立てられていた。グナーとケルスティンは病院に運ばれる。女性警備員も命は取り留める。
FBIのレイがストックホルムにやって来る。一九九五年に米国からスウェーデンに移住したのは十四人。しかし、ジェニングスの名前はない。メンバーはレイの持ってきた、ラマー・ジェニングスの家にあった、父親と思われる男の写真を見る。グナーもその写真を手に取る。彼はその人物に、ごく最近会っていた・・・
ふたつのストーリーラインがある。ひとつは、米国からスウェーデンに入国した連続殺人犯。もうひとつは、スウェーデンの海岸に辿り着いたイラク人の男女三人と、彼等を助けるスウェーデン人である。
連続殺人犯は金属製の鉗子を使用する。ひとつを声帯に突き立て、被害者が声を出せないようにし、もうひとつを頸の神経に突き立て、被害者を苦しませる。いわば、「拷問」の道具である。この犯人、一九五七年から十六年間に渡り、犯行を繰り返しながら、一九七〇年代にピタリと活動を停止する。そして、二十年以上経ってから、また同じパターンでの犯行が始まった。その奇妙な時系列が、この犯罪の謎を解く鍵になっている。
イラン人の男女については、最後の最後まで、スウェーデン入国の目的は分からない。外務省の官僚とその妻、ヘルマンと名乗る協力者が、彼等をサポートしている。彼らはテロリストなのか?彼等が怖れるのは誰なのか?この辺りも興味深い。
そして、第一作に続いて、「Aグループ」のメンバーの私生活も詳細描かれる。グナーは、妻に暴力を振るい、妻は二人の子供を連れて家を出て、以来二十年近く自分の子供に会っていなかった。彼は、酒場の主人から、娘の居所と電話番号を知る。会いたいが、果たして子供たちは自分を許してくれるのかという、グナーの内面的な苦悩が始まる・・・
長年独身であったヴィッゴはクラブで、アストリッドという女性と知り合い、関係を持つ。彼女にプロポーズするために、アパートを訪れたヴィッゴだが、そのアパートには男が住んでいた・・・
もう一人はケルスティン。彼女は、教会の牧師と恋仲になる。結婚を考えるケルスティンだが、牧師はそれが出来ないという。彼は、末期の白血病患者であった・・・
このようなエピソードが、物語に一層の深みと、現実味を与えている。殺人犯人が飛行機に乗ったのは分かるが、名前も人相も不明という、ちょっと考えられないケースから物語がスタートするが、その後の展開で、何となく納得してしまう。醸し出されるリアリティー故だろうか。
Upp till toppen av
berget (山頂まで)2012年11月放送
オランダの田園風景の中を走るスウェーデン人のカップルと女の子の乗った車。突然爆発し、乗っていた全員が死亡する。その模様を偶然撮影していた人間がいた。
ケルスティンの恋人、ステファンの葬儀。「Aグループ」のメンバーも出席する。ヴィッゴは、自分のアパートの前で、九カ月ぶりに、アストリッドと再会する。彼女は赤ん坊を連れていた。彼女は、その女の子、シャルロッテがヴィッゴの娘だと言う。
ジェニーはメンバーを招集する。オランダでスウェーデン人の乗った車が爆発したという。オランダの警察は偶然撮影されたビデオをスウェーデンの警察に送ってきた。爆破されたのは、マリア・ストルペルという女性ジャーナリストの所有の車だと言う。
アルトとホルヘがオランダに向かう。ふたりは爆破された車を見る。オランダの警察の調べによると、液体の爆発物が車体の下に仕掛けられ、遠隔操作で作動したとのこと。爆発物は、オランダの犯罪者グループ「エスカドロン」がよく使用しているものだった。車の中から、ロッテルダムのホテルのレシートが見つかる。ホルヘとアルトはそのホテルに向かう。死亡したスウェーデン人たちはそこに泊まっていた。予約はカーステン・メルストレムというスウェーデン人の警察官の名前で行われていた。車の持ち主のストルペルは休暇中で、友人のスザンネ・ヘルンフェルトに車を貸していたという。スザンネには八歳の娘がいた。
プールで泳ぐ女性、サラ。彼女は小児性犯罪担当の刑事であった。彼女は、チャイルドポルノの情報を交換し合う組織「リング」を追っていた。グナーが彼女を助けている。サラは同僚と、ひとりの男をアパートから連行する。その男の部屋には、チャイルドポルノがあった。彼女は逮捕した男を尋問する。男は写真家で、自分は芸術的な目的で写真を集めていたという。サラは、写真の出所を追求する。それは「リング」であった。サラは、ログイン方法を解明しようとする。
殺されたメストレムは、警察官の身分を隠し、「グース」という高級レストランのバーテンダーとして働いていた。「グース」のオーナー、ダヴィッド・ヴィリンガーの娘ソニアは、皿洗いの若い男、ヨハンと恋仲だった。彼女自身も、父の店で、叔父のヴェカーと一緒に、ウェイトレスとして働いていた。ヴェカーは麻薬をやっていた。ソニアは店からシャンペンを持ち出し、ヨハンと一緒に誕生日を祝う。
パウルとケルスティンは「グース」を訪れ、従業員にメストレムの写真を見せる。店の人間は、それがバーテンダーとして一カ月前から働いていた男であることを認める。メストレムが店に潜入したのは、麻薬取引が行われているという情報が警察に入っていたからだった。そして、その情報のソースはオランダの警察だった。
ソニアはヨハンに、もうこんな生活は嫌だ、どこかへ連れて行ってと頼む。ヴィリンガーは絵を買いたいので、三百万クローネを準備するように、弟に命じる。その夜、三百万クローネの金が事務所に準備されることを、ソニアは立ち聞きする。
オランダの犯罪組織「エスカドロン」の三人がストックホルムに到着する。三人はヴィリンガーに金を用意するように電話をする。金は、夜、ホテルに持ってくるように命じる。ヨハンとソニアは事務所に置いてあった金を持ち去る。金を取りに来たヴィリンガーに、ヴェカーは、金が盗まれたことを伝える。
ヨハンとソニアは、数週間店で普通に働いて、容疑が掛かるのを防ごうと決める。ふたりはヨハンの母親が持っているキャンプ場に金を隠すことにする。三人のオランダ人は、十六時間以内に金を用意するようにヴィリンガーに言う。ヴィリンガーは金の盗難事件に、娘が絡んでいるのではないかと疑い始める。
ジェニーは、美容院で、スザネ・ヘルンフェルトとヴィリンガーが一緒に写っている写真が載った雑誌に見つける。サラは、チャイルドポルノの「リング」のパスワードを発見する。メンバーは月に一度、決まった時間に連絡を取り合い、情報を交換していた。次の期日は翌日に迫っていた。
新しい警察長官が就任し、そのパーティーが行われる。ホルヘはグナーの連れて来たサラに人目惚れをする。サラはホルヘを自分のアパートに誘う。ふたりはそこで寝る。
ヴィリンガーは金をなかなか用意できない。彼は金の受け渡しを、遅らせようとするが、オランダ人の三人組はそれに応じない。ケルスティンとパウルはグースに向かう。彼らが店に入ったとたん、爆発が起こり、二人は負傷して病院に運ばれる。三人組がヴィリンガーを殺そうとしたのだった。すんでのところでヴィリンガーは難を逃れる。ヴィリンガーは、何故自分の店が狙われたのか見当が付かないとジェニーに言う。ジェニーは更に、一緒に殺されたスザネ・フェルンフェルトとの関係について尋ねる。ヴィリンガーは、一度は知らないと言うが、雑誌の記事を見せられて観念する。爆発事故で、ヴェカーは重傷を負う。また、ヨハンも怪我をしていた。
その夜、ヴィリンガーの車に乗り込む男。新しい警察庁長官だった。それを誰かが写真に撮っていた。
翌朝、警察庁長官はストックホルム警察署長に、グースを巡る捜査について自分に連絡がなかったことを叱責する。レストランの爆破に使われた爆薬は、オランダで車の爆発に使われたものと同じものであることが判明する。警察庁長官とヴィリンガーの密会の写真を撮っていたのはアルトだった。
ヴィリンガーは娘のソニアのアパートを訪れる。そこで、父親は男のジャケットと靴を見つける。ヴィリンガーは、爆破事件は現金の盗難と関係があることを娘に告げる。ソニアは叔父と恋人を負傷させた罪の意識に苛まれる。ヴィリンガーは、殺し屋に仕事を依頼する。
サラとグナーは「リング」の解明に成功する。彼女は、交換されている写真を、証拠として押さえることに成功する。サラはそこに写っていた少女の一人が、スザネ・ヘルンフェルトの娘であることを知る。
三人のオランダ人の乗った車が監視カメラに写っていた。ホルヘは三人のオランダ人の写真を持ってホテルを回る。ひとつのホテルに三人が滞在しているのを発見、ホルヘは部屋に盗聴器を仕掛けようとする。そこへ三人組が部屋に戻って来る。ホルヘは浴室に隠れる。そのとき、運悪くホルヘの携帯が鳴る。ホルヘは隙を見て逃げようとするが、三人組は追いかけ、ホルヘに向かって発砲する・・・
今回、主に私生活が描かれるのはホルヘとヴィッゴである。ふたりとも女性関係である。ホルヘはチャイルドポルノ担当の刑事、サラと懇意になる。サラはその粘り強い仕事振りが認められ、「Aグループ」の新しいメンバーになる。
ヴィッゴは娘が出来たことに有頂天になり、妻と子供とのバラ色の生活を描く。第一話で、パウルはケルスティンと出張中に一度肉体関係を持つ。パウルの妻シラは、ケルスティンと夫の間に何かあったことを本能的に感じている。
メンバーの恋愛関係が描かれるため、セックスシーンがふんだんにある。こんなのをテレビで放映していいのかなと思ってしまう。
チャイルドポルノの「リング」のメンバーは社会の広範に及んでおり、実に意外な人物が、一人ならず、複数いる。それが、このストーリーの軸になっている。また、この物語が指摘しようとする社会問題も、小児に対する性犯罪である。
De största vatten(大水)2012年11月放送
早朝、郊外にある一軒の家に近づく男。窓から中を覗く。少年が眠っている。男はドアをノックする。その家の妻がドアを開ける。
レストランで開かれた、ホルヘとサラの結婚パーティー。「Aグループ」のメンバーも参加している。ケルスティンはパウルの妻とずっと一緒に話している。パウルの妻シラは、夫がケルスティンと関係していたことを、本能的に感じていた。
ジェニーはパウルとケルスティンを呼ぶ。内部捜査委員会が彼女にある調査を依頼していた。その日の朝、警察に不法滞在者がアパートにいると通報があり、三人の警察官が現場へ向かった。そして、警官の一人が、不法滞在者である黒人を射殺したという。その合法性を証明するために、発砲した警察官に対し、事情聴取を行うというのが、パウルとケルスティンに対する任務であった。殺されたのはウィンストン・モリサネというナイジェリア人。ナイジェリア政府の保健省大臣の息子であった。アパートには四人のアフリカ人が住んでいた。皆、不法滞在者であった。移民局から警察に連絡があり、地元の警察が動いたという。モリサネは非常階段から逃げたが、の警官によって射殺される。モリサネの遺体の横には拳銃があり、警官はモリサネが先に撃ってきたと主張していた。警官は、アルコールの問題で一度停職となり、復帰したばかりだった。ダーク・ルンドマルクという名前を聞いて、ケルスティンの表情が変わる。ケルスティンは、イェーテボリで、ルンドマルクと一緒に働いていたという。それどころか、七年前、彼女とルンドマルクの間には恋愛関係があった。
ルンドマルクへの尋問を前に、パウルとケルスティンは現場検証をする。二人はルンドマルクを尋問する。殺されたナイジェリア人が持っていた拳銃はドイツ製だった。どうして、アフリカ人がドイツの拳銃を持ちえたのかと、ケルスティンはルンドマルクに指摘する。彼は知らないと答える。ルンドマルクは射撃倶楽部の一員で、同型のピストルを使っていた。パウルは更に、ルンドマルクがアルコール中毒で、私立病院にいたことを指摘する。ルンドマルクは既に中毒は完治していると主張する。ルンドマルクは、ひとりのアフリカ人が非常階段を登って逃げ、撃ってきたので反撃したという。屋上には非常口があり、鍵が掛かっていなかった。どうして、モリサネは非常口から逃げなかったのか、パウルはその点も指摘する。ケルスティンは、ルンドマルクが銃を用意し、非常口に鍵を掛け、相手が攻撃してきたように見せかけているのではないかと疑う。しかし、証拠はない。ルンドマルクがつぶやく。
「大水も愛の炎を消すことはできない」
尋問は一度中断され、二時間後の再開が予定された。しかし、二時間後、ルンドマルクは現れなかった。
隣人がシューベリ家を訪れる。誰も出ない。子供の帽子が見つかる。隣人夫婦は警察に届け出る。
パウルとケルスティンは、ルンドマルクと一緒にアパートに突入した警察官を訪れる。警官は、部屋に居て三発の銃声を聞いたと証言する。
逮捕されたアフリカ人の三人を、アルトとヴィッゴが尋問する。リーダー格の男はウガンダ人で、故国で迫害を受けたため、逃げて来たという。彼は、殺されたモリサネは、清掃会社で働いていたという。しかし、どこで働いていたのかは分からない。尋問した「Aグループ」のメンバーは、逮捕されたアフリカ人が嘘をついていることを予感する。ふたりは、警察署の清掃係のイラン人から、不法移民を雇っている清掃会社の名前を聞き出す。グナーとホルヘはその会社へ向かう。
パウルとケルスティンはルンドマルクの上司と会う。上司はその日の朝八時前に移民局から電話があり、不法滞在者の住所を連絡してきたという。上司はそのときたまたま目の前にいた、ルンドマルクに出動を依頼したという。その直前、ルンドマルクは車を修理工場からピックアップしていた。ふたりは修理工場を訪れる。ルンドマルクは七時過ぎに車を取りに来ていた。ふたりは上司が時間に関して嘘をついていると予感する。
グナーとホルヘは清掃会社の経営者を訪れる。モリサネがどの会社で働いていたのかを知る。「ダティモス」という製薬会社だった。モリサネが自らその会社を選んだという。
「よく考えた結果、自ら命を絶つことを決めた。」
遺書を書いている男がいた。ビョルン・ハークマン。「盗みの芸術家」と自称する男。通報があって、あるアパートに盗みに入る。そこで、遺書と死体を発見。隣人の通報で来た警官に逮捕される。ハルトマンはヴィッゴと話す。ハルトマンは、死体のあるアパートにヴィッゴとアルトを案内する。そして、二人を巻いて逃げる。
移民局から架かった電話は録音テープによるものであった。そして、マトソンという移民局の職員は電話を架けた覚えがないという。
ケルスティンが家に戻る。聖書の「大水も愛の炎を消すことはできない」という句が郵便受けから投げ込まれていた。(聖書、ソロモンの雅歌、八章七節)ケルスティンはルンドマルクに街の広場で会おうと電話をし、そこへ向かう。しかし、ルンドマルクは現れない。
死んでいたのは、オーナ・ラグナーソンだった。遺書に自分が殺人犯であることを匂わす箇所があり、ヴェルムランドの沼地に死体を埋めたと書いてあった。
ケルスティンは、ルンドマルクがアフリカ人を射殺したのは、計画的な犯行だと主張する。ジェニーは、サラとパウルに、沼地の捜索を指揮するように命じる。またジェニーは、過去にルンドマルクとの関係があったことから、ケルスティンを捜査チームから外す。ケルスティンは、パウルが自分の主張を援助してくれなかったことを不満に思う。海辺に佇む、ルンドマルク。彼は定期的に薬を口に入れる。
グナーとホルヘは製薬会社、ダディモス社を訪れ、経営者スカルンダーと話す。経営者は、掃除に来ていたモリサネを思い出せないという。また、不法滞在者を雇った覚えがないという。グナーとホルヘは、清掃請負会社を訪れる。彼は、数日前、スカルンダーという男が電話で、モリサネのことを聞いてきたという。
ヴェルムランドの沼地を捜索するチームが、男女の死体を発見する。行方不明になっている近くに住むシューベリ夫婦だった。ふたりには息子、アンデルシュがいたが、息子の死体はなかった。サラとパウルは死体で見つかった夫婦の家に入る。三つのコーヒーカップがあった。捜査班は更に、沼地を捜索するが、息子は見つからない。
アルトはラグナーソンの「遺書」に不自然なものがあるのを見つける。ケルスティンは、ルンドマルクが架けて来た電話の位置を特定するように依頼し、その結果が来る。ケルスティンは、数日間の休暇を取るとジェニーに連絡し、特定された住所に向かう。そこは倉庫であった。彼女が入って行くと、誰かが寝た形跡がある。事務所の電話が鳴る。ケルスティンが取ると、ルンドマルクからであった。
ケルスティンは小包を受け取る。それはホテルからピックアップされたもので、ルンドマルクからだった。中には昔の写真と「もう一度一から始めよう」というメッセージが入っていた。ケルスティンがホテルを訪れると、ルンドマルクはチェックアウトした後だった。
死体で発見されたラグナーソンは、IT関係の会社を立ち上げ、売却。その利益で暮らしていた。
ケルスティンと連絡を取れないことに心配したグナーは彼女のアパートを訪れる。ケルスティンは、ルンドマルクから送られてきた手紙をグナーに見せる。グナーは妻に暴力を振るったために家族を失った自分の経験をケルスティンに話す。ケルスティンは自分で解決するという。海辺にいるルンドマルクは、薬が切れ、禁断症状に苦しんでいた。
アルトとヴィッゴはラグナーソンの元妻を訪れる。彼女は、ラグナーソンと離婚してから一度も会わず、連絡も取っていないと答える。アルトは、彼女が妊娠していて、中絶したのが別れた原因だったのかと尋ねる。彼女は中絶したことが夫に分かったのが、離婚の原因であることを認める。アルトは遺書からその事実を推測したとヴィッゴに説明する。ラグナーソンはそのあと会社を売り、十六年間行方をくらましたという。
ケルスティンはルンドマルクの母親を訪れる。母親は、息子が夏の家を整理するために、最近鍵を借りたという。ケルスティンは森の中の夏の家に向かう。しかし、そこには誰もいない。ルンドマルクから連絡が入る。ふたりは倉庫であうことになる。スーパーで買い物をする男。ルンドマルクだった。彼は子供用の食べ物を買っていた。
ヴィッゴとアルトは、ラグナーソンが精神科の病院に入院していたと考え、スウェーデン中の病院に連絡を取る。ハルトマンを轢いて逃げ去る車があった。ヴィッゴは、負傷したハルトマンを病院に訪れ、匿名の電話をハルトマンが受けたことを知る。
殺された夫婦の息子は幼い時に養子に貰われていたことが分かる。ジェニーは、少年の、本当の両親が誰であるかを調べるよう命じる。
モリサネは化学者で、もうひとりのアフリカ人は医者だった。何故、そのような男たちが、掃除人として働いていたのか?何故、ルンドマルクがヒットマンとして選ばれたのか?が問題になる。何者かがハルトマンに電話をした場所が分かった。メンバーはその建物に向かう。使われていない倉庫だった。そこで三人はケルスティンと会う。建物の外で、ルンドマルクが警官たちを見ている。彼は電話で「自分を罠にはめた」とケルスティンを責める。
ケルスティンはルンドマルクの勤めていた警察署を訪れ、アパートを襲撃した同僚の警官をもう一度尋問する。彼はルンドマルクの住所を知っていた。ケルスティンは、彼の部屋を特定しようとする。
サラの知り合いの医薬専門家は、ダティモス社が、マラリアのワクチンを開発しているという。それが開発できれば、アフリカで巨大な市場が見込まれていた。高濃度のミクロパズィルがルンドマルクの尿から見つかる。アルコール中毒の治療に使われるが、極めて依存性の高い薬品で、ルンドマルクはその治験者だった。その薬の副作用は、攻撃性が高くなることだった。ミクロパズィルもダティモスが開発中の薬品だった。
ラグナーソンとルンドマルクは同じ病院で治療を受けていた。アルトとヴィッゴはその病院を訪れる。ラグナーソンとルンドマルクはグループセラピーを受けていた。その後、ルンドマルクは、病院を自ら去っていた。
ルンドマルクはスカランダーを訪れる。薬、ミクロパズィルが切れたという。ルンドマルクと少年がガソリンスダンドで目撃される。マトソンと名乗る男はスカランダーの声だった。グナーとホルヘはスカランダーの家に向かう。彼は殺されていた。
ケルスティンは、少年が養子であったことを知る。彼女は、ルンドマルクのアパートへ向かう。ジェニーは、その頃、少年の本当の母親が誰であるかを知る・・・
タイトルの大水。「大水も愛の炎を消すことはできない」という句から来る。
犯人が捜査する警官と過去に関係があり、犯行の動機が捜査する人間への復讐であるというパターンが最近よくある。このストーリーもその一例である。一度しか使えないが、それなりに衝撃的なストーリーに仕立てることができる。
これまで、多かれ少なかれ、捜査班のメンバーの過去、私生活が描かれてきた。しかし、今回は、それが単なる背景でなくなっている。メンバーのひとりの過去の行動、しれが即、犯行の動機になっているからである。一人のメンバーの過去を、ここまで掘り下げて、後の展開に影響が出ないの?と考えてしまった。
Europa blues (ヨーロッパ・ブルース)2012年12月放送
ゲームをする三世代の家族。祖父は、亡くなった妻の墓参りをすると言って場を離れる。地下鉄の中で、国粋的な歌を唄うネオナチの若者たち。一人はハーケンクロイツの刺青をしていた。地下鉄を降りた若者たちは、ユダヤ人墓地で、墓石を荒らす。花を持って墓地を訪れるユダヤ人の老人がいた。彼は、妻の墓と、もうひとつ「シュタイフ」と刻まれた墓石に花を手向ける。後ろから、サーベルのような刃物を持って人物が近づく。
タイトルバックの後ろに流れる、第二次世界大戦中、ユダヤ人迫害のシーン。彼らを人体実験に使っている。
モテルに泊まっている五人の若い女性が、密かに宿舎を出る。彼らが乗り込んだ車は国境へと向かう。
ジェニーは警察署長から、「Aグループ」の人数を三人減らし、五人にするように指示される。署長は一週間以内に誰を辞めさせるか決めるよう、ジェニーに要求する。そこに、殺人事件の連絡が入る。森の墓地で、ユダヤ人の老人が、首を刺され、逆さに吊るされて発見されたという。「Aグループ」のメンバーが呼び出される。殺されたのは、レオナルド・シェンクマン、ノーベル賞候補にもなった、脳神経外科医だった。息子のハラルド・シェンクマンが、帰らない父親を心配して、墓地を訪れる。そこで父親の死を知らされる。息子は、父親が、第二次世界大戦中、ブーヘンバルトの強制収容所にいたという。
墓を荒らしていた若者のひとりが逮捕される。若者は携帯電話を持っていた。彼はそれが自分の物ではなく、墓地で落ちていたのを拾ったという。その携帯には、メッセージが入っていた。それは外国語だった。ジェニーは、メッセージを通訳のリュドミラに聞かせるよう、グナーとホルヘに指示する。ジェニーは他の若者たちも逮捕する。
アルトは弁護士と会見する。死亡したフィンランドに住む伯父から、アルトは三百万クローネの遺産を受け継ぐことになる。アルトは一緒に住んで五人の子供を設けていたパートナーと、正式に結婚していなかった。しかし、遺産を二人で共有するために、結婚することにする。ふたりは、その金で夏の別荘を買おうと考える。
ヴィッゴとパウルは、シェンクマンの家を訪れる。そこで、シェンクマンが、収容所にいた頃書いていた日記を見つけ、パウルは持ち帰り、読み始める。
モテルの管理人は女性たちがいなくなったのに気付く。そのころ女性たちは、バルト海を渡るフェリーに乗っていた。フェリーの乗組員の一人が、彼女たちに気付き、誰かに連絡を取っている。ロシアに渡った五人は更に東へ向かう。
グナーとホルヘは通訳のリュドミラを訪れる。ボイスメッセージを聞いた彼女は、ウクライナ人の話すロシア語であるという。
「私たちは脱出した。マリニンスカに着いたら連絡する。」
という内容だった。マリニンスカはオデッサの近くの町だった。
サラは、五人のウクライナ人の女性が、亡命希望者のホームからいなくなったという連絡を受ける。サラとケルスティンはモテルを訪れる。そのモテルは売春宿として使われているという噂があった。オーナーの男は、その噂を否定する。しかし、最後には、五人の女性は、実は亡命希望者ではなく、人身売買の被害者で、売春目的でウクライナから送られて来たと述べる。
ケルスティンは前回の事件で養父母が死亡し孤児となった少年アンデルシュ(彼女自身の息子であるが)を引き取ろうとしていた。しかし、その手続きは遅々として進まない。ジェニーは、犯行に使われた特殊な刃物が、この事件の動機と関係があると考える。
ストックホルム、スカンスカ動物園。アライグマの場所で、男の死体が発見される。死体はアライグマに食い荒らされていた。フェンスを破った跡と、死体の近くで拳銃が発見される。ジェニーはその事件も引き受けることにする。
消えたウクライナ人が架けた最後の番号は、墓地で発見された携帯だった。シェンクマンが殺された午後九時半に電話が架けられていた。モテルに住んでいたウクライナ人の女性は全部で六人であることが分かる。
墓地の花屋で女主人と話すヴィッゴ。シェンクマンは墓地を訪れる前、店で花二束買っていた。しかし、通常、ユダヤ人は墓地に花を供えないという。ヴィッゴは墓地を訪れると一つの花束はシェンクマンの妻の墓にあり、もうひとつは「シュタイフ」刻まれた墓の前にあった。墓地の管理人によると、十八年前に、見知らぬ人間が葬られたという。管理人によると、一週間前、女性が電話をし、「シュタイフ」が何処に葬られたか聞いてきたという。管理人は、「シュタイフ」には鼻がなかったと言う。
パウルはシェンクマンの息子を訪れ、「驚くような質問だが」と前置きし、父親が売春婦を買っていたかと尋ねる。息子は、父親が九十二歳だったと言い、気を悪くする。パウルは更に、息子に、父親が花束を供えようとした「シュタイフ」とは誰かと尋ねる。
アルトは、動物園で殺されていた男の身元を探す。男は、マルセル・ドルビーという名前のパスポートを持っていた。モテルのウクライナ人の女性が、その男に頻繁に電話をしていた。彼は売春の斡旋人と予想された。サラとホルヘはモテルの管理人を訪れる。サラは、ホテルを掃除している若い女性について尋ねる。彼女の名前はジミンスカだという。サラは、女性たちが逃げたことから、人身売買業者が、斡旋人を殺したのではないかと考える。
五人の女性は、車で旅を続ける。国境警備隊は、スウェーデン警察に、五人だけがフェリーの乗ったと連絡してくる。六人の女性のうちひとりはスウェーデンに残っているのだ。彼女は、掃除婦をしているジミンスカと一緒にいた。ふたりはレスビアンだった。
何とか二人を辞めさせたいと思うジェニーは、ケルスティンはとサラに、産休、育児休暇の可能性を訪ねるが、ふたりとも働きたいと言う。
パウルはシェンクマンの日記を読む。迫害されたユダヤ人の体験談だった。ヴィッゴのパートナーは二人目の子供を妊娠する。グナーはリュドミラとデートに成功する。ふたりは寝る。アルトの妻は、夏の別荘を探していた。二人は候補の別荘を見ることになる。
動物園で発見された死体は、ギリシア人のニコス・ヴォルツソスあった。イタリアの警察からコンタクトがあった。東ヨーロッパを中心にした、人身売買組織のメンバーだった。
サラとケルスティンは、モテルで掃除婦をする女性に質問する。彼女は知らないで通す。ウクライナ人の女性たちの、亡命申請書類は全て偽造だった。ヴォルツソスがイタリア人のボス、マルコ・ディスピネリと会っている写真が見つかる。ジェニーはアルトを、ディスピネリの住むトリノへ送る。
ケルスティンに息子の養育権が認められる。五人の女性は、ウクライナへ入国する。入国管理官は、スウェーデン警察に連絡する。五人は国に帰れたことでおお喜びする。何者かが彼女たちの車の前に立ちはだかる、彼等は拳銃を発射、五人は死亡する。
アルネはイタリアを訪れる。豪邸に入る男。ウクライナで五人の女性を射殺したヒットマンである。ディスピネリが庭にいる。男は車の中に五人しかいなかったと報告する。ディスピネリは六人目も探し出して殺すように指示する。五人のウクライナ人が車ごと撃たれて全員死亡したことがAグループに報告される。プロの殺し屋の仕業と思われるが、依頼主が誰かは分からない。六人のうち、レイナ・バルチュだけが処刑を免れていた。
アルトはトリノに到着。ヴォルツソスはジオトーネと呼ばれていた。イタリア語で「アライグマ」という意味である。ディスピネリは地元の有力者であるという。これまで何度も警察の捜査線上に上がっているが、証拠をつかんでいなかった。アルトはディスピネリと会うことにする。
モテルの管理人は六人のウクライナ人のうちレイナがユダヤ人であったと言う。管理人は掃除の女性が、レイナと懇意にしていることを知っていた。シェンクマンの息子夫婦が警察署を訪れる。彼らは父親が殺される一週間前に、若い女性が家を訪れ、父親について尋ねたという。その女性は英語で話した。そのとき、たまたま父親は家に居なかった。夫婦は六人のウクライナ人の女性の写真を見るが、訪問した女性は、彼等の一人ではないと証言する。
アルトはディスピネリを訪れる。九十一歳のディスピネリは戦争中、ファシストから逃れるためにスイスに住んでいたという。アルトはディスピネリの首に痣があるのを見つける。アルトはヴォルツソスを知らないかとディスピネリに尋ねる。ディスピネリは否定する。また、レオナルド・シェンクマンについても知らないと言う。しかし、アルトは、ディスピネリとシェンクマンの間に何かがあったことを悟る。アルトが去った後、ディスピネリは部下にアルトを尾行するように命じる。アルトがホテルの部屋に戻ると、中が荒らされていた。電話が架かり「ゴー・ホーム」とだけ言われる。アルトはジェニーに、ディスピネリが事件の鍵を握っているという。トリノ警察のマルコーニは、アルノに、これ以上関わり合うと命に関わるので、イタリアを去るように忠告する。
ユダヤ人墓地に葬られたシュタイフには鼻がなかっが、若いころ、切り落とされたような痕跡があった。また、ナチスの強制収容所で入れられたと思われる刺青があった。彼の所持品の中に、シェンクマンの家で降りたというタクシーの受け取りがあった。シュタイフの身元が分かる。オデッサの近くに住んでいたフランツ・シェンクマンという男であった。パウルは、シェンクマンの日記の中に、最初の妻との間に出来た息子、フランツについて書かれていたことを思い出す。
ディスピネリの部下のヒットマンはストックホルムに到着する。彼は、モテルの管理人を締め上げ、レイナが掃除の娘の家にいることを白状する。レイナはデュータに自分に姉がいるという。姉は強い性格で、大学に行って研究者になったという。姉とは電話で何度か話したという。
デュータがモテルに来ると管理人が倒れている。彼女は、レイナに直ぐアパートを去るように言う。レイナはヒットマンと鉢合わせになるが何とか逃げおおせる。デュータが家に戻るとヒットマンがいる。
「レイナはどこだ。」
と男は詰問する。
パウルは、シェンクマンの日記に、独房に閉じ込められているとき、オルゴールの鐘の音を聞いたという部分にひっかかる。聞こえてきたのは聖ヤコブ教会からの、モーツアルトのメロディーであったという。妻のシラは、聖ヤコブ教会があるのは、ブーヘンバルトとではなくヴァイマールだという。ドイツの警察は、第二次世界大戦中、シェンクマン殺害に使われた刃物で、ヴァイマールでユダヤ人を対象に人体実験が行われていたという。ジェニーは、アルトにヴァイマールに行くように指示ずる。フランツが、ナチスの人体実験の犠牲者だったことが分かる。彼はそこで鼻を失ったのだった。ウクライナに帰ったのち、彼は、マグダとレイナという二人の娘を作っていた。シェンクマンの息子夫妻は、マグダの写真を見て、訪ねて来た若い女性は、彼女に間違いないという。レオナルド・シェンクマンが墓地で降りた一緒の電車に、マグダが乗っているのが監視カメラに写っていた。
ヘルシュ教授は、助手のマグナに明日スウェーデン警察のアルトを駅に向かえるように言う。モテルの管理人が意識を取り戻す。彼は、レイナがデュータのところにいると言う。レイナはデュータのアパートに戻る。メンバーもアパートを訪れる。デュータは殺されていた。レイナは警察から逃げる。彼女は屋上から飛び降りで自殺を図ろうとするが、思いとどまる。レイナは姉のところへ行く決心をする。
アルトはヴァイマールで、ヘルシュ教授から、ナチス時代の人体実験について話を聞く。地下室に、拷問室が発見された。被害者は、逆さ吊りにされて、細いナイフで刺す実験が行われていた。それはレオナルド・シェンクマン殺害に使われたものと同じであった。その人体実験をしていたのは三人の医者だった。一人はアントン・エリクソンという名のスウェーデン人、もう一人はイタリア人だった。その男は頸に痣があったという・・・
リストラを迫られるジェニー。三人減らせと上司に言われる。ジェニーは、ヴィッゴやパウルに、誰にも言うなと念を押して、
「二人減らすとすれば誰がよいか。」
と持ち掛ける。二人とも、
「そんなくらいならチームを解散した方がましだ。」
と答える。チームワークとチーム間の信頼感は強かった。最終的にリストラ話はどうなったか。それは語られていない。
国際的な展開である。ウクライナが舞台になっているが、現地でロケされたのかは不明である。しかし、北イタリア、ドイツのヴァイマール等でのロケが行われている。それも、空撮などを使い、結構大掛かりなロケである。他のエピソードでは、ニューヨークのロケもあった。予算が豊富な劇場映画ではなく、テレビのミニシリーズで、ここまで金を注ぎ込むというのも珍しい。
二〇一九年の秋、アルネ・ダールの紹介記事を書いている際に、このテレビシリーズの存在を知った。英国でも放送されていたのだが、余りテレビを見ない私は、そのことを知らなかった。第一話と第二話のDVDをアマゾン・ドイツで買い、見始めたのであるが、面白さに魅了されてしまった。次々とDVDを購入し、冬の夜長の友として、このシリーズを見た。第六話から第十話が、二〇一五年に、テレビ映画化されている。それも見ると思うが、紹介と感想は、別の機会に譲りたい。
アルネ・ダールは、このシリーズを最初から十冊と決めて、書き始めたという。したがって、「シリーズ二」の後の続編は存在しない。
(2020年1月)