アルネ・ダール・テレビシリーズ

シリーズ二

2015年)

 

二〇一五年の製作、前回のシリーズより三年が経っている。ドラマの世界でも、三年が経過した設定になっている。理由は分からないが、「Aグループ」は一度解散。三年後に再結成されることになる。そして、ケルスティン・ホルムがリーダーに指名される。彼女、シリーズ一では黒髪を後ろでくくっていたが、今回は紙を茶色く染めて、流している。

前シリーズのリーダー、ジェニー・フルティンは引退したという設定で登場しない。また、一番年配のメンバーだった、ヴィッゴ・ノランダーも、チームに呼ばれていない。前回途中からチームに参加したサラ・スヴェンハーゲンの他に、新たに二十代の女性、イーダ・ヤンコヴィッチが加わっている。ケルスティンは最初、警察学校を出たばかりの、イーダの能力を疑っているが、次第にイーダのひたむきさに打たれ、彼女に一目置くようになる。イーダは、数カ国後を自由に操る、語学の天才という設定である。

グナー・ニュベリ、ホルヘ・チャヴェス、アルト・スーダーステッドは残っている。パウル・ヒェルムは、内部調査班に転籍し、登場はするが、「Aグループ」のメンバーではない。彼は妻のシラと離婚し、最初、ケルスティンと付き合っている。

ホルヘ役の俳優が変わっている。シリーズ一では、マティアス・バレラが演じていたが、今回はアレクサンダー・サルツベリアが演じている。正直、この配役変更には正直ガッカリした。マティアス・バレラが、皮肉屋の良い味を出していただけに、彼がいなくなったのは寂しかった。サルツベリアはちょっとストレートすぎた。

まとめると、今シリーズ「Aグループ」は以下のメンバーになる。

 

<メンバー/配役>

 

l  Kerstin Holm ケルスティン・ホルム(リーダー)/ Malin Arvidsson マリン・アルヴィドソン

l  Gunnar Nyberg グナー・ニュベリ / Magnus Samuelsson マグヌス・サムエルソン           

l  Jorge Chavez ホルヘ・チャヴェス / Alexander Salzberger アレクサンダー・サルツベリア          

l  Arto Söderstedt アルト・スーダーステッド / Niklas Åkerfelt ニクラス・オーカーフェルト          

l  Sarah Svenhagen サラ・スヴェンハーゲン / Vera Vitali ヴェラ・ヴィタリ

l  Ida Jankowicz イーダ・ヤンコヴィッチ / Natalie Minnevik ナタリー・ミネヴィク

l  Paul Hjelm パウル・ヒェルム/Shanti Roney シャンティ・ロネイ   

 

左から、サラ、ホルヘ、アルト、ケルスティン、イーダ、グナー、パウル

 

シリーズ二の作品は以下の通り。二〇一五年に二月から四月にかけてスウェーデンで放映されている。同年の秋英国のBBCで、二〇一六年から二〇一七年にかけて、ドイツのZDFでも放映された。

l  En midsommarnattsdröm (真夏の夜の夢)

l  Dödsmässa (レクイエム)

l  Mörkertal (記録なし)

l  Efterskalv (余震)

l  Himmelsöga (空の眼)

 

左端が新しく入ったイーダ。二人目の署長アルブレクトの肝煎りである。

 

真夏の夜の夢

 

老人病院で働く、ポーランド人の女性看護師エリザベタ。彼女は別のポーランド人女性、アレナからメッセージを受け取る。ひとりの男が、夜エリザベタの職場に訪れる。男は、

「アレナは何処だ。」

と尋ねる。エリザベタは病院の建物から飛び降りる。

ケルスティンはパウルとセックスをしている。翌朝、新しい警察署長、フランク・アルブレクトがケルスティンの自宅を訪れる。フランクは「Aグループ」の再結成の計画を伝える。そして、定年を迎えたフルティンに代わり、ケルスティンにリーダーへの就任を依頼する。アルブレクトは、パウルをリーダーにしたかったが、パウルは転籍し、内部調査班にいた。

Aグループ」に与えられた使命は、ポーランドのポズナンを本拠地にするポーランド人のマフィアの捜査だった。四人のポーランド人女性が警察の証人として挙がっていたが、そのうち二人が、スウェーデンで死体で発見されたのだった。ひとりは、スウェーデンの老人病院で働く看護師のエリザベタ、刺殺されているのを、昨夜発見されていた。

病院で働くアレナを見守る男。ピストルを用意して、彼女を追う。アレナはそれを察して逃げ、ちょうど、病院の前に来ていた警察に保護を求める。しかし、警官がパトカーに戻ったときに、女性は消えていた。

アルブレクトは、ケルスティンに、新「Aグループ」には六人分の予算があるという。メンバーの選定は、ケルスティンに任せるが、警察学校を卒業したばかりのイーダ・ヤンコヴィッチを、見習いのためにメンバーに加えるというのが条件だった。イーダは語学が堪能で、十カ国語を操ることができるという触れ込みだった。

ケルスティンが、「Aグループ」のリーダーとして出勤すると、イーダが待っていた。ケルスティンは、自分が選んだメンバーを紹介する。アルト・スーダーステッド、グナー・ニュベリ、サラ・スヴェンハーゲン、ホルヘ・チャヴェスの四人だった。

警察署の前で待つ女性がいた。行方不明者の捜索願を出したいという。元夫の、アンデルシュ・ヤンソンがいなくなったという。

パウルが出勤すると、ロタ・ビョルクという新しい女性がオフィスに座っていた。前の秘書が「燃え尽き症候群」で辞表を出したという。

アルトはそれまでの経過を他のメンバーに説明する。ポーランドのマフィア組織が、ポーランドの病院内で、複数の患者を殺害したという。そして、それを目撃した看護師たちが、順に殺されていた。マフィアは、亡くなった人間の遺産を不正取得することにより、莫大な利益を得ていた。まだ二人のポーランド人女性がスウェーデンに居て、マフィア組織から逃げているということだった。

警視庁に戻って来たケルスティンの車に乗り込む男がいた。刑事のベングトだった。彼は、昔からケルスティンのことが好きだった。彼は一度結婚したが離婚していた。ベングトはケルスティンを食事に誘うが、彼女は断る。

ケルスティンはイーダとアルブレクトと三人で、ポーランド大使館を訪れる。大使館の職員は、本国から送られてきた情報を渡す。イーダがポーランド語で職員と話すのが、ケルスティンには面白くない。

福祉局、兄のダンは、麻薬中毒の妹ジャネットを連れ、更生プログラムへの参加を申し込む。ジャネットは、自分の面倒を見てくれている兄が感謝する。しかし、福祉局の職員は、ジャネットに、麻薬から抜け出すプログラムに参加させることができないという。彼女は前回同様のプログラムを受けて、成功していないのが理由だという。禁断症状に悩むジャネットは、麻薬を注射する。兄のダンが家に戻ると、妹は死んでいた。

殺された看護師の働いていた老人ホームの監視カメラに写っていた人物が特定される。眼鏡をかけた男だった。看護師は、職場からも、自宅からも離れた場所で殺された。

ホルヘはパウルと飲みに行く。パウルは、ケルスティンと付き合っているとホルヘに告げる。帰り道、ホルヘは、大麻を吸っているティーンエージャーから、薬を取り上げる。翌日、パウルは、少年とその父親から、警察官の違法行為に対する告発を受ける。チャヴェスと名乗る警官が、少年の大麻を横取りし、自分で吸っていたという。パウルはチャヴェスを呼ぶ。少年から取り上げた大麻を吸っていたとの告発を伝え、チャヴェスに尿検査を受けるように言う。チャヴェスはしぶしぶそれに従う。ケルスティンは、チャヴェスに自宅謹慎を命じる。

夜、自動車修理工場に入る男、リント。そこにはピストルを持ったもう一人の男がいた。訪問者は、警察に追われているので、数日匿ってくれという。リントはしぶしぶそれを引き受ける。

狙われた看護師アレナは、もうひとりのポーランド女性ヤトヴィガに連絡する。うちに来ないかというヤトヴィガの誘いに対して、アレナは不安だから行かないという。彼女は知らない番号からの電話を受け取る。

ポーランドのマフィア組織のメンバーが明らかになる。その中でも、ヴァリンという男が、頻繁にスウェーデンを訪れていた。彼は軍の特殊部隊で訓練を受けた経験があった。メンバーの中で、最近刑期を終えたリントという男が自動車修理工場を持っていた。グナーとイーダが修理工場に向かう。中にはリントともう一人の青年、ニルス・アンダーソンがいた。彼らが持っていた麻薬をネタに、グナーとイーダは工場の中を見る。イーダは、工場にあった車のナンバープレートの写真を撮る。

老人ホームの職員は、親戚と言って訪れた男に郵便物を渡したとサラに言う。それはルックダータ社からの郵便だった。サラは同社を訪れる。殺されたポーランド人の女性を、不法に掃除婦として働かせていたという。その掃除婦の女性を、老人ホームを訪れた男性がピックアップしていた。

病院の監視カメラに写っていたのはヴァリンであることを、ホルヘが発見する。アレナがウプサラ大学病院で掃除人として働いていることが分かる。警察が大学病院に向かう。彼女は逃げる。

イーダは殺人事件の現場の写真に写っていた車のナンバープレートが、リントの経営する修理工場あったことを発見する。彼女はグナーに電話をするが、グナーは教会の教会聖歌隊の練習中で出ない。イーダは独りで修理工場に向かう。しかし、発見され、ヴァリンに撃たれる。ヴァリンがとどめを刺そうとしたとき、リントがヴァリンを殴り倒す。グナーはイーダからの留守電を受け取り、修理工場に駆け付ける。イーダは防弾チョッキを着ていて、銃弾は貫通していなかった。リントは逮捕される。ニルスはヴァリンを車に乗せて逃げる。チームに入ったばかりの新人が、二日目に負傷したということで、リーダーのケルスティンは上層部から責められる。

リントは、ヴァリンに隠れ家を提供したことを認める。負傷したヴァリンを車のトランクに乗せ、若い同僚ニルスが車で逃げたことも。ケルスティンは男に電話を架けさせる。気を失っていたヴァリンが意識を取り戻し、ニルスをナイフで殺す。

携帯から、アレナの位置が確認される。ヤトヴィガにスカイプで電話をしていた。ホルヘはそれを見る。電話を架けていた相手は、ヤトヴィガの女性の従兄弟の家だった。アレナはSNSにヴァリンといる写真を投稿していた。そして、彼女は妊娠しているようだった。

ニルスを殺したヴァリンはエリザベタのところへ向かう。連絡を受けたグナーはヤトヴィガの居場所に向かう。ヴァリンはヤトヴィガを刺殺する。アレナは逃げる。グナーが現れヴァリンを逮捕する。

ケルスティンはパウルに一緒に暮らそうと提案するが、パウルはふたりの関係に日常生活を持ち込みたくないという。ケルスティンはパウルにそれなら別れたいという。

ヴァリンは警察の尋問に協力を拒否する。ヴァリンは確かに殺人を犯していた。しかし、最初の殺人は、別の人間が、別の武器で行ったものだった・・・

 

 シリーズ一で、ケルスティンを演じるマリン・アルヴィドソンが、タイトルバックで先頭に出て来ていたが、やはり彼女は特別だった。今回、リーダーとして登場することになる。彼女がジムでトレーニングをしているシーンがあるが、はっきり言って彼女の筋肉はすごい。筋肉に覆われ、腹筋が割れている。しかし、マッチョな彼女も、恋多き女性として描かれている。最初パウルと付き合っているが、彼と別れた後、すぐにベングトと付き合い始める。

 イーダ・ヤンコヴィッチが、新しいメンバーとして加わる。幼い顔をしており、

「あんた、未成年じゃないのか。」

と尋問している相手に言われる始末。しかし、警察学校を優秀な成績で卒業、特に語学に優れており、警察署長の肝煎りで、「Aグループ」に加わるという設定になっている。ポーランド語も堪能で、今回は、ポーランドのマフィアを相手に、彼女の語学力が役に立つ。ポーランド語の弁護士を間に入れたた尋問、まさに「ロスト・イン・トランスレーション」の世界で、弁護士は自分の依頼人に都合の良いように話を持って行こうとする。それを、イーダが別室で聞いており、通訳されない部分から、背後の事情を読み取っている。

 前回のシリーズから、三年経って製作されたが、ストーリーの上でも、三年経った設定になっている。例えばホルヘとサラは前のシリーズで結婚するが、今回は二歳になる娘がいる。ジェニーは定年になっている。前回と同じように。今回も、メンバーの私生活が描かれる。パウルは離婚している。しかし、何故かアルトの家族は出てこない。また、ヴィッゴが何故今回選ばれなかったのか、理由は語られていない。

 

ムキムキの身体を見せる、ケルスティン役のマリン・アルヴィドソン。

 

Dödsmässa (レクイエム)

 

若い男と中年の男がカフェで会っている。ふたりは「プランB」を実行に移すことで同意する。タクシーで銀行に乗り付ける二人の男。ケルスティンもその銀行に入って行く。待合室に、若い男がフードを目深にかぶって座っている。二人の男はタクシーの運転手を射殺。銀行に押し入る。二人は行員の一人を撃ち、行員と客に床に伏せるように指示ずる。ケルスティンもそれに従わざるを得ない。

皆の名前の書いたマグを持って出勤するイーダ。泣く娘をなだめすかして幼稚園に連れていくサラ。銀行襲撃と、ケルスティンが人質に含まれていることが警察に伝わる。「Aグループ」のメンバーも現場に向かう。

人質事件を、ベングトのチームが担当する。特殊部隊の派遣が要請され、イーダ突入に備えて、狭い換気のための管を伝って天井裏に入り、上から画像を提供する。一階で二人の男が、客や職員を脅す中、二階では、若い男が銀行のコンピューターに侵入に向かっている。ケルスティンは二階に三人目の男がいるのを見る。特殊部隊が建物に侵入。ドアを破り銀行内に突入する。若い男は、銀行のコンピューターに何かプログラムを仕込む。二人組の男は煙幕を張り、その隙に逃亡する。逃亡するふたりの男を見守るひとりの中年男がいた。

ケルスティンは、監視カメラに写っていた二人の男の他に、もう一人の男がいたと証言する。銀行の支店長が警察に呼ばれる。支店長は、オンラインバンクであるので、銀行に現金が殆どなかったと証言する。

銀行を襲った三人組が、湖の畔の別荘で、ニュースを聞いている。若い男はカフェで話していた中年の男に電話をする。二人の死者が出たことは、若い男にとって予想外の事態だった。彼はそれに大きなショックを受けていた。若い男は、目的を半分しか達することができなかったと言う。別荘の周囲には、厳重な監視カメラが設けられていた。若い男は、ロシア人のひとりが携帯を使っているのは見つける。男はそれをすぐに止めさせる。ロシア人たちは、

「後、どれだけ待てばいいんだ。」

と若い男に迫る。

銀行襲撃犯の一人の身元が分かる。ウラディミール・コスロフ、ロシア人でインターポールから指名手配が出ていた。もう一人の男もロシア語を話していたので、その仲間と思われた。しかし、三人目の男を見たのはケルスティンだけだった。コスロフは元KGBで、犯罪請負のプロだった。コスロフの携帯番号が特定された。

監視カメラによると、突入した特殊部隊の警官は六人。しかし、そこには七人目の警官が写っていた。三人目の男は鞄に特殊部隊のユニフォームを持っていて、それに着替えて逃亡したのだった。そして、その偽警官の着ていたユニフォームは、本物だった。

銀行員の女性がケルスティンを訪ねてくる。彼女が、襲撃の前に開けていた二千万クローネの振替が消えていたという。支店長は、その二千万ユーロの消滅を、銀行の信用にかかわることと考えて握りつぶしていた。おそらく、銀行襲撃の際、その操作が銀行の中で行われた模様だった。

銀行の隣人が、誰かが侵入してタイルを壊したと警察に通報する。その壁の反対側が銀行だった。グナーが調べると、銀行側で、キャビネットの後ろの壁に穴が開いていた。犯人はその穴を探しだし、何かを取り出していたのだった。

特殊部隊の一人が、行方不明になっていることが分かる。ロシア人の位置が特定される。ロシア人が携帯電話を使ったのだ。携帯が使われているのを見た若い男は、ロシア人たちに直ぐに逃げるように言う。ホルヘとパウルが別荘に向かう。別荘には誰もいなかった。そして、別荘の持主である特殊部隊の一員が、射殺死体で見つかった。

ロシア行きのコンテナ船に乗って逃亡を図るロシア人の二人組。若い男と一緒に、港で船の出るのを待っている。ロシア人の一人が携帯を使う。監視していたホルヘが、彼等の場所を特定する。アルト、サラ、イーダが港へと向かう。ロシア人と警察の間に撃ち合いが始まる。若い男は肩を撃たれて負傷する。彼は通り掛かりの車を停めて病院に向かう。ロシア人の一人はサラを人質に取って逃亡を図るが、機転を利かせたイーダに捕まる。若い男は病院から逃げ出す。彼は、計画を依頼した中年の男に助けを求める。

ロシア人の一人は撃たれ死亡、ひとりは逮捕された。三人目の男の特定と逮捕が、「Aグループ」の急務となる。銀行の壁の中にあった筒には、東ドイツのエネルギー省の刻印があった。当時、エネルギー省は、低温での核融合によるエネルギー開発を研究していたことが分かる。

若い男は、銀行で見つかった資料は半分に過ぎず、残りの半分がどこかにあるはずと考える。彼は、計画には乗ったが、人を傷つけることは予想しなかったと中年の男に言う。中年の男は、本当の金持ちになるためには多少の犠牲は仕方がないと言う。

逮捕されたロシア人、コスロフは取り調べに黙秘を通す。港での弾道分析の結果、当時、別の人間が港にいたことが明らかになる。ケルスティンは、ロシアに送られて裁判を受けるより、スウェーデンで裁判を受ける方が、罪が軽くなるとコスロフを説得する。

現在の銀行の建物は、かつて旅行代理店だったことが分かる。そして、それは東ドイツ国営の代理店だった。三人目の男が病院に残していった衣服が警察に持ち込まれる。そこには、クリーニング店の札が付いていた。クリーニング店の店員は、その衣服はアンドレアス・ベッカーという男の持ち込んだものだと言う。ホルヘはそのベッカーの住む住所に向かう。ホルヘがアパートに入ると、窓から逃げる男が見えた。ホルヘは男を取り逃がす。アルトがベッカーの身元を調べ上げる。彼の両親は既に死んでいたが、父親は東ドイツの科学者だった。そして、父親は「シュタージ」、東独国家警察のメンバーだった。父親は、東ドイツの崩壊の際、スウェーデンと取引をし、東独の国家機密を渡す代わりに、スウェーデン国籍を取得していた。しかし、ベッカー夫婦は謎の交通事故で死亡、息子のアンドレアスだけが生き残っていた・・・

 

銀行襲撃事件と、その目的、犯人探しがメインのストーリーで、今回も、「Aグループ」のメンバーの私生活の描写に時間が取られる。

パウルとケルスティンは付き合っているが、二人の間には、意見の違いによる葛藤がある。ケルスティンは、息子も含めて家庭を築きたいと言うが、パウルは二人の関係に日常生活を持ち込みたくないという。結局二人は分かれるのだが、三日も経たないうちに、ケルスティンは元同僚のベングトと付き合い始める。ケルスティンの性格設定がイマイチ良く分からない。

次に時間を割かれるのが、サラとホルヘの家庭問題。彼等には二歳になる女の子がいる。よく泣く子で、サラは娘を持て余している。元々ホルヘは子供が沢山欲しいので、彼女の妊娠を喜ぶが、サラは、もうこれ以上子供に時間を取られたくないという。

イーダが、出勤するとき、彼女のアパートのベッドで女性が寝ているので、イーダがレスビアンであることも、暗示される。今回も、アルトは、論理的な推理者としての役割を演じるが、今回も彼の私生活だけには言及されなかった。

東ドイツの崩壊の際の遺産がテーマになっている。当時、東ドイツの政府の要人が、保身のために、西側の国々と取引をしたことは大いに考えられる。「国家機密を譲る代わりに、スウェーデンの市民権を得た人物」という設定がなされている。

CIAって何をしてもいいの?」

と思ってしまう。今回も、CIAのエージェントが登場するのだが、最後に、彼の犯行だけは不問にされる。

「若い男」、アンドレアス・ベッカーを演じる俳優が、とてもいい味を出している。病的というか、鬼気迫る表情はなかなか迫力があった。何故、この物語に「レクイエム」と言うタイトルが付けられたのかと考えてしまった。多分「旧社会主義国家」に対する鎮魂という意味なのだと思う。

 

左端のホルヘを演じる俳優が新しくなっている。

 

Mörkertal (記録なし)

 

拳銃を持って犬を連れて外出する男。彼を送り出す同居人の女性。男は柵を開けて、工事現場の敷地に入る。拳銃の音が聞こえる。

ケルスティンはアルブレクトから、オートバイクラブ「ダーク・ハート」組織の解明を命じられる。組織が国際的な犯罪に関係している可能性が強いという。彼女は、行方不明になった、ふたりのティーンエージャーの少女たちのファイルを見ている。ひとりはソフィア・ベルクルンド、ベルギーで死体で発見された。もうひとりはティーナ・ヨハンソン。ベルギーで監禁されているところを隣人により通報、発見されたがその後、衰弱して死亡していた。その際、「右手に黒いハート型の刺青のある男」が目撃されていた。ケルスティンは「ダーク・ハート」の誘拐事件への関与を疑い、ホルヘに調査を命じる。ペーター・イェプソンと言う男が、組織のリーダーであった。ホルヘは「ブラックハート」の敷地を見張る。

森の中で落ち合う二人の少女。リューケとミラ。リューケはある男が好きになったとミラに言う。

警察署でパウルを待つ女性。彼女はスザンナと名乗る。彼女は、ハンス・ダニエルソンという警官を暴力で告発したいという。暴力を受けたというのは、彼女自身ではなく、同じく売春業の同僚、アンゲリカという女性だった。

ホルヘは「ダーク・ハート」のサーバーへの侵入を試みる。ユルゲン・ヤンソンと言う男への支払いが見つかる。その期日はティーナが失踪した翌日だった。グナーとアルトはユルゲン・ヤンソンの家を訪れる。妻が出る。妻は、ヤンソンは居ないという。

夜、森でリューケは誰かを待っている。車が現れ、リューケを連れて走り去る。数時間後、リューケが行方不明になったことが、警察に通報される。過去に二人の少女が消えた場所のすぐ近くだった。サラとイーダが現場へ向かう。サラはたった八時間姿を消しただけで、警察が捜査をしなければならないことに不満を感じていた。近所の人々が森の中を捜索している。リューケの親友ミラもその中の一人だった。

サラは担任の教師と話し、イーダはミラと話す。ミラは、失踪の直前、リューケには何も変わったことがなかったという。パウルは、暴力を振るったという告発を受けたハンス・ダニエルソンと話す。ダニエルソンは、スザンナとアンゲリカを知っており、スザンナが自分を告発すると話していたことも知っていた。ダニエルソンは警察の売春防止班で働いていて、売春婦たちを監視する立場にあった。ダニエルソンは、スザンナとアンゲリカは一緒にアパートを借りていたが、その夜、アンゲリカはアパートにいなかったと言う。パウルは「その夜」とは何時の事だと迫る。パウルはアンゲリカを訪れる。アンゲリカはダニエルソンに暴力を振るわれた事実はないという。

ユルゲン・ヤンソンが射殺死体で発見される。彼は、何発も弾丸を打ち込まれ殺されていた。イーダはリューケの親友、ミラが何かを隠していると確信する。リューケはウプサラに監禁されていた。

ミラはイーダと話したいと言って警察署を訪れる。リューケがインターネットで男と知り合い、会う約束をしていたと、ミラは言う。両親が厳しく、家ではインターネットを使えないので、リューケは学校のコンピューターを使って連絡を取っていた。リューケの両親は、敬虔なキリスト教徒だった。どのサイトかは知らないが、ミラはリューケのユーザーネームとパスワードを知っていた。ホルヘは若い者が使うSNSのサイトを調べる。リューケが、ガブリエル・ホルムという男性とチャットをしていたことが分かる。ホルヘはホルムという男は存在せず、相手のIPアドレスは、トーマス・トゥンブランという中年の男のものであることを突き止める。

アルトは、「ダーク・ハート」のリーダーペーター・イェプソンの家を訪れる。殺されたヤンソンの追悼パーティーの最中であった。イェプソンは証言を拒否する。イェプソンは、ITに詳しい男を雇って、彼に、SNSを使って少女たちとのコンタクトをさせていた。リューケを監禁する男は、イェプソンと連絡を取っていた。

イーダとサラは、ホルヘの特定した住所に向かう。そこは森の中だった。サラが建物の中に入る。直前まで人のいた気配がする。男が飛び出す。イーダが男の足を撃つ。男は、自分はトゥンブランに頼まれて猫の世話をしているだけだという。家の中にはリューケの姿はなかった。

パウルはダニエルソンの同僚に事情を聴く。同僚もアンゲリカは家におらず、スザンネは精神的に不安定だったと証言する。ベングトはダニエルソンと仲が良かった。彼もダニエルソンは良い警官で、事件と関与しているはずはないと言う。

ウプサラ。監視役の男の隙を見て、リューケは縛っていたテープを切って逃げる。そこに一台の車が現れる。

トーマス・トゥンブランの働いていた自動車修理工場の男は、トゥンブランが古い車を沢山買い、農場に置いていたという。サラとイーダはその農場に向かう。そこではトゥンブランが殺され、木に吊るされていた。しかし、リューケは居なかった。

ジョギングをするダニエルソン。林の中で、何発もの銃弾を浴びて死ぬ。パウルはアンゲリカとスザンネを訪れ、ダニエルソンが殺されたことを伝える。

コンピューターを操る男を催促するイェプセン。同僚が現れる。同僚の男は、自分はリューケに顔を見られてしまったので、彼女を殺すしかないとイェプセンに言う。

ホルヘは、トゥンブランのコンピューターに少女虐待の動画があり、逃げ出した男がそれをDVDに保存していたことを見つける。

ケルスティンはパウルを訪れる。ダニエルソンの殺され方がケルスティンは気になっていた。余りにも残酷だったからだ。その時、ケルスティンはパウルにキスをしようとする。パウルはそれを止める。ベングトは一緒に住む家を契約しようとするが、ケルスティンはそれを待って欲しいという。

ダニエルソンの同僚が再びパウルを訪れる。彼女は前言を覆し、ダニエルソンがアンゲリカに暴力を振るったのは事実だという。ホルヘは、トゥンブランのコンピューターに残された記録から、トース・ハマーという男に行き当たる。アルト、サラ、グナーはハマーの家を訪れる。そこではまた男が殺されていた。ハマーだった。

パウルはアンゲリカを呼び止める。ふたりはカフェで話をする。アンゲリカはダニエルソンをティーンエージャーの頃から知っていたという。彼女は、モデルにならないかと呼び止められ、ダニエルソンのところに連れていかれ、強姦されたという。その後も、ダニエルソンは彼女を虐待し続けていた。

トゥンブランは過去にふたりの少女を誘拐し、「ダーク・ハート」の組織を介してベルギーに売っていたと、ケルスティンは確信する。しかし、リューケに関しては、何かが上手くいかなかったと思われた。三人の少女は、厳しいキリスト教の家庭に育ち、処女だった。

イーダは少女たちに対する思い入れが強かった。実は昔、イーダは同じような経験をしていた。彼女は叔父に犯されていたのだった。イェプソンの同僚の恋人が、リューケの世話をしていた。同僚はリューケを殺すことはやむを得ないと決意する。

ベングトはパウルを呼び止める。パウルはベングトに、ダニエルソンがアンゲリカを性的に虐待していたことを告げる。ベングトは、まじめな警官と、麻薬中毒の売春婦のどちらを信じるのかと迫る。それを証明するために、ベングトはパウルをある場所に連れて行きたいと言う。

アンゲリカはケルスティンを訪れる。彼女はダニエルソンに共犯がいたという・・。

 

 ふたつのストーリーラインがある。ひとつは、少女の誘拐事件である。三人の十代の少女が誘拐され、ふたりはベルギーで死亡していた。三人目の少女リューケの誘拐事件が起こり、警察は捜査を開始するが、リューケの足跡はつかめない。ケルスティンは、オートバイグループ「ダーク・ハート」がその背後にあると考えるが証拠はない。

もうひとつは、警察官ダニエルソンに対する売春婦スザンネの告発である。ダニエルソンが同僚に暴力を振るったという。パウルが内部捜査を担当する。ダニエルソンはこれまで問題を起こしたことのない警官で、同僚の女性警官や、同期のベングトは、あり得ない話だと否定する。

つまり、女性に対する暴行、虐待が、この作品のテーマである。

Aグループ」の捜査班だが、今回はイーダが主役となる。彼女は、少女誘拐の犯人逮捕に、異常とも思われる、執念と情熱を示す。イーダ自身が、十代の頃、同じような性的な虐待を受けた経験があったからだ。彼女の熱意が通じ、誘拐された少女の関係者がだんだんと真実を語り始める。サラが姉のような役割を演じ、イーダを諭し、見守る。

 しかし、ケルスティンという女性がますます分からなくなった。彼女は、パウルと切れた後、数日でベングトとくっつく。しかし、ベングトとの間に小さな確執が生まれると、仕事だと言ってパウルを訪れ、彼にキスを迫る。その行動パターンは理解に苦しんだ。

 犯罪組織「ダーク・ハート」のメンバーだが、誰がどの役割だったのかが、徐々に解明されていく。しかし、誰が何を知っていて、誰が誰を何のために殺したのか、かなり複雑な相互関係である。ペンとメモ帳を持って「相関図」を作りながらドラマを見る必要があるとさえ感じた。

 このシリーズ、さすがに八作目まで見ると、それぞれの作品の特徴が際立つとともに、好き嫌いも出て来る。少女を性的に虐待するというテーマは、正直見ていて辛い。前回の「レクイエム」が面白かっただけに、ちょっと落ちるかなという気がした。

 

警察の上層部の会議。保安警察は秘密警察とも呼ばれている。

 

Efterskalv (余震)

 

ストックホルム地下鉄。深夜。列車が駅に到着する。ひとつの車両の入り口に乗客を遮るように女性が立っている。列車は駅を出発。乗り遅れた男がいる。それを駅員が見ている。ガード下でミニバスを停めて待っている若い女性。彼女は、列車の中の女性と話をする。爆発音が聞こえて、電話が切れる。

空港に到着する男。駐車場で車に乗る。男は家具もない殺風景なアパートに入る。空港で、アジア系の男に言いがかりをつけて殴りかかる若い男たちがいた。そのうちひとりが、「着いた」という英語のメッセージを受け取る。

深夜、ケルスティンは電話を受ける。彼女は息子を隣人に託して警察署に向かう。地下鉄の車両で深夜一時前に、爆発が起き、多数の死傷者が出たという知らせだった。列車は駅を出た直後だった。保安警察の責任者、ベルンド・ゲラン・ティルベリが、テレビ局からのインタビューで、テロリストの犯行の可能性が高いと示唆していた。警察署で、緊急会議が開かれる。警察署長のアルクブレクト、ティルベリ、彼の部下のシグネ、保安警察のトーレ・ミカエリス、パウル、ケルスティンなどが出席していた。鑑識により、爆発は、最後部車両に置かれた爆破物によるものと特定された。爆発物の傍にいた九人が遺体で発見された。そのうち四人の身元が確認されていなかった。

犯行声明が警察に電話で伝える男がいた。その男は英語で話していた。「シフィンの聖騎士」と男は名乗った。「Aグループ」その犯行声明の出所、男の言葉の特徴などから、発信者を特定する使命を受ける。アルトは、テロリストなら、何故深夜、殆ど誰も乗っていない地下鉄を狙うのかと、ティルベリの唱えるテロリスト犯行説に疑問を投げかける。また、周囲の車両は殆ど空だったにも関わらず、爆発のあった最後尾の車両に多くの乗客が乗っていたのも不自然だとアルトは言う。彼は更に、犯行声明の電話を簡単に公表した保安警察の責任者、ティルベリの行動もおかしいと言う。保安警察は、国家機密に関わる情報を、通常他の部署にも漏らさないからだ。ティルベリは、記者会見で、今回の事件はテロリストによるものと述べる。しかし、アルトはケルスティンに、この事件は、テロリストの犯行としては、不自然な点が多すぎると言う。

ティルベリは同僚の女性、シグネ・ファルクに、経過を訪ねる。シグネは、

「彼は電話にも出ないし、家にもいない。」

と答える。「彼」とは誰なのか。

アルトは病院を訪れ、生存者の証言を得る。乗客の数人が、爆発のあった箇所のドアに、女性が立ちはだかっていて、中に入れず、やむを得ず他のドアに回ったと証言する。

ホルヘは、犯行声明の電話の出所を探す。ヤムシド・タラカニという男の所有する携帯からだった。彼の住所の近くにあるサッカーコートから電話は発信されていた。グナーとホルヘはタラカニの住所へ向かう。ふたりはアパートを見張る。タラカニはシリア出身で、モスレムであった。未明にタラカニがアパートに戻る。直後に妻がアパートに入る。出動が要請されていた特殊部隊が、タラカニと妻を捕える。

ケルスティンは、シリア和平交渉代表団の女性、アニー・ブラントと会う。彼女は、犯行声明を出した組織「シフィンの聖騎士」の名前を聞いたことがないという。

ホルヘは犯行声明のあった同じ場所で、別の携帯で三分後に電話を架けた人物がいることを確かめる。ニクラス・アスクという男の所有する携帯だった。翌朝、アスクはイーダとサラの訪問を受ける。彼は、友達と飲んで家に帰ったあと、二時ごろ深夜散歩に出かけたという。イーダは、彼の家にあったエンブレムを写真に撮る。アスクは、サッカーコートで友人に電話をしたが、そのとき、アジア系の男を見たと言う。

ケルスティンとホルヘはタラカニを尋問する。彼は一晩中家にいたというが、ホルヘは彼が午前四時に帰宅するのを見ていた。タラカニは、犯行声明のあった電話が自分のものであると認める。しかし、携帯はフィットネスセンターで盗まれたという。そして、帰りの遅かったのは女友達と一緒にいたからだという。そして、彼のアリバイは証明される。

ニコラス・アスクの家にあったエンブレムはギリシャのネオナチのものであることが分かる。空港からアパートに着いた男は電話を受ける。発信者はアスクだった。アスクは、問題が発生したと男に伝える。アスクは外出しようとする。男がドアを開け、アスクに拳銃を就き突きつける。

「俺の存在を他の人間に話したな。その人間は誰だ。」

と男は尋ねる。アスクは組織のメンバー四人の名前を挙げる。アスクは隙を見て男を殴り倒して逃げる。女性が寝室にいたが、男は女性を射殺する。

地下鉄の駅の清掃係がパウルを呼び出す。個人的に話をしたいという。彼は環境問題の抗議行動で、逮捕歴があった。彼は、爆破された列車が直前の駅に停まった時の様子を、子細を見ていた。彼は、自分の逮捕歴を現在の雇用主に知られたくないため、警察に協力しなかったという。地下鉄が発車したとき、乗り遅れた乗客が一人いた。その男は、列車の爆発音を聞いて、急いで逃げ去ったという。その人間が誰であるか、彼は知っていた。それは過去に彼を取り調べた、警察官であった。パウルは、当時、環境問題の抗議行動の担当をした警官を調べる。その担当は保安警察であった。

グナーとイーダはアスクのアパートを訪れる。そこで女性が死んでいるのを発見する。アスクは自分の知っているフィットネススタジオに逃げ込む。アスクの怯えている様子を見て、フィットネススタジオの女性は警察に電話をする。男がスタジオに現れ、受付の女性を射殺する。通報を受けたケルスティンとサラがスタジオに到着する。男は逃亡する。警察はアスクを保護するが、男は遠距離からアスクを狙撃し、射殺する。

深夜地下鉄の保線をする男たち。そこにひとりの女性が現れる。全身に傷を負っている。地下鉄爆の犠牲者の最後の一人だった。彼女は病院に運ばれる。アルトは彼女が意識を取り戻したら、連絡するように医者に依頼する。

アスクが携帯から電話した相手が割り出される。アスクはネオナチの中心人物で、国外のネオナチのグループともコンタクトがあった。ケルスティンはアスクと同じ組織に属する人間を探し出すように命じる。その中にホルンという男がいた。警察が訪れる前に、男が先回りをしてホルンを射殺していた。もう一人の男も殺されていた。もう一人の男、ヴコヴィッチはボウリング場で働いていた。

保安警察の長、ティルベリは、犠牲者の身元を見ていた。彼は、そこに自分と関係のある名前を発見し、イグネにそれを公表しないで握りつぶすように命じる。ホルヘは、身元が確認された犠牲者の一人の名前が突然消えたことに気付く。アルトは、鑑識のリナルトに、身元が確認された犠牲者について尋ねるが、リナルトは、上司からの命令ということで回答を拒否する。

ボウリング場を訪れるケルスティンとサラ。そこにヴコヴィッチが働いていた。彼は、殺された男たちを知っているという。ヴコヴィッチは、自分がネオナチのメンバーであることは認めるが、他のメンバーが過激になりすぎて、ついて行けなかったという。

爆発当時の状況が再現される。三人の女性が見張り役のような役目で、他の九人の男を取り囲んでいたと想像された。三人の女性は、自分たちの知った男だけを中に入れていたようであった。

捜査会議。ティルベリの同僚シグネが、ケルスティンに、テロリストに対する捜査が進まないことを非難する。ティルベリ本人は会議に出ていなかった。ケルスティンは、犯行声明を出したグループのメンバーのうち三人が殺されたことを報告する。パウルはケルスティンを擁護する発言をする。シグネは、パウルを呼び、「Aグループ」の捜査方針は間違っていないという。そして、犠牲者の一人の身元が隠されていることを告げる。

パウルの秘書は、環境保護団体の抗議行動を担当した保安警察のメンバーを調べる。パウルはそのメンバーの写真を持って、再び駅の清掃係と会う。その清掃係が、示した警官は、パウルの良く知っている男だった。

爆発事件で死亡したアリシアという女性は、セックスサイトでチャットを使っていた。そのチャットの相手が「ミニバスで待っていた」と書き込んでいた。

サラとケルスティンは、ヴコヴィッチが働くボウリング場に向かう。ふたりは、ボウリング場の前で、黒い革ジャンパーの男に出会う。ふたりの訪問中にウコヴィッチが殺される。ヴコヴィッチ、もうひとりの組織の同僚、フィリップを匿っていた。ケルスティンは、ボウリング場の前で出会った男が、犯人であると考える。テロリストのファイルを調べ、それが、トム・グラウスと言う名前の、著名なテロリストであることを知る。

保護されたフィッリは、アスクがウクライナで「ボス」と呼ばれる男と知り合い、その男がスウェーデンで活動をするのに便宜を図っていたという。その男はヨーロッパ全土で、イスラム教徒に対するテロ活動をしており、今回も、その男はスウェーデンで何か大きな仕事を抱えているようだった・・・

 

 アルネ・ダールのシリーズでは、何時も、複数のストーリーラインが並行して進む。それらが、最後で関連を持つ場合もあるが、全く別の犯人による、別の事件だったということが判明するときもある。今回は、後者のパターンであった。深夜、地下鉄の車両が爆破され、多数の死傷者が出る。担当する保安警察は、早い段階で、テロリストによる犯行と断定する。事実、テロリストによる犯行声明の電話も架かっていた。しかし、アルトは、

l  テロリストなら、最大限の影響のある場所と時間を選ぶはず。何故、深夜、殆ど空の列車がテロの対象となったのか。

l  殆ど空だった電車の中、爆発のあった車両だけ、多くの人が乗っていたのは何故か。

を不思議に思う。そして、乗っていて犠牲になった人々の関係を探っていく。

 一方、ネオナチのグループのメンバーが次々に殺されていく。その犯人は、早い段階から割れている。彼は、自分の正体を知っている人間を順に殺していたのである。その男が、地下鉄の爆破事件と関係があるのかどうかが、ひとつの焦点となる。

 ネタバレになるが、爆破事件とネオナチのグループは関係がなかった。唯一の接点は、ネオナチのリーダーが、爆破事件を知って、それを自分たちの活動に利用しようと、偽の犯行声明を出したことである。他人の手柄を、横取りしようとすると、そこで墓穴を掘るという典型であった。

またまた、殺人マシーンのような男が登場する。人を殺すことに、何の抵抗感もない男として描かれている。自分の正体が明らかになるのを怖れ、それを隠すためなら、何人でも、誰であろうが射殺する男。最後は、ケルスティンとの一騎打ちに持ち込まれる。

面白い存在なのが、パウルの秘書、ロタ・ビョルクである。シリーズ二から登場、最初は健康志向だがちょっと太めのおばさんなのだが、だんだんと活躍する場が増え、今回はパウルの手足となって、背景を洗い出すなど、リサーチに活躍している。

 

茶色く染めた髪を流している、今回のケルスティン。

 

Himmelsöga (空の眼)

 

フィットネスセンターの一室に、頭から袋をかぶせられ、血を流しながら縛られている若い女性。手足のテープを切って脱出に成功する。クリスマスも近づいた日、街を歩くイーダとグナー。イーダはグナーが恋人に買うプレゼントを選ぶのを手伝っている。二人は血を流しながら歩道に倒れている若い女性を見つけて駆け寄る。女性は救急車で運ばれる。イーダとグナーは女性が出てきたと思われる建物に入る。そこはフィットネスセンターであった。ふたりはそこで、誰かが縛られて虐待されていた跡と、大量のステロイド剤を発見する。ふたりの警察官を、向かいの建物の窓から観察する男がいた。

ケルスティンは病気の息子を家に残して仕事に行く。彼女は携帯を息子の枕元に残し、

「何時でも電話をしていいから。」

と言って家を出る。パウルは保安警察の、トーレ・ミカエリスと昼食を採っている。トーレは翌日から休暇を取ることになっていた。パウルは、休暇中に読んでくれと、イアン・フレミングの本を渡す。

フィットネスセンターで見つかったのは五百万クローネを下らない、ステロイド剤と成長ホルモン剤であった。見つかった女性は、身体にひどい虐待の跡があった。彼女は意識不明の状態であった。

「マキスムス」という麻薬犯罪組織を、ストックホルム警察は追っていた。ケルスティンは、大量のステロイド剤を、「マキシムス」と関係のあるものとして、「Aグループ」で担当したいと署長のアルブレクトに提案する。ジョージ・カレラという男がフィットネスセンターのオーナーであった。彼が、愛人のミカエラ・ハリエの家に居ることが分かる。「Aグループ」のメンバーはミカエラの家に向かう。ケルスティンが息子からの電話を受けている隙にカレラは逃亡を図る。しかし、家の前で何者かに射殺される。

トーレは釣りをするために湖の畔のキャンプ場に着く。そこで、キャンピングカーの中に入って行く。その直後、キャンピングカーは爆発を起こす。パウルは保安警察のシグネの訪問を受ける。シグネは、トーレがキャンピングカーの爆発で死亡したことをパウルに伝える。シグネは、同僚のヘレナ・ルーフェルドが原因究明を担当するので、パウルに協力して欲しいと依頼する。

パウルはヘレナを訪ねる。ヘレナは、トーレは殺されたと確信していた。しかし、保安警察には余りにも敵が多くて、誰の犯行かは見当が付かないという。ヘレナはトーレの遺した膨大な資料に目を通し始める。ヘレナはミカエリスというトーレの苗字は本来の名前ではなく、スヴェンソンというのが本名だとパウルに言う。

ジョージ・カレラを殺した犯人のモンタージュ写真が出来る。ジョージの息子のセバスティアンは父親の経営するフィットネスセンターで働いていた。彼と、もう一人の息子であるマックスが警察の尋問を受けるが、二人とも大量の薬の存在や、女性の虐待とは無関係だという。そして、ふたりともアリバイがあった。マックスはモンタージュ写真がヴァルター・エングルンドという男に似ていると証言する。エングルンドは数多くの不動産を所有し、いくつかの会社の経営者として登録されていた。ホルヘとサラはエングルンドのアパートに向かう。そこでは浴室で若い女性が殺されていた。フィットネスセンターの女性と同じように、虐待され、頭に枕カバーがかぶせられていた。サラは窓の下にマックス・カレラを見る。

警察署長のアルブレクトは、私用電話をしている間に容疑者を殺されてしまったケルスティンの問責を、内部調査班に委ねると言う。その内部調査班の長はパウルであった。

マックスは、自分が疑われているのを察知して、身を隠す。警察は彼を指名手配する。

パウルは、トーレの遺した書類から、クリスマスケーキをホームに送った際の受け取りを見つける。彼はそのホームを訪れ看護師と話す。そこは、精神に障害を持つ患者の住む場所だった。看護師は昨日、ケーキが届けられたことを認める。そのホームにトーレ・スヴェンソンという、同姓同名の男がいた。彼は、パウルと会うと、トーレから預かったというメモリースティックを渡す。そこには「ユンカー」と書かれていた。

エングルンドの部屋で殺されていた女性は、身元が不明だった。指紋を隠すために指が焼かれていた。そして、彼女は不思議な花の刺青をしていた。検屍医見習いのヨーケは刺青に詳しく、その刺青を彫ることができる店は、ストックホルムに何軒もないと言う。ホルヘとアルトは、刺青の店を順番に回る。そして、エリーサ・アウグストソンという女性が、同じ柄の刺青を彫ったことが分かる。彼女は、建築士で二児の母だった。彼女はフィットネスセンターと関係がなかった。彼女は友人のハナ・ニルソンの家に行くと言って家を出たという。ハナは、ホテルで働いていた。最初の犠牲者の女性、アリースが意識を取り戻したという連絡が入る。グナーとアルトがホテルへ向かう。ホテルに、モンタージュ写真の男が現れる。イーダとサラが病院に向かう。アリースはエリーサ・アウグストソンを知っていた。高校の同級生だという。アリースは、エメリー、ハナ、エリーサと自分は、学校で親友だったという。犠牲者の関係が見つかった。サラはハナを訪れているアルトとグナーに警告を発する。ふたりはホテル中を探す。女性を追う男。グナーが追う。ハナは一室で殺されていた。顔に枕カバーが掛けられていた。グナーは地下の駐車場で男を取り逃がしてしまう。

マックス・カレラが警察に現れ、グナーと話したいという。マックスは、自分と弟に、警察の保護が必要だと訴える。グナーは、真実を話さない限り、警察は動けないと言う。

パウルはメモリースティックの中身を見る。それはリカルド・マティアス・ユンカーという警察官に関する資料だった。その男の写真を見て、パウルは直ぐに誰であるか分かる。それはモンタージュ写真の男、エングルンドだった。犠牲者の三人の女性と、エングルンド、そして麻薬組織「マキシムム」との関係は依然としてつかめない。

サラとイーダは犠牲者の高校の担任だった元教師、ソフィア・アルベティーナ・レディンを訪れる。彼女は退職して、絵画教室を開いていた。彼女は、精神に障害のある人々に、セラピーの一環として、絵を教えていた。サラは、犠牲者たちの写ったクラスの集合写真をソフィアに見せる。彼女は、非常に問題のあったクラスだったという。四人の女生徒がいじめを行っていた。その四人とは犠牲となった三人と、エメリーだった。ヨアキムという男子生徒が特にいじめの対象となっていた。そして、ヨアキムは電車に飛び込んだと言う。

アルトは、残るエメリーを警察に呼んで話を聞く。三人が同じ犯人と思われる人物から暴力を受けたことを聞き、エメリーはしぶしぶ自分がいじめのグループのリーダーであったことを認める。アルトは更に自殺したヨアキムについて尋ねる。エメリーは、

「ヨッケは死んでいない。彼を昨年見た。」

と話す。アルトは「ヨッケ」という名前に引っ掛かる。アルトは検屍医を訪れ、見習いの男性と話したいという。検屍医は、ヨッケは病欠だという。グナーとイーダがヨッケのアパートに向かう。ヨッケは自分と殺人は関係ないという。事実、彼にはアリバイがあった。

パウルは、内部調査班として、ケルスティンを呼び、話を聞く。ケルスティンは自分が私用電話中に容疑者の逃亡を許し、その容疑者が目の前で何者かに射殺されたことを認める。そして、その電話は病気の息子からだったと話す。パウルは、他の同僚と話した結果、ケルスティンの私用電話を全てが終わってからで、事件の帰結とは関係がないと言う。

ヘレナはパウルに、トーレが死んだキャンピングカーをもう一度調べてくれと依頼する。翌日、パウルはキャンプ場に着く。ヘレナが電話をし、すぐにその場を離れろと警告する。何者かがパウルを撃つ。彼は、何とか車に辿り着き、難を逃れる。パウルはケルスティンに、ヘレナについて調べるよう依頼する。パウルはヘレナの上司のシグネに事件を報告する。

メモリースティックの中身を調べたパウルの秘書のロタは、ユンカーが二〇〇二年に警察を免職になり、その後行方が分からないと言う。パウルは、ホルヘにユンカーに関する調査を頼む。

アルブレクトは、自分はケルスティンに麻薬組織の捜査を命じたが、いじめの殺人は「Aグループ」の仕事ではないので手を引けと言う。サラも、ケルスティンが違う方向に暴走していると考える。

ヨアキムの証言から、過去に学校で何が起こったのかが明らかになる。彼と、もう一人の女生徒が強制的にセックスをさせられたのだった。相手の女生徒は顔に枕カバーが被せられていたが、ヨアキムはそれが誰であるか知っていた・・・

 

クリスマスの前。どこもクリスマスツリーが置かれ、キャンドルに火がつけられている。スウェーデンのクリスマスの雰囲気を知ることが出来る。「Aグループ」はクリスマスまでに事件を解決できるか?というのが興味となる。しかし、「Aグループ」のメンバーは皆、ワークホリック、働き中毒である。夜遅くまで署に残り、ホルヘやサラは家に帰っても、ラップトップを前に仕事をしている。深夜まで働いているシーンがあって、翌朝のシーンを見ると、

「この人たち、何時寝ているんだろう。」

と思ってしまう。

保安警察の一員、トーレ・ミカエリスが殺される。彼は前作から登場している。パウルと仲良くなり、最初から「グディー、良い者」として描かれている。複数の系統の犯人による事件が並行して起こるというパターンである。ミカエリスの死と元秘密警察の容疑者、そして、三十代の女性の虐待、殺人事件である。それが最後に関連付けられる。今回も、「殺人マシーン」のような、人を殺すことに何の抵抗もない、秘密警察上がりの男が登場する。その設定は少し食傷気味。

学校時代のいじめの復讐というパターン。これも、スウェーデンの犯罪小説で何度も用いられている。アルネ・ダール自身が、後年、別のシリーズでも使っている。

泣いても笑ってもこれが最後。昨年の十一月下旬から丸三カ月楽しませてもらった。終わるのが寂しい。ホルヘとサラが次の子供を作るのか、パウルとケルスティンはよりを戻すのか、知りたいところなのだが、もちろん、続編がないので、それを知る術はない。ダール自身が、このシリーズを十作で打ち切っているため、続編の作りようがないのである。各作品二回ずつ見た。一度目は流して、二度目は時々とめてメモを取った。二度目でも楽しめた。本当に丁寧に作られたドラマで、面白い時間を過ごすことが出来た。原作も少し読んでみて、テレビ映画化で何が工夫されているかも知りたい。

20202月)

 

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