ギリシア音楽の夕べ

 

最初、海に入るには少し勇気が要る。

 

娘たちが浜で寝ている間に、僕と妻は、海に入ってみた。水温は二十五度前後だと思う。入れなくはないが、結構冷たい。五分くらいいると、身体が水温に慣れて来るが、十五分くらいが限界で。今度は身体が芯から冷えて来る。浜に上がって、太陽の下で温まる。

「塩水に浸けて天日で乾かして、鯵の干物を作っているようなもんや。」

こんな生活を一週間続ければ「人間の干物」になること間違いなし。

夕方、五時前にホテルに戻り、シャワーを浴びてから、いつものようにミドリ妻と三人でプールサイドに行く。やることはいつも同じ。ビールを飲みながら、ポーカーをするのである。ビールは飲み干せば、またバーから貰ってくればよい。一日太陽の下で過ごした後のビールは美味い。家族でポーカーをしても、イマイチ面白くない。妻に勝っても負けても、同じ財布から出る金だから。

 七時になって、ポーカーを止め、スミレも入れて食堂に向かう。肉料理を食べてみるが、串に刺した豚肉はちょっと焼き鳥風(塩味ね)、牛肉も何となく照り焼きっぽくて、結構いけた。実際、ギリシア料理やトルコ料理は、日本の味付けを彷彿とさせるものがある。

今日は妻の誕生日。夕食の後、部屋に戻ってから、娘が食堂から貰って来たケーキの上に、一本ロウソクを立て、「パッピーバースデー」を歌って祝う。

 その日の夜、プールサイドのバーで、「ギリシア民族音楽、民族舞踊の夕べ」というのがあった。その日の夕方から、そのアピールのために、趣向が凝らされていた。夕食の際、古代ギリシアの長い布を巻いたような服(アリストテレスやソクラテスが着ているやつ)を着たスタッフが、食堂に入る客に「ウーゾ」と呼ばれるギリシアの酒を振る舞っていた。「ウーゾ」はアルコール度数が四十パーセントある、ギリシア特産の蒸留酒であり、ハーブで独特の香りが付けてある。空きっ腹に飲むと、胃の中がカッと熱くなる。

 九時半になり、妻と、ミドリと三人で見に行く。二人のミュージシャンと、四人のダンサーが、ギリシアの音楽を奏で、踊る。楽器はブズーキというマンドリンのような形をした弦楽器とキーボード。メロディーに影が差すというか、短調と長調が、一小節ごとに入れ替わるのが、なかなかいい。最初にジュディ・オングの「魅せられて」について少し触れたが、よく聴くと、あの中でもギリシア風の旋律と、ブズーキが使われている。

「ギリシアの音楽と言ったら、これしかないよな。」

と思われる、「その男ゾルバ」よか、「日曜はダメよ」など、映画で有名になった曲も披露される。一人の男性、二人の女性、計四人のダンサーは黒と赤を基調にした民族衣装を着ている。

「でも、外国からの出稼ぎの人たちやったりして。」

ホテルには、ルーマニアとかアルバニアから出稼ぎにきた人が結構沢山いる。司会者は、英語、ドイツ語、フランス語で同じことを言う。これで、大体のホテルの客層が分かる。

 

ギリシアのダンスは、基本的に、横一線で腕を握って踊る。

 

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