吟醸山田錦とコーヒーゼリー

 

居酒屋で、イズミと。刺身とピザを一緒に食べる。

 

父の夕食は午後六時。またまた愛想の無い「宇宙食」。父がむせずに無事食べ終り、その後しばらく車椅子に座り、ベッドに戻った午後七時、病院を出て、タクシーで千本丸太町に向かう。もうさすがに自転車を漕ぐ気力は残っていない。

親友のイズミが今日はそこで働いており、彼女の仕事が終わった後、一緒に食事をすることになっていた。

「千本丸太町南西角」で約束したのに、僕が勘違いして「南東角」で待っていたので、会うのが遅れる。

「ごめんごめん。最近京都に地理に疎くて。」

言い訳をする。彼女は相変わらず痩せてはいるが元気そうだった。

「お父さんどう?」

とイズミ。

「かなり元気になってきた。」

「よかった。やっぱり、戦中戦後を生き抜いてきた人は強いなあ。」

「ほんまや、足なんか、筋肉が無くても骨だけで歩いてる。」

近くの居酒屋に入る。僕はどちらかというと「蛸ブツ」とか「冷奴」とかあっさりしたものでいきたいのだが、彼女は腹が減っているのか「ピザ」とか「カリカリポテト」とか、こってり系を注文してくる。仕方なく、「蛸ブツ」と「ピザ」を一緒に食べる。

僕は生ビールを、彼女はアルコールフリービールを飲みながら話をする。話のテーマはお互いの娘達のボーイフレンドのことが多かった。どうも娘達というものは親の望んでいるような男の子を見つけてはこないものらしい。それに反対するか、無視するか、認めてしまうか、親としての行動は難しい。

九時前に居酒屋を出て、彼女の運転で北へ向かう。何となく別れ辛くなって、ファミレスに入り話を続ける。僕は「吟醸山田錦」をイズミは「ココナッツクリーム入りコーヒーゼリー」を注文。

「これ美味しいで、ちょっと食べてみ。」

イズミは僕にもスプーンを向ける。

「どないして『吟醸山田錦』を飲みながら、『コーヒーゼリー』が食えるねん。」

と言いながらも僕は一口いただいてしまった。

高校時代、彼女と僕は同じバスで通学していた。市バスの「五十九番」。

「今でもそのバスを見るたびにイズミのことを思い出す。」

と言うと、

「ケベはたまのことやしええやん。わたしなんか、毎日『五十九番』見て、毎日ケベのことを思い出してるんやで。」

それはご愁傷様。十一時過ぎ、北大路まで彼女に送ってもらい、ハグをして別れる。

 

暑い日の午後、鴨川で涼んでいるのは人間だけではない。

 

<次へ> <戻る>