中華料理店のシャーロック・ホームズ

 

ヴィックラート城の堀。堀を挟んだ向かい側に中華料理店がある。

 

金曜日の帰り道、またヴィックラートの温水プールに寄り、横に張られたロープを潜って避けながら泳ぐ。泳ぎにくいが、ここのプールは水温が高いので、ゆっくり泳ぐ者には助かる。泳ぎ終わって外に出ると、激しい雨が降っていた。身体はホカホカしている。

いつもの中華料理店で夕食。ここのレストランでも、僕はもうかなり「常連」になっている。

「あんた、英国から来たんだろう。」

と店の主人が僕に言う。

「そうだけど、どうして分かったの。」

と不思議に思って尋ねる。僕は彼とはドイツ語でしか話したことがない。僕のドイツ語に英語訛りがあるのだろうか。

「あんたのリュックサックについている飛行機会社のタグだよ。」

店主は言った。見ると、「ヴァージン・アトランティック航空」のタグがつけたままになっていた。

「『ヴァージン』は英国にしか飛んでない。」

なかなか観察眼の鋭い、シャーロック・ホームズみたいな親爺だ。

ホテルに戻る。週末だ。それも月曜日は「プフィングステン」(聖霊降臨祭)でお休みなので三連休。来週もドイツで働くので、僕には、英国に一度戻る、ドイツで週末を過ごす、というふたつの選択肢があった。僕はドイツに留まることを選んだ。飛行機で移動するというのは結構身体が疲れるものなのだ。先ほども書いたが、僕は三連休の間、昔六年間住んでいて、三人の子供達もそこで生まれたマーブルクを訪れようと思っていた。

土曜日、五時半頃からまた散歩する。毎日十時には眠りに入っているので、それなりに結構眠っている方だ。散歩から戻って少しキーボードの練習をする。発表会も近いが、今回はあまり練習していない。

八時ごろ食堂に降り、たっぷりと朝食を取る。ここのホテルの朝食は豪華だ。しかし、今回、生野菜、キュウリとトマトがない。ドイツでは五月の終わりごろから、毒性の強い細菌による食中毒が発生し、何十人もの死者が出ている。しかし、その原因がまだ特定されていないのだ。昨日のニュースによると「モヤシ」だったのだそうだが、最初はスペイン産のキュウリとトマトが「犯人」として疑われた。それでドイツの食卓からトマトとキュウリが消えたのだ。スペインやその他の国で、大量のトマトとキュウリが売れずに廃棄されている様子がテレビに写っていた。

朝食後、荷造りをする。三日間、ホテルを空けるので、荷物を全部車に積まなければならないのだ。ラップトップパソコンは会社に置いたまま。ということは週末の間Eメールをとる手段はない。父は危機を脱したようだし、何かあればマユミから携帯に電話かテキストがあるだろう。

 

堀端に咲くピンクの野草。

 

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