開演!

 

ボウルの縁に立てられて棒の上での演技、この後、ポチャンと水に入り、水中の演技になる。

 

今回の出し物は「アルマ・ルナ」というらしい。ポスターは、フラフープのような輪の中に、若い女性がいる写真のほかに、「今日のお料理」で卵の白身を泡立てるときに使うような、透明のボウルを大きくした容器の中に、水が入っていて、その中に若い女性がいる写真もある。

「まるで金魚鉢の金魚やね。」

「一体これからどんなものが待ち構えているのかな。」

否応なしに期待が膨らむ。

 会場のロイヤル・アルバート・ホールは、今を去ること約百五十年前、一八七一年に完成した、円形の建物である。日本は明治維新の真最中、廃藩置県が行われた年だ。メチャ古く見える現在休館中の京都の南座でも九十年前建物。

「百五十年前に作られた建物が、今も現役で普通に使われてる。そんなところが、古いものを大切にする英国らしいね。」

僕は妻に言った。最初にロイヤル・アルバート・ホールに入ったとき、僕は大阪の京セラドームに似ていると思った。バルコニーのような円形の観客席が何層にもなって作られており、観客席の傾斜が結構きついところなどそっくり。しかし、もちろん、ロイヤル・アルバート・ホールが先であることは言うまでもない。

ホールの廊下には、これまでここで公演をしたアーティストの写真が飾ってある。マリア・カラスやルチアーノ・パバロッティなどのオペラ歌手、カイリー・ミノーグ、エルトン・ジョンなどのポップ歌手、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルなどのロックバンド、ノーベル賞をもらったボブ・ディランなどの他に、何故かアルバート・アインシュタインの写真があったりして。

「さすがアインシュタインさん、八千人入場できる会場で講演しはったんや。」

とにかく、実に多彩な顔触れである。このホールでは毎年夏に「BBCプロムス」というBBC主催の音楽祭が一か月間催されており、それには何回か行ったことがある。その夜、僕たちは舞台を真横から見下ろす左側のバルコニーに席を取った。

ホール着いたのは七時二十分頃。開演は八時なのでまだかなり時間がある。ちょっと長いなと思ったけれど、その間の退屈しのぎも用意されていた。客席に太鼓を叩く人や、道化が現れる。トカゲに扮した人が舞台でポーズを取る。そんなちょっとした演出を見ているだけで、楽しいし時間が早く過ぎる。ストール、平土間の半分ぐらいがステージになっていて、残りの半分が客席になっている。ステージの上には、金属で組んだ、かなり大掛かりな装置が天井から吊り下げられている。全てが、組み上げるのに何日にかかると思われる大層なものだ。舞台装置が、何となくカメハメハ大王のいるような「南の島」を思い起こさせた。そんな僕の印象が合っていたことが後で分かった。

舞台が始まった。ミランダという白いミニドレスを着た小柄な女性と、ロミオという男性が恋人同士であることは分かる。しかし、彼らを一緒にすまいと、色々な妨害が入るということも分かる。何かストーリーがあるらしいが、理解できない。

 

サーカスにピエロ、道化役はつきもの・その伝統は保たれていた。言葉で笑わせることができないのが難しところ。