静かな場所

 

街の中に忽然と現れる広大な湖。春は桜の名所とのこと。テレビ塔が見える。

 

「バイバ〜イ!」

僕と妻と娘たちは、タクシーに乗ってホテルを去っていく、ワタルとゾーイを見送った。

「さて、これから、どこへ行こうか?」

と僕が他の三人に尋ねる。

「どこか、人の少ない静かな場所!」

と娘たちが言った。

「賛成!」

故宮、慕田峪、頤和園と、僕たちは人ごみに揉まれすぎた。静かな場所で、一息つきたいというのが、皆の正直な気持ちだった。

「地下鉄一本で、三十分ほど行ったところに、『ユーユァンタン・パーク(玉渊潭公园)』というのがあって、湖の畔を散歩出来るの。良い所だと思うけど。」

と、その日の朝、地図で調べておいた妻と僕が提案する。

「本当に静かなの?」

と、娘たちから疑問の声。

「大丈夫、大丈夫!」

と僕は何の根拠もない保証をする。

 午後二時半に、僕たち三人はホテルを出た。最寄りの地下鉄の駅の位置、地下鉄の乗り方は、その日の午前中、ゾーイも含めた娘たちと妻が、チャイナドレスを買いに行っている間に、僕が調べておいた。ショッピングモールを抜けて、地下鉄「国(グオマオ)」駅へ。そこから地下鉄一号線に乗って、「軍事博物館」駅へ向かう。北京の地下鉄は清潔で、しかも安い。切符は軍事博物館まで一人四元、六十円である。もちろん、自動販売機では、きっちりの金額を払わないと、切符は出てこない。昼過ぎの時間帯にも関わらず、地下鉄は混んでいた。本当に、どこへ行っても人が多い。

 軍事博物館駅で降りて、十分ほど歩く。北京へ来て初めて青空が広がり、そうなると今度は歩いていて結構暑い。玉渊潭公园に着いた。北京の街の中、オアシスのように、湖が広がっている。そして、そこは見事に人が少なかった。

「やった〜、人がいない!」

涼しい風が湖面を吹き渡る。僕たちは、ホッとした気分で、湖畔のベンチに座って、一息ついた。近くでは、年配の男女が、ラジオ体操のようなものを、音楽に合わせてやっている。お祖父ちゃんが孫を連れて散歩している。完全にローカル、地元民の世界。

「疲れたからベンチで寝てる。」

というスミレを置いて、僕と妻とミドリは湖畔を散歩する。少し行くと、水辺に中国風の庭園が造られており、石の橋の下には、蓮がピンクの花を咲かせていた。「遊泳禁止」の立て札の前で、泳いでいる人がいる。通りかかった係員は何も言わない。

 

なかなか落ち着いた雰囲気の中国風庭園。蓮の花が、彩を添える。

 

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