ハピー・ニュー・イヤー

ブリッゲンでビールを飲む。午後八時半。

 

日曜日の朝の午前六時過ぎ、妻と僕はブリッゲンの向い側の波止場を散歩していた。見事に誰も居ない。日没が十一過ぎなので、皆真夜中過ぎまで起きていて、朝起きて来られないのだろう。ゴーストタウンを歩いているよう。そんな中、スーツを着たふたりの若い男性に出会う。

「ハピー・ニュー・イヤー!」

とひとりが言った。

「ハピー・ニュー・イヤー!世界中には色々な宗教があって、それぞれ新年が違うんだって。世界中の宗教を全部集めたら、毎日が『ニュー・イヤー』らしいよ。」

と僕が言う。

「こんな朝早く、君たちは何をしてるんだね。」

ともうひとりが言う。

「散歩。歳を取ると朝早く目が覚めてね。ところで君たちこそ何してるの。」

「今までパーティーをしてたんだ。これから帰って寝るところ。ハピー・ニュー・イヤー!」

ふたりは去って行った。夏至の日の翌朝には、こんな人たちが沢山いるのだろう。

 夏至の日曜日、フィヨルド観光から戻った僕たちは、ブリッゲンの前の屋外のカフェで、ビールを飲んだ。もう八時半だが、空は青く、風は爽やかで、太陽がまだまだ高い位置にあり、日の当たる場所にいると暖かい。最後の夜なので、僕たちはブリッゲンの一番高級そうなレストランで食事をすることにした。妻が「シーフードの盛り合わせ」などと高そうな料理を注文している。エビとカニや貝がやってきた。僕は、日本と並ぶ捕鯨国のノルウェーに敬意と共感を示すために「クジラのステーキ」を注文。国際捕鯨委員会で、商業捕鯨はほぼ禁止されてしまったが、どうして海のない国が委員会のメンバーで、捕鯨に反対しているのか、いまだによく分からない。乱獲はよくないが、資源が枯渇しない程度なら、クジラを獲って食べてもよいと思うのだが。

「クジラを食べるなんて可哀想、なんて言ってるどこかの国の人たちが、犬でキツネを追い掛け回して、シカやウサギを獲って食べてるんだよね。」

と、クジラのステーキを分けてあげながら、僕は娘に言った。

 午後十時半過ぎにレストランを出た僕たちは、オールドタウンを通ってホテルまでブラブラと歩いて帰る。太陽はさすがに低くなり、建物の上の方だけをオレンジ色に染めている。

 翌朝、月曜日の朝七時過ぎにホテルを出た僕たちは、タクシーで空港に向かう。

「ノルウェーは物価が高いですね。困りませんか?」

とタクシーの運転手に尋ねる。

「でも、その分給料も高いから、それほど感じないけど。」

とのことだった。先にも書いたように、為替レートなどというものはコロコロ変わる基準で、それを基に換算するものだから、他の国の人にはとんでもなく高く感じたり、安く感じたりするが、実は、その国の中で、経済は完結しているものなのである。

 飛行機は定時にベルゲンを発ち、ガトウィック空港に到着。しかし、その後入国審査で四十五分待たされ、電車が遅れて乗り換えで三十分以上待った。ノルウェーから英国へ移動する時間より、ロンドンに着いてから家まで移動する時間の方が遥かに長い。う〜ん、さすが英国である。

 

お腹が膨れてホテルに寝に帰る。午後十時半。でも、こんなに明るくて寝る気しますか?

 

<了>

 

<戻る>