オーサ・ラーソン

Åsa Larsson

 

 

「白夜」

ドイツ語題:Weisse Nacht (白夜)

原題:Det blod som spillts (血の飛沫)

2004

 

<はじめに>

 

スウェーデン人のラーソンと言っても、「ドラゴン・タトゥーの女」のスティーグ・ラーソンではなく、女性作家のオーサ・ラーソンである。一九六六年生まれのラーソンは、シリーズの主人公レベッカ・マルティンソンと同じく、税金対策の弁護士をしていたという。女性作家ということで、物語で活躍する人物は徹底して女性、

「この人、男性は嫌いなの、男性に恨みがあるの?」

と問いたくなるくらい。

 

<ストーリー>

 

スウェーデン、北極圏のすぐ下にあるキルナのユカスイェルヴィ教会で夏至の夜、その教会の女性牧師ミルドレッド・ニルソンが死体で発見される。彼女は自分の働く教会の礼拝堂で、顔の形が変わるほど殴られ、教会のオルガンに鎖で吊り下げられていた。
 前任の牧師である、ヴィクトル・ストランドゴルドも二年前に殺されていた。その事件に関わった弁護士のレベッカ・マルティンソンは、正当防衛で三人の犯人を射殺してしまった。そのトラウマから仕事が手につかず、しばらく療養していたレベッカは、九月のある日、自分の勤める法律事務所のパーティーに顔を出す。その席で、彼女は上司に仕事を再開しないかと勧められ、手始めに、ユカスイェルヴィ教会の財産管理の仕事を任される。

彼女は同僚と共にキルナへ向かう。キルナはレベッカの生まれ育った土地でもあった。彼女は教会で、殺されたミルドレッドの後任であるステファン・ヴィックストレームと会う。殺されたミルドレッドの官舎には、彼女の夫がまだ住んでいた。官舎の明け渡しを要求しに行ったレベッカは、ミルドレッドの持っていた教会の鍵束を夫から受け取る。その鍵のひとつに、教会の事務所にある金庫の鍵があった。レベッカが金庫を開けると、そこにはミルドレッドに対する数通の脅迫状が入っていた。殺された女性牧師は、何者かに脅されていたのだ。彼女はその脅迫状を警察に渡すことにする。
 レベッカはキルナの街の、倉庫を改造した安宿に泊る。食堂を兼ねたその宿を、リザという女性と、その娘のミミが切り盛りしていた。そこでレベッカは知恵遅れの青年、テディーに出会う。彼は、退官した警察官、ラッシュ・グナーの息子であった。
 教会の関係者や町の人間と話すうちに、ミルドレッドは町の女性には頼りにされていたが、男性には疎まれていたことを知る。そもそも、町の男性の大多数が、「女性の聖職者」を認めていなかった。
 ミルドレッドはこの町に赴任すると、女性たちのために色々な活動を開始した。町のスポーツ施設を女性たちに開放し、女性だけの聖書研究会「マグダレーネ」を発足させた。また、家庭内暴力に悩む妻たちを助ける活動をした。夫から逃げてきた女性に、自分の家を開放した。そのため、家庭内暴力が原因で妻が家を出た夫たちの中には、ミルドレッドが妻に家出をそそのかしたと考え、恨む者もあった。

極め付けは、彼女が教会領の敷地に住み込んだ狼の保護運動を始めたことである。これにより、彼女は町の有力な組織である(それは男性ばかりの集まりなのであるが)「狩猟協会」をも敵に回すことになった。
 ミルドレッドの敵は、教会の外だけではなかった。新任の牧師もかつてミルドレッドと一緒に働いていたとき、彼女に人前で言い負かされて、彼女を嫌っていた。

また、ミルドレッドはレスビアンであり、宿を経営するリザと恋愛関係にあった。しかし、ふたりの関係は最近しっくりとは行っていなかった。
 キルナ警察署の女性警部であるアンナ・マリア・メラは、出産後の休暇中であった。しかし、ミルドレッド・ニルソン殺しの捜査が全く進展しないため、上司に早めに職場に戻るように要請される。
 アンナ・マリアは二年前のヴィクトル・ストランドゴルド殺人事件でレベッカとも顔見知りであった。アンナ・マリアはレベッカから、教会の金庫に入っていた脅迫状を受け取る。彼女は、その金庫の存在すら見つけられなかった同僚に、失望をし、自分が捜査のイニシアティブを取ることにする。
 教会の関係者やミルドレッドの夫、知人を訪れたアンナ・マリアは、ミルドレッドの車のタイヤがパンクされられたり、彼女の家の納屋が放火されたり、色々な嫌がらせを受けていたことを知る。

アンナ・マリアはミルドレッドを良く思っていなかった男たちをひとりひとり訪れる。ある者は妻との離婚をミルドレッドのせいにし、ある者は狩猟協会の組織にまで口を出すミルドレッドを恨んでいた。町の男性の殆どがミルドレッドを憎んでいるが故に、そして、その中の誰かが彼女を殺した犯人がいる可能性が高いのだが、余りにも候補者が多いために、捜査の的を絞りきれない。また、町の男性たちが、集団で犯人を庇っているということも考えられた。
 仕事を終えたレベッカであるが、しばらくキルナに留まることにする。彼女は知恵遅れの青年テディーを連れ出し、また宿で経営者のリザを手伝う。テディーは身体こそ大人だが、心は子供で、その純真な心にレベッカは惹かれる。テディーはミルドレッドの写真を見て、

「ミルドレッド、ブランコ」

と言う。レベッカにはその意味が分からない。

 進展しない捜査に焦りを覚える警察に、新たな事件が舞い込む。ミルドレッドの後任者、ステファン・ヴィックストレームが行方不明になったというのだ。もしも、彼が殺されたのならば、教会の三代の牧師が、全て殺されたことになってしまう・・・

 

<感想など>

 

突然過去が現在の中に入り込む。聴いていて、ちょっとややこしい。殺されたミルドレッドが登場し、会話をし始める。それが、過去の出来事だと理解するまでに少し時間がかかる。ミルドレッドを巡る過去の出来事と、それが現在にもたらした帰結を、つなぎ目なしに描こうという作者の意図は分かるのだが。

主人公レベッカ・マルティンソンは弁護士で、一民間人である。世の中には、アガサ・クリスティーの「ミス・マーブル」シリーズのように、一介の民間人が事件を解決していく推理小説も多い。しかし、民間人が事件を解決するパターンは、偶然に頼りすぎるという難点がある。警察官ならともかく、そもそもひとりの民間人が、一生に何度も殺人事件に関与することなんてあるのだろうか。この小説を読むと、その設定に、少々無理を感じる。作者は、前回の事件と今回の事件を絡めて、出来るだけ不自然さを除こうと努力しているのだが。

女性作家の作品と言いながら、ここまで男性を排除する必要があるのか、と考えてしまう。殺された女性牧師のミルドレッドは男尊女卑のはびこるスウェーデンの田舎町に、徹底した女性の人権運動を繰り広げる。彼女は町の全ての男性を敵に回すが、それでも前に進む・・・そこまで書いて、ミルドレッドこそ、作者オーサ・ラーソンの分身ではないかと思ってしまった。

スウェーデンの小説は、中立的で、透明で、どの国の読者にも読み易く、それゆえに人気がある。しかし、この小説は、スウェーデンの文化と伝統の色が濃い。他国で受け入れられるかな、と考えた。しかし、ドイツ語や英語で翻訳が出ていることが、この小説の魅力の証明だろう。女性の読者が多いのだろうか。

 

20129月)

 

書評ページ