小さい子供と付き合うコツ

次から次へと色々な物を見せてくれる四歳のナツ。

 

 きみも小さい子供たちと遊ぶのが得意だと言ってたよね。実は僕も小さな子供が大好き。子供ってのは誰が味方で誰が敵かを本能的に感じ取る能力があるんだね。何故か幼い子供たちは、僕に全然警戒心を抱かないようなんだ。僕の周囲にそんなオーラ感じるかい。小さな子供と仲良くする「コツ」ってのがあるのかどうか分からないけど、僕は、小さな子供と話すときは、最低、目の高さを同じにしてから話している。それくらいかな。

 日本を発つ二日前、僕は母と、姪の家を訪ねたの。京都の隣の県の、近江八幡って町。姪はこれまでアパートに住んでいたんだけど、夏に新しく買った家に引越したの。それで、彼女の新居を母とふたりで訪れることになった。姪には四歳のナツと六ヶ月フユっていうふたりの娘がいる。特に、四歳のナツは僕の来るのを待ち構えているのだ。小さな子供と遊ぶときはそれなりの忍耐が要るよね。僕もその日はそれなりに覚悟していた。今日はじっくり子供と遊ぶぞって。

京都駅から電車に乗り、三十分ほどで近江八幡に着いた。改札を出ると、抱っこ紐に下の子フユを入れ、上の子ナツの手を引いた姪が待っていた。彼女の運転で新居に行く。家に着くと同時にナツに、

「モトおじちゃん、こっちこっち。」

と二階の子供部屋に連れて行かれた。そして、

「おじちゃん、これ見て、おじちゃんあれ見て。」

と、息も尽かさず色々な物を見せられた。僕はナツを見ていて、彼女の母親である姪を思い出した。当時、北海道っていう日本の一番北の島に住んでいた姉の家を、大学生だった僕は休暇中によく訪れたわけ。「こんにちは。」って入っていくと、姪が僕の到着するのを待ち構えていて、カバンを置く暇もなく、彼女の部屋へ連れて行かれ、色々なものを見せられ、色々は話を聞かされた。姉はそれを、「聞いて聞いて攻撃、見て見て攻撃」と名づけていた。ナツの相手をしていると、彼女と母親である姪が完全にオーバーラップしてくるんだよね。

 その日はナツと一緒に遊んで、一緒に彼女の幼稚園の、運動会や学芸会のビデオを見た。昼は一緒に近くの「ヌードルレストラン、うどん屋」で昼食。昼からは、ナツのリクエストに応えて色々な絵を描いてあげた。

 ボチボチ四時近くになって、僕と母は帰る時間になった。すると、ナツはその気配を察して、とたんに機嫌が悪くなり、ぐずりだした。当然だよね。一日一緒に遊んで、急に夕方になったからバイバイというのは、子供にとってかなり残酷な話だもの。大泣きしているナツを無理矢理車に乗せて、姪は僕と母をまた駅まで送っていった。車から改札口までは、僕がナツを抱っこして。最後は泣き止んだかな。

 改札口をくぐって、ホームに出た。母と僕が乗る電車が来るまでにまだ十分ほどある。ふと見ると、向こう側のホームのそのまた向こうの金網にピンクのセーターを着た小さな女の子が張り付いている。ナツだ。僕が彼女に手を振ると、彼女も手を振り返してくる。僕は電車が来るまでずっと手を振り続け。電車が着てからも窓越しに手を振った。電車が動き出し、ナツが見えなくなるまで僕は手を振っていた。最後は腕がかなり疲れていたけど・・・

 

今回初めて出会った下の娘のフユ。

 

 <戻る>