ジャネーの法則

 

この日からまだ一カ月経ってないの?ウッソ〜って感じがする。

 

「生涯のある時期における時間の心理的長さは、年齢の逆数に比例する(あるいは、年齢に比例する)。」

と主張したのは、十九世紀のフランスのグ哲学者ポール・ジャネーと、その甥の心理学者ピエール・ジャネーである。これを「ジャネーの法則」と呼ぶ。

今六十二歳の僕は、一年の長さを人生の六十二分の一に感じている。僕が六歳の頃には、一年の心理的な長さを人生の六分の一に感じていた。つまり、今の自分にとっての十年間は、六歳の頃の僕の一年間に相当するということになる。逆に言うと、六歳の頃の僕の一日は、今の僕の十日分の(あくまで心理的な)長さがあったという。

ジャネーの法則は、

「歳を取ると、一年がアッと言うまだよね。」

という万人の印象に対する、心理学的な一考察なのである。

「じゃあね、その根本的な原因は何なのよ?」

とジャネーに反問してみたくなる。

一般的に言われているのは、

「子供にとっては新しいことが日々起こり、待ち遠しい出来事が多くあるので、時間がなかなか経たないと感じる。大人は日常生活がルーチン化し、新しいことがあまり起こらないので、時間が早く過ぎると感じる。」

ということらしい。確かに、同じ時間の長さでも、イベントの数が多ければ多いほど、長く感じられる。それは、年齢を経ても同じだと思う。例えば、仕事を変わったときなど、前の会社で働いていたときのことが、遠い遠い昔のように感じられる。たった数ヶ月前なのに。

「そ〜いえば、Nで始まる会社に、勤めていたことがあったよなあ。」

新しい職場で、色々なことを覚えながら、ボンヤリとそんなことを考えている自分がいた。

今回も同じことを感じる。九月の終わりに、息子の結婚披露宴に出席するために日本へ行き、英国に戻ったのが十月中旬、何と、帰って来たのはまだ二週間前である。そのときに引いた風邪がまだ抜けきっていないくらい。それなのに、金沢での披露宴、その後息子夫婦と嫁のご両親を連れての京都観光、京都で友人と過ごした時間、それらは、夢の中のような、霧がかかったような、数カ月、いや数年前の出来事のように、妙に非現実的に感じられるのだ。

冒頭で、「同じ時間の長さでも、イベントの数が多いほど、長く感じられる」と書いたが、今の僕の心理を分析すると、日本に居る間、僕にとって、ものすごく沢山のイベントがあったということになる。結婚披露宴の話題は早々とエッセーに書いた。それが今回のメイン・イベントであったのだが。でも、それだけではない。二週間が一年にも感じられるほどの、その他のイベントもあったのだ。そう考えると、前後の出来事なども書いてみたくなった。今となっては「遠い遠い記憶」をほじくり出しながら、筆を進めることにする。

 

<次へ> <戻る>